大学とエンカウント
「魔法の、レポート?」
その言葉に反応したのは兄だった。
てか、少年だけだと話の大半スルーしそうだったから、最悪何の意味もなく終わっていた可能性すらあるな。
マジ兄がいてくれて良かった。
「ソウだ。ヒトのモジで書かれたモノだった」
「……確認だが、その大学というのは、北千住の大学か? 後、いつ書かれたものか分かるか?」
「ウム、バショはキタセンジュ。ヒヅケは、2021ネン8ガツと書かれていたな」
「2021年!? 封印の2年後!? しかもあの北千住で!?」
驚愕の事実、Part2。
念のために言うと、今年は西暦2059年だ。
そして、レポートの日付が本当であれば、モンスターの総本山のど真ん中で、最低2年生き延びた誰かが居たという事になる。
おそるべき生存力だな……
「内容……内容は!? 今、魔法のって言ったよな? たった2年で魔法の何が分かったって!?」
さっきまで殺し合った上に、宥めすかされてたのに、驚きのあまり遠慮も何もなくなっている。
まぁ、兄は魔法に関して大いに悩んできたしな。
まして、そのレポートを、この博識のオーガ娘が見ていたとなれば、気になって当たり前か。
ただ、ちょ〜っと前のめり過ぎ。
「ナカミは……イロイロだの。前に話した、マホウのハンヨウセイや、マリョクのセイシツ。どのドウブツが何のモンスターになったか。マホウカベ……コチラではキリのカベだったか? そのコウサツ。タセカイカイシャク? なんてのもあったが、他イロイロだ。もっとも、みなスイロンどまりではあったがな」
きょ、驚愕の事実Part3……
え? 嘘だろ?
今から39年前の段階で、そこまでの推論を組み立てていた?
どんな天才だよソイツ。
北側の俺らだって魔法研究自体は、39年の歴史があんだぞ?
だけど、魔法は一人一種類ってのがファイナルアンサーだったし、モンスターの元になった動物だって類推程度までしか分かってない。
なのに、ソイツときたら俺らの常識を39年も前からぶっ壊しにかかってきやがる。
侮れないな、東京電機大学。
「あ……って事は、レムちゃんの魔法の知識って……」
「ウム、ハズカシながら、そのレポートのウケウリだ」
「そ、そっか……そうなのか……」
あ、コイツちっちぇえ。
あからさまに安心しやがったぞ。
自分自身のオリジナルでないと分かって、だったらまだいいかな? とかって勝手に線引きやがったぞ。
マジ人間としてちっちぇえ。
チマ過ぎる。
これからお前の事は、チマ兄と呼んでやろう。
「そのケンキュウシツで、ワタシはマナんだ。マホウをリカイし、おぼえ、カイハツした。それと、スイロンでトマッていたケンキュウをジッショウもした。中にはチガうものもあったが、オオむね正しい物ばかりであったかの」
うーむ、やはり凄まじい。
推論とはいえ、その殆どが的を得ていたとか常軌を逸している。
あ、もしかして、ソイツも俺と同じく異世界帰りとかか?
多世界解釈とかも研究してたみたいだし。
だったら魔法考察の基礎はあっただろうから、決してない話じゃない。
「なぁレム? その人なんて名前なんだ?」
お、良いとこで聞いたな。偉いぞ少年。
せめて居るって事くらいアピールせんとな。
「テンノウジマドカ。ワタシが言うのもナンだが、オソらくヘンジンだの」
えっと、天王寺まどか、か?
関西人か?
下の名前は円なのかは分からんし、全く聞き覚えもない。
となると、少なくとも俺の知る異世界は関係なさげか。
少し残念。
「でも、その変人ってのは?」
「ソノままだの。ケンキュウとはカンケイないファンシーな絵で、ナガナガとロンブンをセツメイしていたり、コスプレ、と言うのか? フリフリフワフワしたフクをキテいたり、そうと思えば、モンスターをチマツリにあげたショウサイや絵をカベイチメンに描いていたり、マジデンなるパートナーマスコット? とか言う意味不明なものをツクろうとしていたり、キワメツケは、何のチュウチョもなく、オーガやオークを食っていた、らしいのだ。ハッキリいってキモチわるいヤツだ」
うん、そんなヤツ絶対知らんわ俺。
会ってたら、絶対忘れないインパクトがありそう
。
てか、そいつは研究者なのか?
売れない漫画家とかでなく?
