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超越者と喜劇俳優




 「あ?」



 何言ってんのお前?



 「そのままの意味……」



 そのままって……男の俺に、魔法少女になりたいか、パートナーマスコットになりたいかを選べってのか?

 何だよその、ある種の究極の二択は。

 極端さが振り切れとるだろうが。



 「どっち……?」


 「いや、どっちも嫌だぞ」



 んなもん選択肢足り得てねぇよ。

 なりたい何かが含まれてるならともかく、そんな極端な二択で答えを出してたまるかっての。


 あ、一応心の声でも言質は取らせないからな?



 「……ちっ、ウっぜえ」


 「あ、キャラ変えてくれたか。助かるわ」



 無口キャラとか誰得だって思うし。

 やっぱり好ましいのは元気なキャラだな、うん。



 「マジウゼエこのオッさん。話の流れで空気読んでどっちか選べよな? こんタコが!」


 「心底選ばなくて良かった、って今本気で思ってるぞ」


 「どっちか選べば、即魔法少女世界に送ってやったのに……」



 …………は?

 え? なに?

 今のってまさかトラップ?

 あたかも手前の問いに関わるような振り方で、だけど実質は単体での質問だったと?


 例えば、魔法少女だのパートナーマスコットだののどちらかを選んでいたら、その選択が確定して変えられなかった、とかそういうやつ?



 「てめ、あっぶねぇ真似しやがって……どうせどちらか答えてたら、どんなに俺がそんなつもりはなかったとか叫んでも、強制的に変身とかさせてたんだろ?」


 「少し違いますね」


 「何がどう違うんだよ?」


 「変身じゃなくて転生。だから、一旦お前を殺せたのです。とても残念でとても無念です」


 「お、まえ……」



 まだ俺を殺すの諦めてなかったか……

 今ちょっと油断してたからな。

 危うくタピ殺でもされるところだったかもしれん。



 「はぁぁ、仕方ねぇ。殺されてやるか」



 いや、俺は今なんも言ってねぇからな?

 すっげぇ声色だけは似てるけど、断じて俺の言葉じゃねぇからな?



 「……お前は細かいな。禿げるぞ?」


 「ご忠告痛みいるよ」



 だから、脱線すんなよ

 流石にイライラしてきたぞ。



 「それが狙いさ!」


 「どんな狙いだこんちくしょう!」


 「うざったいほどの殺す殺さないのやり取りの中で、イライラしてきたところで紛らわしい質問! YESともNOとも言い難い答えから、自殺しても構わないような言葉を強引にでも引き出すためさ!」


 「本当ご忠告痛みいるよ!」



 こうやってバラすのもイライラを募らせるためってか?

 それか、思い込みを利用して詐欺に引っ掛けてくる気か?

 だけど、もう油断とかしねぇかんな!



 「硬いねー。でもほら、人生たまに、昔に戻りたくなる瞬間とかあってさ。あー、あの頃に戻りたいなーってなんじゃん?」


 「何だよ藪から棒に……」



 そりゃ戻れるなら戻りたいけどさぁ。



 「そゆときさ。過去に戻ってあーすれば良かった。こーすればなんとかなった。とかあるわけじゃん」


 「……ねぇよ。だからなんだよ?」


 「そんなことグダグダ考えてるとさ。ちょっとした瞬間にだけ、あー、いっそもう死んじゃおうかな、とかヤケにならない?」


 「………………い、いや、何も思ってねぇぞ?」



 ちょっと同意しかけたけど。

 でも、本気でそんなドマイナスな行動に移ったりはしない。



 「あ、揺れたね」


 「揺れてねぇ!」


 「そーんなこと言っても、ここは正直なものさー」


 「うわ、こらっ! 触れるな! 胸をまさぐるな! 気色悪いわ!」



 一瞬で近づいて他人の乳を揉みしだくとかやめろよ!?

 殺人鬼に心臓近くを触らせるとか、そんな?もうホラーでしかないわ!?



