鏡家と戦闘狂
修羅場に突入する前に、鏡家の話をしよう。
三家の一つ、鏡家。
それは40年前、封印され始めの頃の足立区において、霧の壁より出現したモンスター達から足立区消滅の危機から救った英雄の家系である。
封印直後、足立区はモンスターの襲撃により、その半分以上の地域をモンスター達に奪われていた。
その際の犠牲者は30万人規模とされ、当時の足立区の人口の半分が失われるほどの大惨事であった。
或いは、そのまま滅亡する方が自然だったのかもしれない。
それほどに、モンスターの勢力は圧倒的だった。
しかし、そこに登場したのが、今を代表する三家最初の3人。
鏡渉
貝塚忍
三蔓城高貴
彼らは、各々が戦闘力に優れ、前線に立つ指揮官としても活躍したとされており、一時期足立区全体の8割を奪われていたところを、5割にまで戻した功労者であった。
一部では、彼らは異世界からの帰還者であったが故に魔法にも明るかった、などと噂されていたりする。
普通ならば、眉唾ものだ。
だが、実際のところ、鏡渉と三蔓城高貴に関しては、異世界に行った過去がある。
その異世界は植物の魔物によって支配されており、2人は、モンスターとの戦いや魔法使用の経験があった。
故に、魔物との戦闘については一家言あったのだ。
一方で、貝塚忍にそのような経験はない。
けれども彼は、他の英雄にはないカリスマ性のある統率者で、本人は嫌々ながらも足立区の警察全署員を率いていた。
特に、魔法を得てからの活躍は、異世界転移の経験者からしても目を見張るものがあり、周囲からは、いつの間にか彼も異世界帰還者認定されてしまったわけである。
ある意味では、この貝塚忍の方がよほど異端と言えよう。
ともかく以降、この3人の血族は足立三家として、対モンスター戦では中心となる人物を輩出する事が多くなっていった。
その中でも鏡家に関しては、人間離れした身体能力、魔力量、モンスターを飼い慣らす能力の3点から、ほぼ全ての血縁が戦闘に従事するのが定例化しており、その代わりに、戦闘の切り札となる『カリモノ』の優先選択権や保持数の超過特権などが認められていた。
それほどに、鏡家の対モンスター戦での信用は高いのである。
無論、他聞にやっかみを受ける事もあるが、それら悪評を足蹴に出来る程の数多くの偉業と、常軌を逸した能力が鏡家一族にはあったのだった。
その礎を作った人物こそ、異世界帰還者である鏡渉と伝えられているわけだが、これもまた事実とは些か語弊がある。
まず、確かに鏡渉にはモンスターを使役する力はあった。
ただ、もう1人の異世界帰還者である三蔓城高貴にもテイムの素養があり、これに関しては異世界帰りが関係しているのは真実だが、鏡渉個人に限定したものではない。
次に、身体能力と魔力の強さに関してだが、これも実のところ一般人よりも多少有能といった程度でしかなく、本人としては自分の普通さを不満に思う程で、常々効率の良い運用方法を試作していただけに過ぎない。
では、何が鏡家の異常な強さの原因かと言うと、それは全て彼の嫁のせいである。
彼の嫁、田上あかりは薬剤師であった。
しかも、あまり公にはなっていないが、彼女もまた異世界に関わりがある人物で、より正確には、彼女の母親が異世界帰還者だった。
その影響なのか、田上あかりの精製する薬には魔力を有する事が間々あり、時には遺伝子レベルにまで影響を及ぼすほど、危険で異常な性質の薬まで作れてしまっていたのだ。
迷惑極まりない話である。
彼女の作る薬の種類は多岐に渡り、身体強化、魔力強化、回復力強化、魔除け、虫除け、除草剤、腹痛薬、目薬、豊胸薬、くびれ薬、催眠薬、惚れ薬、自白剤、媚薬、慈養強壮剤、精力剤、精力剤2、不眠剤etcetc……
後半になるにつれ手段を選ばなくなってきた彼女は、それはもう様々な薬を鏡渉に施した。
時には、効用も分かってない薬まで人体実験と憚らず宣って投与した。
しかも、材料が何かと言えば、モンスター由来の物が大半。
そんなエゲツない物質を、夫の眠っている内に、日によっては背後から問答無用で打ち込みまくったのである。
鏡渉の日記には、こんな殴り書きが残されている。
ーーー嫁の薬のせいで、ついに体がやっべー事になったんだけど!?
