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狂乱と睡蓮




 「ちょ! 兄ちゃんレムを囮りになんて!? 囮りなら俺がやる!」


 「お前が囮りしてどうする!? 奴らレムちゃん狙いなんだよ! 代案ないなら従え!」


 「ふっざけんな! 誰がレムを狙わせるもんか!? それなら代わりに俺が突っ込む!」



 言い終えるのが早いか、真っ先に少年が突っ走ってしまう。

 自分の女……いや、この場合ご主人様か? が狙われて頭に血が登ってんのかもしれんが、圧倒的戦力差を無視して単騎で突っ込むとかアホすぎる。

 コイツ、マジダメだ。

 才能はともかくアホすぎる。



 「あんのドアホ! くそ、仕方ねぇ! 俺が『センペン』で牽制する! レムちゃんはアホの援護!」


 「ワタシがネラわれとるのに、そのワタシがエンゴするのかの? ヤレヤレ、これはキッチリ教育セネバか。とにかく行くぞ!」



 場は、こちら側がやりたかった攻め方とは違い、あちら側の望む所であろう真っ向勝負になってしまう。

 本当あのドアホは、後でキツく指導してやらんといかん。


 状況的には、最悪俺が人化する可能性が無くは無いところまで悪化している。

 もしそうなったら、あのドアホの頭部にゲンコツハゲを作ってやるからな?

 ガチで覚えとけよ?



 「って、やべ! 俺『ドラゴンキラー』持ってねぇじゃん!」



 しかも、マルスオーガを面前にしてようやく、ドアホは己の武装が無いことに気づく始末。

 分かってて突っ込んだんじゃねぇのかよ……


 というか、さっきからずっとオーガ娘が俺を持っとったの見てたろうが!

 何でそれで自分が持ってると思っていた!?



 「お、俺ぴーーんち!!」



 知るか。

 もういいから、お前いっぺん死にかけろ。

 自分の愚かさを心に刻め!

 俺の存在を忘れるなど言語道断!



 「タイヨー! ウケとれい!」


 「うおっと!? ありがとうレム! これさえあれば!」



 『ナマクラ』を受け取ると同時に一閃を放つ少年。

 安易な近づくのは危険と判断したマルスオーガ達は一旦進行を止めていた。

 この間に、オーガ娘も少年に合流する。


 ったく、オーガ娘は下僕に甘い。

 手下が殺されないためだろうけど、わざわざ俺をタイヨーに向けて投擲しなくていいだろうに。

 魔力の一つでも込めときゃ、少年じゃ受け取れないだろうが、それも無しだった。

 これじゃ反省せんぞ?



 「タイヨー」


 「おう! 俺はやるぜ!」


 「アトでオシオキ」


 「えええっ!? な、何でぇ!?!?」



 あ、なるほど。

 この場を乗り切ってからシメてくれるわけね。

 だったらお任せしよう。

 配下のミスは主人のミスだ。

 ただ、特にキツいのを頼むぞ?



 「穿てセンペン! おら二人とも! さっさと動け仕事しろ!」



 出だしから崩れたが、幸か不幸かオーガの群れの足の止まってくれる。

 どうやらマルスオーガ側も、まだ群れとしての攻め方が確立されていなかったらしい。


 その隙を突く格好で、枝分かれした『センペン』が続け様に刺さって、幾分かの距離を作る事に成功。

 チマ兄の考えは、一定の距離を維持しながら削れ、というものらしい。

 


 「……ん? あっ!?」



 が、チマ兄もすぐにこれが失策と理解する。

 この位置関係は、あくまでミドルレンジを前提としたもの。

 つまり、オーガ娘が『ナマクラ』による遠当てを見込んでいたのだが、ドアホの援護のために、その『ナマクラ』を投げ渡してしまった。


 となると、魔力を持たないドアホでは遠距離攻撃は出来ず、オーガ娘でも、マルスオーガ相手ではミドルレンジでの攻撃力が足りていない事になってしまう。



 「こんのアホ太陽! 『ナマクラ』をレムちゃんに戻せ! 協力して中距離から一体ずつ倒すんだよ!」


 「い、嫌だっっ!」


 「よし……って嫌!? 何言ってんだお前!?」



 少年の想定していない返しに、チマ兄がノリツッコミしてまう。

 数で劣っている以上、まずは遠距離攻撃で数を減らすのが基本。

 なのに、いきなり基本戦術をバイバイされてしまう。

 常套手段である奇襲攻撃すら、初っ端から無視しやがった張本人がだ。

 さては、このドアホ、全く空気読めてねぇな?