 「こーんな可愛い子におっぱい揉まれるとか役得でしょー?」


 「どこかじゃ! いっそ恐怖に震えてるわ!」



 俺は、変態殺人鬼をどうにかこうにか振り解く。

 と言っても、これもお遊びなんだろう。

 コイツにしては簡単に拘束が外れてくれる。



 「おっとっと。なんだよーもー。乱暴だなー」


 「黙れ痴女! ったく、うぅっ……」



 引き剥がしに成功するも、思わず身震いしてしまう。

 何か体が変にゾワッとした。

 マジ殺されるかと思ったわ。

 もう、こんなと話していたくねぇぞマジで……



 「で、鏡渉? お前いつまで遊ぶ気なの? 早く本題に行こうよ」


 「…………」



 殴りてぇ……



 「そしたら正当防衛で殺せますわね!」



 殴れねぇ……



 「はぁぁ……もう殴らんからワクワクすんな。で? 今回の特典の支援ってのは何だよ。いい加減話せよ」


 「支援? なんだっけ?」


 「もうイライラもしてやらんから、さっさと吐け。俺は疲れた。話ないならもう帰る」


 「ちぇぇぇ、つまんねぇの〜」



 そうして、本当ようやく本題に入ってくれる。

 すげぇ面倒くさそうになった天王寺は、何気に床面に寝そべって、やる気のない顔でうさ耳をゆらゆら揺らしていた。


 格好自体はかなりエロいのに、さっきまでの無駄な色気が無くなっている。

 むしろ、残念臭がひどい。

 てか、これがコイツの人と話す姿勢なのか。



 「で、3つ目な〜。支援ってのは、お前の場合は魔力の回復かな〜。それか、全部の解決〜」


 「回復は確かに有難いな。自分じゃどうにも目処が立たんかったし。そんで? もう一個の全部の解決ってのはどう言う事だ?」



 それは、どこまでの解決を指してるんだ?



 「全部は全部〜。お前んとこは楽勝だしな〜。足立区の封印解いて、魔法も使えるままにしてやる〜。5秒くらいで終わるかな〜」


 「ま、マジかよ……」


 「オオマジ〜」



 俺が必死こいて何年も何年もかけてやろうとしてることを、コイツなら5秒だと?

 そりゃコイツの半端なさは、爪の先くらいなら理解出来ているつもりだ。

 だからって、たったの5秒?

 そんなにもインスタントなのか?

 俺の抱えてる問題って一体……



 「どうする〜? やるか〜?」


 「そんなん決まってんだろうが」



 コイツの言葉に嘘はない。

 間違いなく足立区は、この5秒後に救われる事になるだろう。

 ならば、ここで出す答えなぞ考えるまでもない。

 俺だって、それなりの使命感でここまでやってきたのだ。

 解決出来るのなら嫌もない。



 「って事で、誰が頼むかこんのド三流詐欺師が!」


 「ちっ、ハマらねぇか」



 はん! 当然!

 この流れでお前が対価を求めない訳がねぇだろうが!

 どうせ言質をとった瞬間に手のひら返し。


 約束は守る! その代わりにお前の命を差し出せ!

 だとか何とか吐かすつもりだったんだろうがよ!?


 ざ〜んねんでした〜!

 俺は自分の命を差し出すような自己犠牲精神なんて持ち合わせていません〜!


 やるつもりだってんなら、初っ端からの無駄話を一切せずに淡々と話を進めるべきだったなぁ!?

 いくら俺でもそれくらい気付くわ!



