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風俗嬢と殺人鬼




 「いらっしゃい。初めての方ね」



 天王寺は、さも風俗嬢みたいな肩と太ももの露出した、黒のキャミソールとパッと見は分からないホットパンツを着て応対してくる。


 無駄な色気だ。


 どうせ、心に決めた嫁がいるところを誘惑してみて、相手の心を惑わせたいのだろう。

 なのに、頭のうさ耳は付けたまんまなのだから、何を狙っているのか微妙に分からない。


 室内をみれば、赤を基調とした怪しげな屋内。

 オドロオドロしさとイヤらしさが噛み合っていない不快感極まった空間だ。


 少年は少年で、気付くと怪しい部屋に突っ立っていて、目の前にエロい女がいるものだから、変にドキマギして車椅子のまんまでぎこちない。


 この時点で、既にペースはヤツのもので確定する。

 ヤツはヤツで、ペースなんてまるで気にも留めないのだけど、だったら何でこんな部屋を用意するのか。

 ……いや、どうせその方が楽しそうだから、とかいう安直な理由しか出てこないな。うん。



 「あら、緊張してる? 大丈夫よ。お姉さんに任せておけば、何回でも気持ちよくして、あ・げ・る・か・ら♪」


 「は!? え? んんん!?」



 ふん、言い様が古いんだよ。

 狙い過ぎじゃね?



 「あら、お連れ様もいたのね。どうする? 2人揃ってお相手するのかしら? いやーんお姉さん困っちゃーーう」


 「あ? 何棒読みしてんだよ、って……あぁくそ。そう言うことかよ」



 いきなり自分の声が出たもんだから焦る。

 何事かと思って、久しぶりにちゃんと自分の目で見てみると、そこには自分の手があり、足もあり、高校の頃か? くらいに着ていた懐かしい服までが現れていた。

 てか、体の感じが高校生なのか?

 にゃろう……また適当しやがって。

 

 これも全てヤツの魔法によるものだと、すぐに俺は気を取り直して、久しぶりの高い視点からヤツを見下ろしてやる

 俺は、誰かにイニシアチブ握られんのが嫌いなんだよ。

 ……この時点で、俺も大分飲まれているのかもしれないが。

 ちっ! この無駄年増め。



 「ふふ、口と態度の悪いひと。あなたみたいなのワタシ、だいっっっきらいよ?」


 「お褒めに預かり光栄だっ」


 「うええ!? どどど、ドラゴンキラーが人間にいいいい!? なにこれどうなってんのお!?」



 破茶滅茶である。

 収拾がつく気もしないし、つける気もない。

 もう勝手にしてくれって話である。



 「つれないのねー。で、そちらの初めてさんのお名前は?」


 「な、名前? あ、いや、その、俺は鏡太陽。きょ、今日は魔法を覚えにきました!」


 「あら、素直ないい子。ワタシは天王寺まどか。よろしくね。あ、良かったら個人授業してあげましょうか? もちろん、エ・ッ・チ・なの。ふぅっ……」


 「ひゃあぁううう!?」



 今の今まで正面の椅子に座っていたのに、次の瞬間には少年の耳元に息を吹きかけている。

 前も、前の前もそうだったけど、本当コイツは神出鬼没なヤツだ。

 少年のペースなど気にかけてすらいねぇ。


 てかマジ、同じ空気を吸っているかと思っただけでアレルギーが起きそうな気がする。

 早く終わりにしたい。



 「それで、タイヨー君は魔法を覚えたいのねー。でも、どうしようかしらー。ワタシもちょーっと忙しいしー」



 体をくねくねさせながら、チラッと少年に視線を向けたり、困ったーみたいな態度を分かりやすく示している。

 少年は少年で、ついついその豊満な胸元やら目線やらに気圧されて落ち着かない。

 絶対全部が罠だ。



 「でもでも、ワタシのところまで来れるひとって珍しいのよねー。それなりの運命力がないと無理なわけだしー」


 「え、それって選ばれた人間、みたいな!? マジで!?」


 「そーそーそんなのよー」



 少年よ……

 そんなとこに引っかからなくて良いんだよ。

 コイツの口から出る熟語なんて、俺らの常識じゃ測れんし、そもそも真実かどうかも怪しい。


 大体、この人様を小馬鹿にしたような振る舞いからして、俺は気に食わんのだ。

 もう会話すらしたくねぇ。



 「あら、酷い言い草。あなたこの子のおじいちゃんなわけでしょ? だったら、もうちょっとアドバイスしてあげても良いんじゃない? 違うかしら?」


 「はい? おじいちゃん? このオッさんが? 俺の?」


 「チッ……余計な事を……」



 心を読むのもお手の物ってか?

