巷で噂のグルメ怪盗
なろうラジオ大賞用小説第九弾。
【 今日 貴方の大事なモノを盗ませて頂きます 怪盗G 】
なんだかかの虫を連想させる名前だ。
しかしこれでも怪盗Gは世間では有名な怪盗だ。それもなぜか飲食店ばかり狙うという正体不明の怪盗。
そんな奴の予告状が、俺が親から継いだ中華飯店のカウンターの上にあった。
見た途端、嘆息する。
警察に届けるべきか非常に迷う。
届ければ警察は動き、この店の事を逐一確認するだろう。
そして店の関係者と警官以外の者が店に入りにくくなる。
しかし通報せねば何かが盗まれる。
「まぁ、逆にこっちが奴を捕まえるのもアリかな」
可能かどうかはともかく、とりあえず警察にこの店を逐一確認されて、変な誤解を客に与えて客足が減るよりはマシだ。
事実として、怪盗Gに何かを盗まれた店が、その後閉店したなどという話は新聞に載ってないしニュースにも出てない。
逆襲してみる価値はある。
「おい、ちゃんとラーメンの仕込みやってあるだろな?」
「は、はい……店長」
俺の指導によってフラフラな店員に質問する。
そしてこれまで通り、俺は中華飯店を開業した。
それから終業時刻まで店を観察したが、怪盗は現れなかった。
代わりに人気ブロガーらしき客や帽子被った少年などいろんな客が来たが。
「おい、俺の休憩中に変な客こなかったか?」
盗みに入るなら、おそらく俺の休憩時間だ。
正直ウチの店員の警備は不安だらけだしな。
「え、えっと」
店員はキョドり、目を泳がせた。
俺はそれに怒りを覚え、店員を叱ろうと近づいた。
とその時、
「すみません、警察です」
店のドアを開け、警官が現れた。
まさか怪盗Gの情報が警察に筒抜けだったのか?
「店長さん、今、店員さんに何しようとしてました?」
「は?」
意味不明な質問。
俺はすぐに握り拳を解いて逆に訊ねようとしたのだが、
「暴行罪の容疑で、貴方を逮捕します」
俺に手錠がかけられた。
「そこの店員さんが提供してくれた隠しカメラの映像が決め手です。というワケで貴方を連行する」
そしてあれよあれよと俺はしょっぴかれパトカーに……って待て!
「おいどういう事だ! 俺が一体何を!?」
というか俺しか店の秘伝のスープ作れんから店が潰れ……あ? なんで外で店員が帽子被った少年とガッツポーズを?
「ま、さか!?」
「店長、俺は今から独立します」
店員はニヤリと嗤いながら言った。
「味はこの子が解析したんで大丈夫ですから、刑務所でしっかり……俺にした事を反省してください」
「クソッタレ! 味を盗んだな怪盗G!」
部下を大切にしないと……痛い目を見る場合もありますよね。