魂の叫びである。
以降、彼と彼の血族には、何かしらのモンスターの性質が、まさかの遺伝子レベルで組み込まれる事になってしまったのだ。
全て嫁の責任である。
当人は、決して何もやってない。
断じて、望んで得たものではない。
これが、鏡家一族の真実である。
表向きは、異世界帰りの影響と公言しているし、今代の鏡家当主もそう信じている。
だが、本当の事など言える筈も残せる筈ない。
全ては闇の中。
これ以上の厄介事は無用なのである。
結局、無駄な足掻きに終わった感もあるが、それでも自分が半分モンスターになったと言いふらすよりは百万倍マシであった。
さて、家に帰った少年は、母親の前で土下座していた。
そして母は、仁王立ちでゴミを見る目で息子を見下ろしていた。
当然の流れである。
ちなみに、父はいないようだ。
恐らく今日も、あくせくモンスターを狩っているのだろう。
まぁ、こいつら2人の事は、概ねこの場を見た人の予想通りだと思うし、特段何かを言う必要性を感じないが、それでも敢えて言葉にするのなら、少年が断りきれずに鬼嫁を家にこっそり招き入れるも、いきなり母親に出会してしまい、これは殺されると判断した少年が土下座を敢行したわけである。
一方の婚約者を名乗るオーガはと言えば、古びた帽子で角を隠しつつも、きょとんとした顔で、その不思議な儀式を、すぐ隣で少年に引っ付きながら眺めていた。
実に仲睦まじい。
「で、そのオーガと、アンタらの間にあるパスは何? 」
はい、一瞬でバレました。
然もありなん、といったところか。
「いや、オフクロこれは」
「あ゛ん?」
「いや、ママ」
「よろしい」
少年の母こと里奈は、オフクロ呼びを嫌がる。
何やらママ呼びに憧れがあったのか、子供たちには徹底してママと呼ばせていた。
それ以外で呼ぶと今のように恫喝されてしまう。
余談だが、父親の方は親父呼びが良いらしい。
仲良し夫婦の趣味趣向は、どうも異なるものらしい。
「で?」
「あー、いや、えっと、その、この子は、ですね……」
「どもらずに話しな。隠し事なんてしたら、分かってるね?」
「……はい」
額を床に付けたまま、少年は般若に……でなく母親に経緯を包み隠ず説明した。
ハイオークを逃した事。
そのオーク達を追っていたらオーガレムナントと出会った事。
逃したオークは、どうやらオーガレムナントが倒した事。
何故か決闘を挑まれ、敗北した事。
負けて抱き着かれたら、よく分からないけど、自分とオーガレムナントとの間に意味不明な魔力路が通ったこと。
パス開通以降、彼女は自分からは離れようとせず、しかも婚約者だの嫁だの宣って憚らない事。
ついでに、微妙に体の中に違和感がある事。
少年母に挨拶をすると言って譲らず、仕方なく家まで連れてきた事。
人の領域の側に来るため、元ブティックを漁ってボロボロの帽子を何とか見つけ出した事。
買ったものでもない古い帽子を、初のプレゼントだと物凄く感激されて、逆に戸惑ってしまった事。
それらを包み隠さず、少年は母に話した。
途中つい噛んでしまったら、瞬間頭を踏みつけられたのは、鏡家ではよくある事である。
「はぁぁぁ、まったくこの子は……」
額を抑えながら首を振る少年の母。
どうしたものかと思案中である。
心中には、絶対誰に似たんだか、という思いがあるだろう。
間違いなく、少年の両親2人の影響である。
「これも義父様の呪いかねぇ」
いやいやいやいや!
他人のせいにしないで貰いたい!