 くそ、本当コイツは人の嫌がるとこ嫌がるとこを突いてきやがる。

 下手に勘ぐられたら、今後の動きに支障が出てくるかもしれねぇのに……



 「あ、そういや写真で見た渉の爺ちゃんに似てるような……でも、流石に若すぎるような……」


 「ああ、そうだ。俺はお前の祖父に当たる。普段は刀に化けていて、影ながらお前らを見守ってきていたのだ」



 まぁいい。

 どうせここから出たら忘れる。

 まんま正直に伝えてしまった方が楽だし、先々の影響は少ないはず。

 何より、天王寺の思惑に嵌って憤る方が癪だ。



 「えええ!? なにそれキモっ!? 爺ちゃんが刀とか怖えぇよ! てか何それ、爺ちゃん俺らのストーカーなんじゃね!?」


 「こんのガキゃあ……」


 「フフフフフッ」


 「てめぇは……」



 くっそっ、腹立たしい。

 コイツと話していると、何をしてもどう動いても小馬鹿にされる結果になっちまう。

 分かってはいるのだが、それすら読まれて誘導されている節があるのも鬱陶しい。



 「ま、いいわー。教えてあげる。そこにある部屋に入って、後は好きに過ごしてて良いわよ? それだけで魔法なら簡単に覚えられるから」



 そう言って指差した先には、さっきまで絶対に無かった筈の扉があり、勝手に開いた先には、確かに部屋が用意されていた。


 垣間見える室内には、何やら漫画喫茶? いや健康ランドか? のような空間が広がっていた。

 というか、教えてあげるとか言いながらも、実質放置じゃねえか。


 ……ああいや、だから考えるな。

 ここはヤツの世界。

 理屈で考えても頭がこんがらがるだけなのは、もうよく分かってるだろう。



 「うっわぁぁ、何だこれ! 何かお風呂とか漫画とかがいっぱいある!? すっげえぇ!」


 「そこで好きなだけ過ごしていいのよー? 時間になったら教えてあげるから。そしたら、ワタシとイイコトしましょ? ふぅぅぅ……」


 「ふぎゃうぅぅぅ!?」


 見たこともないくらいの漫画の数に飛び上がりそうな少年だったが、またも耳元に吐息攻撃を受けて、すぐにヘナヘナに萎れてしまう。

 こんなガキンチョに色仕掛けとか、どんだけ寂しいヤツなんだか。



 「だだだ、ダメだってお姉さん!? 俺にはレムって子が!」


 「あら、それはタイヨー君の好きな子の名前かしら? でも大丈夫よ? ここで起きた事は、誰も見てないし、誰も聞いてないんだものー。浮気には、最適の場〜所♪」


 「う、浮気いいい!?」



 そんな言葉を、ただの中坊が聞く機会なんてあるのかね。

 まぁ、昨今は子供らの成長は早いと言う。

 案外使われているのかもしれん。


 自分の子供らには、絶対に使って欲しくはないが。

 あ、いや、子供の頃とか関係なく人生においてだな。



 「ちょ! 爺さん助けろ!?」



 いや、キモいだのストーカーだの言われて、それを助けろ言われてもな。



 「それくらい自分で何とかしろ。お前のオーガ娘に対する想いはそんなちっぽけなのか?」


 「ち、ちがわい! だけど、このお姉さん何か凄くて!」



 なるほど。

 タイヨー少年には刺激が強すぎるらしい。

 どう抵抗しようとも、ほよほよふわんなおっぱいをチラチラ見ちゃってるしな。


 そりゃまぁ中坊が、風俗嬢を前にして普通でいられたら、そりゃある意味終わっとるか。



 「おい、ババア。そろそろやめたれや」


 「……ふふふー。そんなにあの事を孫にバラして欲しいのかしらー」



 あ? こんなのに怒ったのかよ?

 案外我慢の足りない。

 てか、あの事だぁ?

 んなもん知るか。

 第一ババアにBBA言って何が悪い。

 俺だって、普通に爺だわ。

 もう何でも勝手にすればいいだろうが。



 「へー」



 とか思ったら、何やら意味ありげな微笑。

 あれ? もしかして俺ってば選択間違えてないか?



