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小向ツインズは旅の恥をかき捨てる  作者: ありの みえ
1章 小向ツインズは異世界に召喚される
7/24

十六歳はまだ未成年です

「子ども同士の内緒話は可愛らしいが、一応コツは教えておこうか」


 すでに魔力は扱えているようなので、簡単に覚えられるだろう。

 そう言ってレアンドロが教えてくれたのは、本当に簡単な方法だ。

 風というか空気を操って、声を目的の人物だけへと届けるというものだった。

 

 ――リン、聞こえる?

 

 ――聞こえるよー。

 

 早速試してみたが、たしかにすぐに出来る簡単な方法だ。

 これならば対象者以外へは音が漏れないので、内緒話を聞かれることもない。

 

 ――レアンドロさん、私たちのこと子どもだって!

 

 ――そりゃ、大人のレアンドロさんから見たら子どもだと思うけど……。そういえば、レアンドロさんっていくつぐらいだろう? アンドレのお兄さんなんでしょ?

 

 ――そもそもアンドレがいくつぐらいなのか。

 

 ――体だけは大きいけど、中身は兄上大好きなお子様だったね。

 

 ――ねー?

 

「……ぷっ」


 ……ん?

 

 覚えたばかりの『内緒話』で花蓮かれんと無駄話をしていたら、レアンドロが小さく肩を震わせた。

 その仕草になんとなく違和感を覚え、ジッとレアンドロを観察する。

 ジーっと花蓮と二人でレアンドロを見上げていると、レアンドロは降参とでも言うように、小さく肩を竦めて両手をあげた。

 

「その、あくまで……教えたのは『簡単な内緒話のやり方』だから。確かに音は聞こえないけど、唇の動きを読める人間なら、二人の会話は判る。ちなみに、私は二十三歳で、弟は十七歳だ」


「え?」


「アンドレって、私たちより一つ上なだけだったの!?」


 背が高いし、軍服といった日常からかけ離れた格好をしていたため、社会人おとなだと思い込んでいたが。

 アンドレは日本ならまだ高校生といった年齢だったらしい。

 

 私たちはアンドレが十七歳という事実に驚いていたのだが、レアンドロは逆に私たちが十六歳であるということに驚いていた。

 

「てっきり、十……二歳ぐらいかと……」


「あ、それですごい子ども扱いだったんですね。納得!」


「日本人、外国の人からするとすごく若く見えるって聞くしね……」


 十と二のあいだに微妙ながあった気がするが、そこはあえて突っ込みを入れないことにする。

 実年齢からあまりにも離れている、とレアンドロが気を遣ってくれたのだろう。

 見た目から子ども扱いをしないように、という配慮の結果かもしれない。

 

「……それじゃあ、君たちが十六歳の大人だと言うのなら――」


「あ、日本……私たちの国では、十六歳はまだ未成年こどもです」


 実年齢から大人と判断されて放り出されても困るので、ここはしっかり釘を刺しておく。

 十代前半と思われての、ここまでの甘め対応だったのなら、手のひらを返されても困ってしまう。

 

「高校を出て働く人もいるけど、その場合は十八歳だね」


「最近は大学に行く人も多いから、成人年齢は二十歳だけど、二十二歳から働く人もいるね」


「……つまり、この国では成人年齢に達しているが、まだ未成年こども扱いでいいんだな?」


「それでお願いします」


 常識と認識のすり合わせが必要そうだ、と互いに頷きあう。

 幸いなことに、身振り手振りは日本の物に近いようだ。

 外国のように『肯定』の身振りで首を振ったりはしない、と思いついたままに質問をしたら教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

「……見た目ほど子どもではない、ということで、もう少しこちらの事情を話しておこう」


 私たちの生活の場は、《新月の塔》で働く魔法師たちが生活する『魔法棟』と呼ばれる棟になるらしい。

 《新月の塔》というのは魔法師と魔法関連の仕事や研究が集まる場所で、国の機関なのだとか。

 そんなところへ私たちのような身元不明者が入り込んでも大丈夫なのか、と指摘したところ、身元不明者だからこそ野放しにできないのだ、と屁理屈を捏ねられた。

 不審者だからこそ、目の届くところへ置く。

 少なくとも、上へはそう届け出る、と。

 

「《新月の塔》で一番偉いレアンドロさんの上というと……?」


「国王陛下と宰相閣下、あとは必要に応じてポツポツと……かな」


 自分の統轄する魔法師のしでかした失敗として、報告は絶対にする。

 そこに誤魔化しは入れない。

 どちらも忙しい方なので、面通しをすることにはならないと思うが、もしも呼び出しがあった場合には応じてほしい。

 そう続いたレアンドロの言葉に、花蓮と頷く。

 これから世話になる人たちだ。

 必要な呼び出しであれば、応じるのは当然だろう。


「……それ以外は好きに過ごして構わないけど……街へ出るのは当分の間禁止させてもらおう。その方がいいと、君たちなら解るね?」


「常識と認識の差、ですね」


「うん、察しのいい、聞きわけのいい子は助かるよ」


 ……察しの悪い、聞き分けない子でもいるのかな?

 

 なんとなく、レアンドロの瞳の奥に心労が垣間見える気がして、花蓮と顔を見合わせる。

 少なくとも、私たちはレアンドロの心労にならないよう、慎重に行動しよう、と。


 外出については少しこの世界、この国のことを学んでから改めて許可をしよう、と話を結び、一先ずの解散ということになった。

 

 魔法棟は男女で生活区画が分かれているらしく、私たちの案内はレアンドロにはできないそうだ。

 そんな説明のあとにレアンドロが腕を振ると、室内にメイド服の美女が姿を現した。

 

 美女、だとは思うのだが、明らかに人間ではない。

 波打つ緑の髪は床に届いてもまだ長く、白い小さな花と葉が複雑に絡まりあった髪飾りをしている。

 肌の色は人間に近い色をしているのだが、よく見ると袖から覗く指先には指紋ではなく木目があった。

 明らかに、人間の形をした別の存在だ。

 

 レアンドロから「家政精霊だ」と紹介された美女は、名前を『エンマ』と言うらしい。

 エンマは魔法棟で寮母のような役割をしているそうだ。

 魔法棟で困ったことがあれば、なんでもエンマに相談すればいい、とレアンドロに自身を紹介され、エンマは誇らしげに微笑んでいた。

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