「えっと、でもそんな細かい話を、どうしてレムが知れたんだ? あれ? もしかしてまだ生きてたとか? お婆さん?」
うわ、嫌な想像しちまった。
フリフリひらひらなファンシー婆さん。
しかも、背景は血塗れモンスターとかマジ恐ろしいわ。
変な事言うな少年。
「いや、ワカらぬ。死体はなかったしの。ただ、日記とシャシンがノコされておった」
「で、その中に、モンスター食った事が書いてあったり、写真に写っているのがあったと?」
「ウム、さいしょはコレがニンゲンというイキモノなのだともオモったが、そのあと見たニンゲンとクラべても妙だったからの。そもそもモンスターを食うとか、ワタシでもリカイできぬ。マギれもなくヘンジンであろう」
然り然りと、自分で納得した風に頷くオーガ娘。
モンスターからして理解できないとか、どんな人間だったのだろう。
写真があるってのと名前から人間だとは思うが、ただ、変に研究内容が一貫していない気もする。
なんだよパートナーマスコットって。
魔法少女か何かか?
でもまぁ、場合によっては、状況に着いていけずに狂人化したって話もありそうだし、一概に変人とは言い難い、かな?
それに、コスプレとか絵とかって話だと、鏡家にも変なのが居なくはないわけで……
「あ〜、ちなみにそれコスプレって言うか、多分それゴスロリってやつかな。きっと多分」
「ん? 何かチガウのか?」
「いやぁ……分かんないんだけど、その、さ……なぁ、兄ちゃん?」
「いやいやいやいや俺に振られても……ただまぁ、そうだな。ウチの妹に言わせたら、そうなる、のか? 恐らく」
「イモウト? おぉ、そういえば、オヌシらにはイモウトギミがオるのだったの」
うんまぁそう……そう、なのよね。
いるのよね、妹。
居なくはないって言ったばかりだけど、その……微妙に扱いに困ってるやつがね。ちょっとね。
「ふむ、どんなオナゴなのだ?」
「うえ!? あ〜、うん。なぁ、兄ちゃん?」
「だから俺に振んなよ! 後が怖いだろうが!」
妹について言明するのを押し付け合う兄弟。
気持ちはわかる。
変に真っ正直に言ってしまえば、オーガ娘から妹の空が、その北千住の研究者と同じく変人認定されかねないしな。
それは、二人とも兄として……というか、あんな妹がいる、という事実に塩を塗る行為というか、とにかく自分らが痛ましい気持ちになってしまうわけである。
かと言って、ここで誤魔化すみたく妹は普通です、とか言ってしまえば、後々オーガ娘が混乱するに違いないし、何より当該妹からの「普通って何? いっぺん、死んでみる?」攻撃が始まってしまう事だろう。
それは、至極面倒くさい。
ていうか、マジ死にかねんのよ色んな意味で。
アレは、家族以外の人間にはアンタッチャブルなのだ。
「い、妹の事はいいだろう? そのうち会う事もあるさ(会わないで欲しいけど。出来るなら)」
「そ、そうだぞレム。まぁ、今はこんな状況だし、まだまだ先になるかもしれないけど(叶うなら、永遠に先でいいかな)」
「ふむ、マァ、イイかの。いま話したい内容とは違うしの(ドウあれ、アえるヨカンしかせぬしの)」
直感ではあるが、何となく3人揃って同じような事を考えている気がする。
しかも、会うのに後ろ向きなのと前向きなのとで違いはあれど、どことなく3人とも会う予感みたいなものは感じているらしい。
かく言う俺も、会わざるを得ない気がしている。覚悟してない時は、会いたくはあんまりない。
いや、可愛い孫なんだけどさ。
「そ、それより北千住の人については? レムには、他に何があったんだ?」
「うむ。そうだの。テンノウジに関しては、レポートだけはイッパイあったが、ダイタイそのくらいかの。そのあとは……ム」
「おい、太陽」
「分かってるよ」
3人揃って目を細め、同じ方向へと視線を向ける。
いいねいいね。
なかなかに鋭い。
もう言わなくても分かるだろうが、敵性反応だ。
「数は、10?」
「ゼンブ強いの」
「間違いねぇ。俺の毒結界を超えられるのは、人間以外じゃ、進化4段階目以降のモンスターだけだ」
「ヌ? ナンだそれは?」
「あん? あ〜、もしかしてこれも気付いて無かったか。この河岸にモンスターいないの、俺の毒のおかげ」
「あ、そうだったのか? てか、すごいな兄ちゃん!」
全くだ。
モンスターを近づけないなんて特殊な魔法は他にないのだ。