 「てめ、こんのド阿呆が!? さっきから俺の方針無視しまくってんじゃねぇよ!」


 「うるせえっクソ兄貴!! 今なんか来そうなんだ邪魔すんな!」


 「く、くそだぁ? てめ何考えてやがる!?」


 「俺は、こんな奴らに負けないっ! レムを奪われたりしない! もう震えてなんてないっ!」



 ん、んんん?

 あ、あれ?

 まさかこのアホ……

 さっきの会話気にしてる?

 以前敵を前にして震えてたのを恥じている?



 「もう逃げない……逃げたりしない……震えたりしないし、お仕置きされる事もない……」

 


 うわマジかよ。

 やべぇぞコイツ。

 何かいきなり滅茶苦茶テンパってやがる。

 そんなにお仕置き発言がグサッと来たのかおい。



 「違う違う違う違う……俺は幻滅されたりしない。大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」


 「ム……これはちと、キツくキキすぎた、かの?」



 あんまりの目の色のおかしさに、お仕置き発言したご主人さえ引いている。

 オーガ娘的には、そこまでキツ目に言ったつもりはないんだけどって感じだ。

 というより、誰が見てもアイツの受け取り方が極端過ぎだ。



 「いやいやいやいや! 何をそんな悠長な! おい太陽! オーガそこ! もう目の前だぞおい!」



 うわ、チクショウ!

 兄の言う通りに、マルスオーガは少年のすぐ側まで迫っていて……しかも今、まさに金棒を振り上げていた。

 くっ、どうする!

 人化するか!?

 ……だ、だけど、少年からの何か圧力がヤバい?

 何だこれは?



 「ムっ?」


 「これは!?」



 俺と俺以外の2人も、つい躊躇してしまい動きが一歩遅い。

 その原因はマルスオーガでなく、少年からの異様な威圧だった。

 だが、気迫だけでモンスターが止まるはずがない。



 「グア?」



 だのに、まず異変に気づいたのは、少年に対し金棒を振り上げていたマルスオーガだった。

 何かおかしいと、その己が武器を掲げていた腕を見る。



 「ナ゛ニ゛?」



 その目に驚愕が宿る。

 何故なら、視線の先には既に腕がなく、持っていた筈の金棒そのものでさえ粉塵と化していたのだ。


 ……何が起こった?


 オーガだけでなく、俺でさえそう思っている。

 この身である『ナマクラ』が振るわれていた事に気付くさえ遅れていた上に、今起こった現象についても理解が追いついていなかった。

 


 「糸杉」



 そう呟いたのは少年。

 一瞬何を言っているのか分からなかったが、どうやら今の攻撃の技名のようだと理解する。



 「分かる大丈夫倒せる」



 少年は、どこか目の焦点が合っていないような顔をして、続けてゆっくりと動いている。

 その体の動きは実に緩慢。

 速度もなければ素速くもない人並の動作。


 なのに、先に見せた剣撃までの動きと、その腕の振りのスピードだけが異常だった。

 実際、俺もマルスオーガも、まるで付いていけていない。


 何だこの動きは。

 人の体に何が起これば、急にここまでの人外の挙動が出来るようになる。



 「グ……」



 そこで、軽い変調が目に入った。

 目の端に、何故かオーガ娘がふらつくのが見えたのだ。

 最初は、いつの間にかダメージを貰ったのかと思ったが、どうも様子がおかしい。

 特に外傷らしい傷もないし、周辺からも何の痕跡も見出せなかった。

 何かの異常か?



 「足りない」



 と思ったら、今度は俺にもよく分からない損耗が駆け巡る。

 突然力が抜けるというか、まるで膝や腕から力も触覚も抜け落ちるような感じというか、それが全身に起こったというか……

 とにかく気持ちの悪い脱力感が、俺の身を襲って来ていた。


 って、え?

 ええ?

 うえええっ!?

 これってまさか、俺の魔力か少年に抜き取られてる!?

 オーガ娘のふらつきも、パスを通じてオーガ娘の魔力を吸い上げているからか!?



 「あ、これ使える」



 おいいいいいっ!

 マジかよ!?

 そんなガンガン吸い上げんな!

 それ、俺の魔力!

 人化用の大事なやつ!

 いやてかふざけんやよマジで!

 人様の虎の子ぶんどって透かしてんじゃねぇぞゴラァ!?



 「あ止められたケチくせぇ」



 やっかましいわ!

 これ以上取られたら人化も何も出来なくなってるわ!

 何なんだてめぇは!?


 うあ、くそっ……嘘だろ?

