『駅の叫ぶ男たち』
僕は東京駅新幹線のホームに立っていた。夜のホームには旅行客の姿は見当たらなく、ビジネス利用だろうスーツ姿の客がちらほらだった。
……すると目の前の階段から一人の男が歩いてきた。男は上等そうなスーツで身を包み、どこかの大企業の重役クラスの風格を漂わせていた。
なぜか男は僕の方へと近づいてきた……。歩く男は僕の数メートル前まで近づくと、おもむろにマスクを外して言った。
「……君もマスクを外したらどうかね?」
意味が解らなかった。だが男の言葉になぜか僕は引き込まれて、僕もマスクを外して言った。
「……何か御用でも?」
男は数歩ずつ僕に近づいてきた……。気が付くと、彼の顔は僕のすぐ目の前だった。
「……私は新型コロナに感染している……」男は言った。
僕らの間に沈黙の時間が流れた……。
「君はもう、おしまいです……」
確かにこのソーシャルディスタンス完全無視のありえない距離感では、僕はもうおしまいだろう……。
「お・し・ま・い・DEATH!!」親指で首をかき切る仕草をして男は叫んだ!
僕の全身に彼の叫びから飛沫が降りかかった。
「ふざけるな!!」僕は叫んだ!
「あなたのような立派な大人が、なぜこのようなことをされる!? 今日本で何が起きているのか知らないのか! 医療従事者は大変な苦労をされ、観光や旅行業、とりわけ航空会社のダメージは計り知れない! 我々に今必要なのは、徹底した感染拡大の防止だろうが!!」
「知ったこっちゃないね~!」
マスクを外して叫び続ける僕らの周囲から、急速に人々が散っていった。
「わびろ、わびろ、わびろ、わびろーーーー!!」僕は叫び続けた。
「死んでも嫌だね!!」男は悪びれもせず言ってのけた。
「……やられたらやり返す……」僕は決め台詞の準備をした。
「感染者にやり返しても、意味ねーじゃねーか!? バーカ!!」
僕の全身にまた彼の飛沫が降りかかった……。