 「ケッ。無駄に賢いな〜お前〜」


 「本気なのか知らんが、お前はアザと過ぎんだよ」


 「ったく、しゃーねーなー。ま、今日とこはこんなとこかー?」



 面倒くさげに欠伸をする天王寺。

 どうやら、やっと気を抜いてくれたらしい。


 ふぅ、とりあえずこれで山は越えただろう。

 煩わしいやりとりはあったが、あの程度のことで魔力の支援が得られるなら、霧の中へ入り込んだ価値は充分に有ったと言えた。



 「なら、そろそろ少年を呼びに行ってもいあか?」



 目的を果たした以上は、ここに長居する必要はない。

 むしろ、気分で殺されない内に脱出してしまいたい。



 「あ〜、構わないぞ〜。そろそろ頃合いだしな〜」



 なるほど、もう少年が魔法は習得したと。


 奇妙空間の主の許可が出たので、早速俺は健康ランドへと続く扉を開く。

 この先で、少年が漫画でも読みながら待っている筈だ。



 「なぁ、あのさ……」



 だけど、少しだけ気になったので、部屋の中に入る前に質問を1つぶつけて見ることにした。



 「ヒナタは……田上ヒナタは、どうしてる……?」



 田上ヒナタ

 かつて俺と一緒に異世界に渡り、敗走後から会えていない俺の幼馴染み。

 そして、俺が異世界で見捨ててしまった女の子。



 「あ〜、例の幼馴染み〜? あの子ならそこそこ幸せで、ちょい悲しいくらいには不幸せ〜」


 「……それは、アカリと別れたから、か?」



 ヒナタとアカリ、彼女らは親子になる。

 そして、何らかの理由があって、アカリだけが地球へと帰還……いや、生まれが異世界のアカリからしたら転移してきた、が正しいのか。



 「それもあるね〜。って、それは前にも言ったじゃ〜ん。1人異世界ラシズに残った彼女は、今も戦い続けてるって〜。で、戦闘の激化もあって、子供を1人安全な日本へと送り返したんだってー。もうあんたの時間からしたら大分前の事なのに、まだ気になってるの〜?」



 ……確かに前回にそう聞いた。

 だけど、俺と三蔓城の2人は帰還したのに、ヒナタだけが異世界に取り残されているんだ。

 それを気にするなって方が無理だ。



 「そりゃかなり苦労してるよ〜? アッチの時間とコッチの時間はズレてるから、大体30年くらいかな〜? その間ずっとたった1人でラシズを守ってるんだからね〜」



 歯を食いしばる。

 あの時、無理にでも一緒に連れ帰っていれば……



 「後悔先に立たず〜。それにどうやってもヒナタはこちらには戻れなかった〜。あの子は、ラシズに選ばれた女神〜。あの時点から、トリフィドを刈れるのはヒナタの鎌だけだったからな〜。連れ帰るとかムリムリ〜」


 「っ!! それもこれも、全部お前の差し金だろうが!」



 元はと言えば、この天王寺が、俺たち3人を異世界に飛ばしたのが発端だ。


 最初は、別に誰でも良かったとか抜かしてやがったくせに、実際はヒナタだけが目的で、絶対必要なくらい特別だったのだ。

 同行した俺と三蔓城は、所詮オマケに過ぎなかったんだからな。


 いや、それはいい。


 だけど、その全部が全部を、他でもないお前が仕組んだんじゃないか!?

 これを憤るなと言う方がおかしい!

 間違ってるか俺は!?



 「興味ないな。だとしても、負けの決まった世界を見限り、彼女を見捨てたのは、他でもないお前自身だ。鏡渉(かがみわたる)


 「ぐ……」



 急に真剣な風に見せやがって……



 「もう諦めろ。ヒナタとお前らの運命は、今後決して噛み合わない。何をどうしようと奇跡に縋ろうと不可能だ。無限に存在する宇宙を知り、あらゆる多次元に精通するこの私、天王寺まどかが断言しよう。鏡渉及び田上アカリ両名と、ラシズの女神となった田上ヒナタは、金輪際2度と関わる事はない」


 「そんなのは……」



 分かってるんだ……

 あの日あの時、俺達が引き止めなかったせいなのもみんな分かってる。


 だけど、そう簡単に割り切れるものでも諦められるものではない。

 何より、確かに俺自身のせいであるのだから、尚の事……



 「ふん、なら、せめてもの慰めに教えてやる。ヒナタはちゃんと結婚もしてそこそこ幸せに生きている。長女であるアカリの事は今も当然気にかけているが、彼女には他にも子供がいるからな。自らが地球に送った事を踏まえ、半分は諦めている。ヒナタはそのままラシズの地で満足して死ぬだろう。無論、愛する子と別れた悲しみは癒えないが、それでもヒナタには希望と使命があり、その命果てるまで責務を全うするのが確定している。残念ながら彼女の代ではラシズは救われないが、彼女の5代後の時代になれば、多少の気休めは得られるだろう」