しかも、呪い扱いとか失礼千万である。
「で? 太陽はこの子をどうしたいわけ?」
「え、いや、どうしたいって言われても……困る」
「コマルノカタイヨー?」
ぎゅっと、少年は腕を掴まれる。
モンスターであっても女の子の習性なのか駆け引きなのか、妙に上目使いがいじらしい。
「ふぇ!? い、いや、その、レムに困るわけじゃ、ない、ないぞ?」
弁解するように、オーガ娘を見つめる少年。
母親からのプレッシャーを気にしつつも、本音を言えるのは美徳と見るべきが、それとも色香に惑わされる男の子と呆れるべきか悩ましい。
ちなみに、レムというのはオーガ娘の名前である。
安直としか言いようがないが、中学男子の考えられるネーミングなどこの程度である。
何となくどこぞのラノベからの引用のように思えてしまうのだが、知るはずもないし少年的にはそんな意図はない。
「はぁぁぁ……見せつけてくれるねぇ」
「いや! そんなつもりは!」
「随分と仲良しじゃないの? 今日会ったばかりで、しかも殺し合いまでした仲なんだろ?」
「そ、それはその……」
はい、ぶっちゃけ可愛かったからである。
モンスターとはいえ、ほぼ人型。
肌の白さなど気にならないようだし、赤の模様も角だってカッコいいとさえ思っているっぽい。
それにやっぱり、いつも引っ付いてきて慕われているのだから悪い気のする男はいないだろう。
それだけでも、オーガ娘に情を移すには十分であった。
……が、何よりも強い事が大きい。
鏡家のバロメーターは強さに主眼が置かれている。
家風としては、元はそうでもなかったはずなのだが、いつの間にか戦いでの強さこそ全て! みたいな基準が出来上がってしまっていた。
何がどうしてこんな脳筋基準になったのか全く分からない。
とはいえ、その点で言うとオーガ娘は少年の合格点を大きく突破していたのだ。
敗北当初は殺される想像しか出来ずに狼狽していたが、どうやらその気がないと分かり、彼女からの好意を無碍にするなど出来はしなくなっていた。
もはや不満点をあげることの方が難しいに、少年もオーガ娘を好ましく思い始めていた。
少年自身も不思議なくらいに。
……とか色々言いつつ、これらの親しみも全てテイムされた事による呪いであろう。
テイムされた人間が、主人で得るモンスターに早々逆える訳もない。
実に厄介。
「ふぅん。なら、やる事は決まったね」
「え゛」
少年はすぐ様理解した。
仮に、この場に少年父がいれば、やはり同じように反応した事だろう。
「アタシと戦え! アンタの強さを見せてみろ!」
「ちょ、ママ! ここは親父を待ってからでも、うぐ……」
「口出しすんじゃないよ。こちとらそんな悠長してられないんだからね」
少年の進言など有って無いようなもの。
現鏡家において、もっとも鏡家らしいのは嫁入りしてきた母親なのである。
傍から見てしまうと父の方が婿なのでは? と思われる事まである程だ。
そして、この決定に逆らえる人間は、鏡家の男共の中にはいない。
「タタカウ? ワタシガ、ハハウエト?」
「そうともさ。1番手っ取り早いからね」
何も手っ取り早くはない。怖いだけだ。などとは言えない雰囲気。
真の家長による決定は絶対だ。
「ワカッタ! ハハウエトヤリアウ!」
「お? いい度胸だ。存分にヤり合おうじゃないか!」
戦うと決まって盛り上がる女2人。
血気盛んなお年頃である。
一方の少年は、せめて文字通りの殺し合いにならない事を切に祈るだけだった。
鏡家宅は、中央本町にある。
人間の領域が、環七から北側であるのだが、鏡家の本邸は僅かに南側に位置していた。
これはモンスターが千住新橋から攻めてきた場合、真っ先に矢面となるためである。
北千住からのモンスターの群勢を、まず迎え撃つのが、封印
初期の頃に貝塚忍から押し付けられた鏡家の仕事なのだ。