 「ねーねー、タイヨー君聞いて聞いてー。あそこにいるナマクラさんね? 実は昔ー、エッチなお店でエッチな事をするより前にエッチな汁を出し」


 「おいこらてめえ俺の孫に何デマカセを!?」



 言葉が続く前に声を上げて止める。

 そんなん下ネタが酷いし、風評被害甚だしいわ!

 間違いなく子供に聞かせていい話じゃねぇぞおい!?



 「てか、何故そんな昔のことをお前が知っている!?」


 「あらあらあらあらー、ワタシは本当に何でも知っているのよー? 他にも、幼馴染の女の子に虐められていた事や、結婚した今でもその幼馴染みの事を気にかけていたり、王様に連れられて、女子には内緒で女の子がいっぱいいるお店にいって記憶を無くしちゃってナニかをされた事。あー、あとアカリに浮気の罰として大量の精力剤打ち込まれたまま、たった1人で丸一日監禁されちゃった、なんてのもあったかしらー」


 「ぐぅっ!」

 


 な、なんてヤツ!

 本当何でそんなことまで知っている!?

 全部が全部、家族は疎か誰にも聞かれたくない過去を、あろう事が孫に晒すとか悪趣味過ぎる!


 で、でも、浮気はしとらんからな!?

 あれは、忍のやつに連れられて付き合いで、その、酌をしてもらっただけでだなぁ……



 「じ、爺さん……」



 そして、バッチリ孫に聞かれちゃってるし!

 その目が、ストーカーを見る目から、ただのクズを見下す目に変わっている!

 お、おのれ天王寺……

 心の底から腐ったB、女、の子め……



 「ふふふふー、屈服屈服ー」


 「こ、こんの腐れ外道めが……」


 「あらあらー、敗者の遠吠えが楽しいわー。ふふふふふー」



 敗北だ……

 俺には、すべてを捨て去る事など出来ん……

 こんな変人相手に、まともにやり合おうとした俺が愚かだった……

 分かってた筈なのに、何を俺は無駄に立ち向かってしまったのだ……



 「さ、じゃあタイヨー君はお部屋に行っても平気よー。そこなら本当何してても大丈夫だから、時間まで待っててねー」


 「うえ? いいの? そうなの? あれ? 何か忘れてるような?」


 「あらららーん? もしかしてー、期待してたー?」


 「ちちちちちち、ちが、ちがわい!」



 あからさまに動揺しながら、少年は刀を持って、そそくさと漫画喫茶へと走って逃げ込んだ。

 どう見ても図星な様子。


 ……あれ? 何かおかしくないか?

 ……まぁいいか。


 とりあえず、本気でコレだけはやめておけ。

 オーガ娘がいようといまいと、後で絶対後悔するから。



 「あらあらー……なんて、本当男とか子供でも最低よね。そう思わない? 鏡渉(かがみわたる)


 「俺に聞くなよ」



 今更なので、俺は何も突っ込まない。

 それに、コイツは男が嫌いなのではなく、人間が嫌いなのだから、子供だろうが爺だろうが、わざわざ相手が気持ちよくなる話をするわけもなかった。


 が、まだ俺としてはこの方が話しやすい。

 悪ノリしてるキャラ相手だと、俺の耐性不足だ。



 「ま、とりあえず久しぶり。3回目よね? なら、面倒だけど話をしないと。こっち来て座りなさい」



 またも瞬間移動したみたいに、天王寺は既にテーブルについていて、早くもティーポットに手を掛けていた。

 俺も、大人しく従って席に着く。

 お茶は……あ、そりゃコイツなら自分だけで飲むよね。

 


 「にしても、貴方が3回目とはね。分かってはいたけど、貴方みたいに普通なのが世界の運命に関わるとか辛いでしょ。殺してあげてもいいのよ?」


 「御免被る。てか、自分が人殺したいからって、一々確認してくんじゃねぇよ」



 天王寺は、人殺し大好きっ子である。

 だから、いつでも殺されても良い人を常時探しているのだ。

 しかも、それを尋ねる相手は、0.1%であっても殺される事を容認する可能性がある人に限られているとか何とか。


 だけど、無理やり殺す事はなく、相手の了承を引き出したり、頭の中を読み取ってから実行に移すルールにしてあるらしい。

 昔、コイツが自分で言っていたから間違いない……はず。

 いずれにせよ、自殺を引き出そうとするとか、相当に悪趣味だとは思うが。


 とにかく、ここからは安易に回答するよも思案しすぎるのも危険だ。



 「ハァァ……面倒。お前もう死ねよ」


 「嫌だね」



 俺の断固否定に、「ケッ」と悪態をついてから天王寺は話を戻しにかかる。



 「実際、アタシのとこに3回も来れるのは珍しい方。この地球一個分として見たら、アンタは3人目になんね。他の地球まで数えたら37563番目になる……っておっしいなお前! 残念過ぎるぞおい! マジ受ける! しかも、こんなちっぽけな足立区世界に関わってる奴がとか笑えるしウケケケ」