 この野郎……

 分かった風な事を……



 「はっ、笑わせるな。少なくともお前よりは遥かに分かっているとも。それとも、また前回のように、これ以上の皮肉を聴きたいか?」



 ……分かってる。

 分かってるさ。

 前にもコイツから聞いたし、俺はそんな傲慢なつもりはない。


 自分の元にいれば、ヒナタは幸せだった、なんて、口が裂けても言えない。


 俺の手は、そんなに広くも大きくもないのだ。

 分かってる。

 分かってるんだ、そんな事は……



 「なら早く行け。今日のところはせめて、お前の健闘くらいは祈っておいてやろう」


 「……は? アンタが健闘だ? この話の流れで? 気持ち悪いくらいアンタらしくもねぇし、普通に胡散臭いぞ」



 人殺しくらいしか楽しみのないコイツが、他人の心配なんてするわけがない。

 むしろ人の不幸をおかずに、人殺しでもし向けてきそうだ。



 「フフッ、その通りではあるがな……なに、高みの見物というやつだ。この後のお前が何を失い、何を捨てるのか。はたまた、何も捨てる事なく全てを得られのか、という喜劇を傍目にな」


 「喜劇なのかよ……」


 「お前のような平凡な道化が、涙ながらに喜劇を作るのだ。もはや重責であろう。それとも、3枚目なお前に悲劇か愛憎劇が似合うとでも?」


 「ふん、言ってろ」



 皮肉屋の人殺しを背にして俺は、扉を潜る。


 何が喜劇だ馬鹿馬鹿しい。

 お前にとっては、人の生き死になど単なる暇つぶしの劇でしかないのだろうが、俺にとっては現実だ。


 現実は、劇みたいな起承転結があるわけじゃない。

 結末がやってくるとは限らないし、志し半ばで頓挫してしまう事もある。


 ヒナタの事もそうだ……


 だけど、仮に現実が、実は単なる舞台でしかなく、更には演じるのがみんなしてダメ役者ばかりだったとしても、俺らは腐った舞台の上で必死に動き回るしか能はないのだろうさ。


 お前が、あくまで現実を劇としてしか見ない観客だと言うのなら、俺らは覚えたセリフと練習した動きを武器に、お前を含めた観客全てと、そして努力を続ける自分達に対しても、最高の結果をプレゼントしてやる。


 例え、何百何千と失敗したとしても、俺たちの代で間に合わなかったとしても、それでも最後の最後には、絶対にハッピーエンドを迎えてやるから覚悟しとけ。



 「ああ、それいいわね。期待してる。ただし、私は観客ではなく、プロデューサー兼スポンサーになるかな」


 「……んな?」



 殺人鬼を後ろにして息巻いていたところで、俺は、突然の衝撃に意識を飛ばされかけてしまう。


 ギリギリで視界を繋ぎ止めるけれど、もう目は物をちゃんと捉える事が出来ていない。

 ただ、その先の三日月くらいに歪んだ口元から、ムカつくような言葉が紡がれているのが分かっちまう。


 くそ……俺は、何をされた?

 


 「……1つ教えようか鏡渉。役者が1人とは限らない。そして、スポンサーやプロデューサーの用意した、本筋を大きく無視したキャスティングが、大役に滑り込む場合もある。しかも、現場が何も知らない内に」



 このやろう……お前……一体なにを……?

 いや違うのか……

 俺は一体……なにを、了承しちまった?



 「ふふふ……さぁ? まだ、教えてあげないわ。でも、そうね。あなた達が、私に最高の結果とやらを見せてくれたら、あなたの、お願いくらいは、叶えてあげても良いかもね」



 ふっざけんなよ、この性悪女が。


 と、思うよりも早く、俺はギリギリ繋ぎ止めていた意識を、結局は手放してしまっていた。


 くそ……


 また俺は、この女に弄ばれるのか……




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