とはいえ、もう随分長い事中央本町への進攻はなくなっている今となっては、半ば形骸化していると言えなくもない。
しかし、仕事は仕事。
北千住の動きを早い段階で察知するためにも、常に見張りは配置してあった。
今は、少年の兄の担当時間で、元足立区役所の屋上から周囲を確認しているはずだ。
半分休憩中とも言えるが。
ついでに言えば、そんな辺鄙な場所に家があるので、オーガ娘の事は今のところ一般区民にバレてはいなかったりする。
単なる一般人では、好き好んでモンスターの領域に足を踏み込む奴はいないからだ。
今更だが、こういう時本当にこの立地は助かる。
そんな具合なので、こうして戦闘行動を取ったところで見物人が集まったりはせず、普段から存分に戦う事が出来ていた。
「では、始めるぞ。ルールは特になし。本気の勝負といこう」
「ウム、トウゼンダ」
少年の願いも虚しく、さらりと生死問わずの殺し合いが成立してしまう。
2人して全く違和感に思わないらしい。
勇ましい女らである。
男からしたら、女同士の殴り合いなど冷や汗ものでしかないし、殺し合いなどになれば発狂ものだろう。
「まぁ、合図くらいは付けるか。太陽、やりな」
「……分かった。でも、頼むから手加減とかしてくれよ?」
「ふん、そんな失礼な真似出来ないねぇ。それに、あの子を向こうに手加減など出来る余裕なんてないさ」
少年は驚きを隠せない。
確かに彼女は強いと思うが、あの母が手加減出来ない程の相手なのか、と。
そして、今更ながらに事の重大さを理解するに至る。
この戦いは、家族の死の可能性が付き纏う程なのだと。
かと言って、内心ボルテージの上がりまくっている2人を止められる自信は少年にはなく、せめて、どちらかが命を落としそうなものなら、我が身を顧みずに中断させる覚悟くらいしか出来る事がなかった。
心許ない配下である。
「それでは、果し合いを始めます。ルールなし。時間無制限一本勝負」
せめて試合という枠に嵌めたくて、少年は場を取り仕切る。
きっと無駄に終わるのは分かっていたが、少年としたら、2人に怪我などして欲しくはなかった。
いやはや、短い間に本当随分とオーガ娘に情を移したものだ。
「いざ、尋常に…………はじめ!!」
少年の合図に、女2人は共に正面から相手に突っ込む。
とりあえずはお互いに小手調べ。
自分の拳と相手の拳を狙ったかのように激突させた。
まるで、建物が倒壊したような音が響き、肌がビリビリしそうな振動が周囲に伝う。
本気ではない2人の拳は、接触した位置から全く動かずに固まったまま。
見た目は互角。
だが、どれくらいの実力を隠しているかは何とも言えないところ。
この2人は、武器は基本使わないスタイル。
別に武器が扱えないわけではないし、使ったら使ったで並みの敵なら余裕で倒せる技量はある。
徒手空拳なのは、単にその方が強いからである。
彼女らは共に、『魔装』を扱える。
魔力を体に纏わせ防御とし、魔力を足に込めて蹴力とし、魔力を拳に乗せて攻撃する。
拳法家を次の段階へと押し上げる魔装を、2人は達人レベルにまで昇華させていた。
もっとも、武器なしの強さというよりは、手足を使って殴る方が性に合っているから、という方が正しいのかもしれないが。
衝突後、一旦距離を取る両者。
これでお互いの攻撃力の差は分かった。
次は、動きの卓越さの勝負に移る。
「ッ!!」
先に動いたのはオーガ娘。
まだ子供らしい身軽さを活かして動き回り、多少の撹乱をしつつ接近していく。
しかし、少年母は棒立ちのまま微動だにせず、オーガ娘を見定めていた。
「タァァッ!」
オーガ娘が、首めがけて回し蹴りを放つ。
どうやら彼女は蹴りメインの型らしい。
少年との戦いでも蹴りを主体にしていた。
恐らくは、自分より大きな相手と戦うために少しでもリーチのある蹴りを磨いてきたのだろう。