 結構な量持ってかれたぞ?

 なんだよこれ何が起きたんだおい!



 「いいや何とかなる三撃で済ませる」



 人の焦りなんて気に留めもしない少年。

 いつもとは違う口調からして、明らかに普通じゃない。

 しかも、たった3回で10体のマルスオーガをやる気なのか?

 確かに、一体の腕を消滅させた斬撃は異常だが、剣線3つで10の数を倒す気だってのか?

 相手は、進化6段階目なんだぞ?



 「ふぅぅぅ……」



 少年は、深く呼吸して腰を落とす。

 構えは何ら優れてはいない。

 むしろ適当。

 格好だけを取り繕っただけの逆胴風の構え。



 「グオ!?」

 「ガグ!?」

 「ゲブ!?」



 なのに、次の瞬間には、3体のマルスオーガが、ほぼ同時に腹を裂かれて、既に消滅し始めてしまっていた。

 硬皮もコアも関係ない一刀両断。


 少年の立ち位置もまた、瞬間移動したみたいに、切り捨てた3体のオーガを、既に背にしているのだから意味不明過ぎだ。


 何なんだよおい、このいきなり覚醒チート野郎は……



 「次の3」



 また、一声掛ける。

 ……と、またオーガ3体が切り刻まれている。

 しかも今度は粉微塵に。

 もはや、オーガ達は声を発するまでもなく消滅してしまっていた。



 「余裕あるぞならラスト4は派手に」



 その言葉を正面するように、少年? は魔力を体の外側に放ち出す……って、それ俺の魔力!

 そんな派手演出のために無駄にすんなよ!?

 余ってるならちったあ返せよ!?



 「フフフこれならお仕置きはないよだってすごいしヒヒヒヒヒヒ」



 こんのやろおおおお……

 人の気も知らないで気持ちの悪い笑いしやがっえええ……



 「ヒクゾ! アレハヤバイ!」



 と、そこでマルスオーガの一体が撤退指示を出す。

 恐らくは、この群の頭なのだろう。

 武が悪いと踏んでの判断を下す。


 しかし、これはこれで異常な話だった。

 オーガの、特に高位の進化体だと、己の武勲のためなら死を恐れない者が多い。


 オーガ娘も退くこと自体に抵抗感を見せなかったが、あれはそれなりの理由があっての話。

 

 なのに、この群れは単に少年が恐ろしくて逃げるのだ。

 少なくとも俺が戦ってきたオーガには、こんな不名誉を許容する奴等はいなかった。


 ……やはり、この足立区は、もう既に何かが変わってきているようだ。



 「あん?逃すわけない馬鹿めが死ねよ」



 背を向けての敗走を示すオーガ4体に、少年は一切の容赦を見せない。

 そりゃ俺にも、敵を逃すなんて答えはないが、どうにも少年のこの判断は、足立区民としての責務を果たすとか、そういう発想のものではない。

 単なる見せしめや、顕示欲にまみれた追撃にしか見えなかった。



 「撃滅する」



 先程から溢れ出ていた魔力が、更に激しく噴出する。

 しかも、飛び出した魔力は荒々しい波を形どり、オーガ4体をあっという間に追い抜いて、足元に纏わりついていた。


 ここに来て、俺もようやく少年の技の全容を理解した。

 この技は、身体能力を向上させる類の手法ではない。

 結論から言ってしまえば、これは操り人形のようなもの。


 曲がらない方向に、腕を無理やり意識的に曲げる。

 人形を波の中に投げ込んでみては、客観的にどこに辿り着くか把握する。

 少年がやっているのは、そういう事である。


 周囲張り巡らせた魔力を、意図的に物凄い勢いで動かして、体全部をその魔力の波に乗せてしまう荒技。

 あたかも自分の体を他人の物のように扱う覚悟がなければ、こんな無茶は出来ない筈だ。



「睡蓮」



 少年はぽつりと呟く。

 すると、次の瞬間には逃げるオーガ達を追い越して、静かに地面を滑り終えている。

 花の名を口にしてから、ここまでがほぼ無音。

 今までの少年と比べてしまえば、それは常軌を逸した剣撃であった。


 そして直後、少年の背後には、みじん切りにされたモンスターの残骸が、あたかも蓮の葉のように、次々と円が描かれていく。


 その静けさや見た目からして、確かに睡蓮という花のイメージに、とても相応しいと思える技名であった。

 

 だが、恐らくは狙ったのであろう、睡蓮の花言葉は、滅亡と信仰。

 もはや、色々な意味で、危ういと思わざるを得なかった。





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