 そうかよ。



 「はぁ、つまんない。アンタも他の3、4回目みたいに殺しにかかって来なさいよ。殺したげるから。しかも今なら、特別サービスで好きな殺し方でヤッたげるわよ?」


 「例えば?」


 「そりゃアンタ、焼殺とか拷問殺とか病殺とか食殺とか摩擦殺とか油殺とか炉殺とか埋殺とか腐殺とか凍殺とか圧殺とか裁断殺とか回転殺とか熱殺とか音殺とか感電殺とか分解殺とか虫殺とか植殺とか毒浴殺とか集団劇殺とかタピ殺とか」


 「タピ殺?」


 「お? アンタ通だね。これは少しずつ、自分で自分の肉体を切り出させて丸めさせて作ったタピオカ状の球体を延々作らせ続けてからそれを自分で茹でて飲み込ませ続けて窒息死させる殺し方なんだ。どうだい? ヤられてみる? 楽しいよ?」


 「お前だけがな……」



 というか、普通に刺殺とか銃殺とかはねぇのかよ。

 なんで、そこまで苦しそうなのばかりチョイスすんだよ。

 タピ殺だってタピオカ全然関係ねぇし、もう単に窒息させるだけで良いだろうがよ。



 「あ? 分かってねぇなぁてめぇはよぉ。んな1秒に100回できる殺し方じゃ飽きんじゃねぇかよ。こちとら普通の殺し方なんて極めちゃってるわけ? 大人も子供も男も女も同性愛者も性乖離性者も兵士も一般人も国家元首も捨て子もありとあらゆる環境のあらゆる立場にいる人間を殺しまくっては楽しんできたわけ。なのに、また同じ殺し方するなんて人生の無駄じゃん? 貴重な命の無駄遣いじゃん? 人間なんて大した生き方してねぇのに殺し方さえもこだわってあげないとか悪魔の所業じゃん?」


 「あ〜、はいはい。別に俺の知らんヤツのどうでもいい最期になんて興味ねぇよ。俺はお前に殺されないし、誰かを無駄に殺す気も労力も持ち合わせちゃいない。ちったあ落ち着け」



 俺は別に人の趣味に口出すつもりはねぇよ。



 「……ふーん。そういう主義?」



 どんな主義だと思ってんだよ。



 「ぶえぇぇつにいい。相対的に見ればよくいるやつって思っただけーー」



 そうかよ。

 なら、さっさと話進めろやおら。



 「そうね。別に助言するような義理も恩もないわけだしね」


 「まったくだ」


 「なら、本題。アンタのせいでここまで来るのに無駄がいっぱいあったわ。マジ死んでほしいくらいよ」


 「ループするから先に進めろよ……」



 殺したい殺したは、もうお腹いっぱいだ。



 「わぁってるっつの。でだ。まぁ、分かってるとは思うが、アタシは、ソイツがここに来た回数に応じて特典を与えるルールにしてる」



 あぁ、そんなルールあったな。

 1回目は、チート能力。

 2回目は、未来に関するヒント。

 あ〜、そっか。

 ここで俺は、このまま未来になるとヤバいって事を知ったんだ。

 そんでもって律儀な事な、そのロクでもないアドバイスに従って刀になったんだよな俺……



 「そう、よく覚えてる……」



 そりゃどうも。

 でも、その無口キャラはちょっと苦手だな……



 「3回目は、支援……」


 「そのキャラ続けんのね……」



 微妙に絡み辛いんだけど。



 「だからこそ……」


 「そうですかい……」



 でも、支援じゃよく分からんな。

 具体的にはどんな手助けをしてくれると?



 「その前に、質問があった……」


 「はい? 質問? どんなだ?」


 「貴方は、魔法少女かパートナーマスコット、どちらになりたい?」




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