この魔法に至るまでの、相当な努力が窺い知れる。
「ヒカルよ……そんな奇特な魔法マデあって、ナゼにヒケメを感じるのか。おヌシ、実はアホなのか?」
「い、いいだろ別に!」
「あ〜、兄ちゃんは、昔からアホなクセに変に頭使うとこあるよなぁ」
「た、太陽てめ!? 俺をそんなふうに思ってたのか!?」
「いや、だってさぁ」
「ハイハイ、2人とも気をヒキしめよ。そうタヤすいアイテではないぞ?」
「ちっ。にしても本当強い感じがしやがる。これはまさか、マルスオーガか?」
「うえ゛!」
「ム? どうしたのだ? タイヨー?」
「べべべべ、べつになにも!?」
「あ〜、こいつマルスオーガにトラウマあんだよ。全く勝てそうになくて、俺が戦ってる後ろで一人ぶるぶる震えてたしな」
「そうなのか?」
「ちょ!? っざけんなよ兄ちゃん!? いいかレム? む、昔の話だからな!? 今は違うからな!? 本当違うんだからな!?(多分だけど……)」
「なるほどの」
「流石嫁さん。よく分かってるぜ」
「これくらいはの」
「ぐぬぬぬ……」
「ではリベンジだの。 コンドこそイけるかタイヨー?」
「も、もちろん!」
「へっ、そう言いながらやっぱり震えてんじゃん」
「ふ、震えてねぇ! これはその……そう! 武者震いだ!」
「……お前はまた、古めかしい言い様を」
「だからオヌシら、そろそろシズかにせんか!? モウ来るのだゾ!?」
……賑やかな奴らだ。
どうすれば、戦ったすぐ後なのに、何故にこんな仲良くなれるのか。
俺的に理解できん。
本当に何故なのか、ウチの家系は、戦った相手が強かったら、それだけで相手を無駄に認める節がある。
昔のバトル漫画じゃないんだから、そんなすぐ打ち解けないで欲しいぞ。
いや、仲良いのはいいんだけどさぁ。
せめて緊張感は持ってくれよ頼むから。
「うへぇ……本当にマルスオーガだぁ……」
そうこうしていると、河川敷の土手の向こうから、ズシンズシンと、無駄にデカいオーガが10体まとめてやってくる。
その全てが、オーガ第6進化系のマルスオーガに他ならない。
手には各々金棒やら刀剣のような武器が握られていて、その全力がどの程度のものか想定も出来なさった。
何より通常、ここまで進化したモンスターが群れる事自体が珍しいと言えた。
何て厄介な事態……
これは予想だが、コイツらは江北に辿り着く前に遭遇した集団のオーガ達と、俺は類推している。
それが、あの時はまだ3段階目のハイオーガの群れだったのが、今では6段階目まで成長しているのだから恐ろしい。
つまり、あの場は戦力的に不安があったためか俺たちを見逃してくれたのだが、準備が整ったが故に、今になって攻めてきたわけだ。
恐らくは、より勝利を確実にするために、自分らで殺し合い自ら進化したものと、俺は仮定している。
モンスターは基本自害はしないのだが、何か強いストレスを感じると、危険を感じて進化のために殺し合う場合があったためだ。
「ネラいは、ワタシかの」
「は? 何でレムを?」
少年やチマ兄は不思議がっているが、俺も同意見。
アイツらから見ても、オーガレムナントなる存在は、極めて異常な個体なのだろう。
オーガ娘の能力的なものへの警戒感か、存在そのものに拒否感があるのかは分からんが、そのストレスが同種殺しによる進化へと発展させたと見る。
そして、進化をして準備が整った事と、何よりオーガ娘が連戦して消耗しているのを察知したからこそ、この機に攻め込んで来たのだろう。
だが、所詮は烏合の衆。
まだまだ思考がモンスターの域を出ていない。
分かりやすくも、オーガ娘狙いだと言うなら、こちら相応の打手があるというもの。
楽勝である。
「くそっ! 確かに奴らみんなしてレムを見てやがる!」
「フン、ニンキモノはツラいの」
「だが、それならそれで動きようがある。レムちゃん、撹乱を頼めるか?」
「オトリのぅ。まぁ、リョウカイしよう」
うむうむ常套手段。
勝手に特定のヘイトを高めておいてくれるのだ。
これを利用しない手はない。
オーガ娘としても、自分が囮りというのに不満が無いわけではないが、真っ向勝負では決して勝率が高くない分、ここは素直に了承してくれた。
流石賢明である。
……だってのに、酷い話で味方側に敵がいた。
誰か。
言うまでもないが、残りはオーガ娘を主人とする少年しかいなかった。




