八話 ちょっとした過去
俺が仕えているのは、この国の姫だ。そして、俺が好きなのも、その姫…クレアーナ様だ。俺的には、結構アタックしてると思うんだけど、お嬢は気づかないんだよね。
俺は、また大きなため息をついた。
それに、学園に通い始めてから、なんか、お嬢、めっちゃ男に見られてるし。確かにお嬢は、美人だし、優しいし、可愛いけど、見られてるだけでも、なんか嫌。俺、結構、昔からお嬢のこと好きだったんだよね。
そうそう、あの頃は、よく一緒に遊ぶ、普通の女の子だと思ってたんだ。
*・*・*・*・*
その頃僕は、村でいじめられていた。親もいなくて、でも唯一の救いが、森でたまに会える女の子だった。
「アル兄!一緒に遊ぼ!」
可愛らしい青い服を着ている女の子が、角のついた男の子に話しかけている。
「いいよ。何して遊ぶ?」
「だるまさんがころんだ!」
「ダルマサンガコロンダ?どういう遊び?」
アルロが不思議そうに首をかしげると、
「アル兄、知らないんだ。」
と小さな声で言った。
「うん、わかんない。」
女の子は、少し残念そうにした後、とても小さな声で、
「そっか、この遊びはこの世界にはないんだ。」
と言ったが、アルロの耳には入らなかった。
「じゃあ!うちに遊びに来る?」
キラキラとした笑顔で女の子が問うと、
「いいけど、どこに住んでるの?」
とアルロが言った。
「すぐ近くだよ!」
そう言うと、女の子は走り出した。アルロもその後を追うと、そこには、美しい白い壁が立っていた。
アルロは驚いて女の子の方を見ると、女の子は、白い壁に向かって呪文を唱えていた。
「土の精霊よ私の前に立ちはだかる壁を壊し、私の前に道を築け。」
女の子が呪文を唱え終えた瞬間、女の子の前の壁が消え、そこから真っ直ぐに土が盛り上がり、道が出来た。
「どう?すごいでしょ?」
得意気に聞いてくる女の子にアルロは頷くことしかできなかった。
すると、女の子は、
「ついてきて。」
と言い、道の上を歩いて行った。アルロも慌ててその後を追う。それからしばらく歩くと、女の子が白い大きな木の前で、急に立ち止まり、木に向かって、
「お父様、只今、帰りました。道を開けてください。」
と言うと、
「遅かったな、クレアーナ。今日はどこに行っていたんだい?」
と言った。なんと、木が喋ったのだ。
「今日は、鬼人族の村の近くへ行きました。」
「鬼人族か、けがはしなかったかい?」
「はい。大丈夫です。早く、道を開けてください。」
女の子が少し、圧をかけながら言うと、
「はいはい。わかったよ。」
木がどこか不満げにそう答えた。そして、大きな声で
「みんな~、道を開けて~。」
と言った。すると、目の前に在ったはずの木が無くなり、代わりに、おおきな門が現れた。
「アル兄、大丈夫ですか?」
女の子は、心配そうにアルロの方を向くが、アルロはそれに気づかず、口をあんぐりと開けているだけだった。
「アル兄、こっちです。」
女の子は、アルロの手を引いて門をくぐった。門の先にはこれまた真っ白で美しい壁に青い屋根の大きな城が立っていた。女の子はアルロの手を引きながら、すたすたとお城の扉の前まで行くと、
「開けてください。お父様。」
と言った。すると、ゆっくりと扉が開いた。
中には若い男性が一人立っていた。
「おかえり。クレアーナ」
男性はクレアーナに笑顔を向けると、アルロの存在に気付いたのか、首を傾げた。
「クレアーナ、誰だいその子は?」
「はい、この子は森で会った鬼人族の男の子です。」
「どうして連れてきたんだい?」
男性は不思議そうに聞いた。
「それは、アルロ、身内がいなくて、村でいじめられていたので、一緒に住めたら、と思って。」
「そうだったのか。キミはクレアーナと一緒に住むのはいいのかい?」
アルロは、なぜそんな話になっているのか分からなくて咄嗟に
「はい。」
と言ってしまった。
それから、とんとん拍子に事が進んでいき、アルロは気づけばクレアーナの従者になっていた。
あの頃は、村に帰っても、つらいだけだったから、クレアーナの従者になったけど、あの時、『はい』って言ってよかった、そのおかげで今、お嬢の一番近くに居られるからな。まあ、その後、色々あったけど、それはまた別のお話。