なるほど。
もし当たれば、相手を殺せるだけの破壊力はだろう。
いや、この場合は放てればだが。
「遅い!」
オーガ娘の蹴りは、難なく少年母に止められた。
仮にガードされても衝撃波による遠当てまで見込んで首を狙ったようだが、少年母のガードの方が早く、インパクトの瞬間を外す事に成功している。
あれでは、威力は4分の1にも満たず、かつ方向もズラされてダメージには至らない。
「ハッ!」
オーガ娘は尚も追撃、飛び上がって逆の足で蹴りを放つ。
しかし、結果は同じ。
むしろ、大振りになった蹴りは容易く防がれて、空中でバランスを崩してしまう。
「隙が多い!」
少年母は、すぐさまオーガ娘の足を掴み、力任せに彼女の体を振り上げて、そのままボロボロのアスファルトに豪快に向けて叩きつけた。
「カハッ!!」
地面に人型が残る程の衝撃。
とは言え、魔装のためダメージは軽微。
しかし、これは明らかにオーガ娘の失点だ。
素早さを活かすのは良いが、それに甘えて蹴りの大振りに慣れすぎている。
高位モンスターには巨体が多く、外皮の硬い者が多い。
そんな相手ばかりと戦ってきたが故に、いかなる時も必殺の心構えでいないと勝利は得られなかったのだろう。
それは、短期決戦でしか勝てないという意味でもある。
だが、生憎と少年母は、そんな高位モンスターの実力を凝縮したような強さを得ている。
小回りも効くし、技術も高く力も強い。
であれば、オーガ娘相手なら後の先を取るのも容易く、無駄な動きは全て隙扱いとなるわけだ。
「ガァッ! ウガァッ!」
「おっと」
地面に叩きつけられたオーガ娘は、掴まれた方とは逆の足で暴れて拘束を解く。
魔装使用時であっても、何度もアスファルトに叩きつけられては普通に死んでいただろう。
すぐさま距離をとって体の回復を図る。
一旦距離を保ち打開策を探るか。
「考えがぬるい!」
しかし、当然そんな余裕を与える筈もなく、少年母は瞬間的に魔力を高め、両拳に絡めつつ撃ち放った。
拳撃は宙を走り、遠当てとなってオーガ娘に襲いかかる。
安直だが、一応の技名としては、『飛拳』
とは言え、魔力を形にせず、魔力のまま弾き出しただけの遠距離攻撃でしかなく、技と称するには簡単すぎる。
先程、オーガ娘が蹴りにて放った衝撃波とも原理は同じ物と類推している。
もっとも、粉砕消滅に長けたものと、より貫通性に特化した攻撃とでは、その方向性に違いはあるだろうが。
「ナッ!?」
案の定、腕でガードしたと思ったのに、何故か顔面にダメージが通ってきた事に驚いているオーガ娘。
モンスター側は、見てくれ通り技の精度よりは破壊力を優先する志向があるのだろう。
堪らず、オーガ娘は逃れるように細かく動き回る。
でも、これも頂けない。
何も考えていない分、回避行動が単調だ。
だから、死角から距離を詰められる。
「そら倒れな!」
「!?!?」
オーガ娘の目には、きっと突然眼前に悪魔でも現れたような心持ちだろう。
ほぼフルスピードで走っていたのに、何故回り込まれたのか理解が追いついていない。
何も分かっていないままに、オーガ娘は殴られて、その場の地面に叩きつけられる。
わざわざ遠くへ吹っ飛ばすなんて甘い事もしてやらない。
すぐ様、少年母はオーガ娘に乗っかって、きっちりマウントを取ってタコ殴りを敢行する。
縦四方でガッチリ固まっているから、もう逃げられはしない。
「どうした! 受けてばかりじゃ終いだよ!」
「グッ! ウグッ! グウッ!」
連打を浴びてノックアウト寸前。
最後にチョークまで持ち込まれたら、本当に終わりだ。
明白な実力差。
いかにオーガと言えど、まだ幼さの残る彼女では、最初から少年母に敵うべくもなかった。
格の違いというやつだ。
と、ここまでは予想通り。
問題はこの後だ。
さて、吉と出るか凶と出るか。