魔王、勇者を助ける。
「なぁ、ここの森ってこんなに魔物強かったけ?」
少年は、悪態つきながら、大量の魔物の死骸に座った。
年齢からして12歳の少年だが、強者独特の雰囲気
を醸し出している。
「ここの魔物は、こんなには強くなかったと思います。」
大量の魔物の死骸に座っている男の近くにいた40代後半のしかし、ただ者ではない雰囲気を醸し出している白髪の男は周囲に警戒しながら、自分の見解を伝えた。
「だよなぁ。やっぱ、アイツらの仕業だとクラウスも思うか?」
「でしょうな。」
クラウスと呼ばれた白髪の男は4センチくらいの長さを持ったあご髭を弄りながら答える。
「シン様。あそこで、人が襲われているのですが…どうしますか?」
クラウスの視線の先には、赤い髪の少女と、それを守るように戦っている体格のいい男がいた。
善戦とはいかないが、なんとか耐えているようだ。だが、その直後、どこに隠れていたのか、木の間から、10体くらいの、魔物達が姿を現した。それを見た、男は一瞬硬直してしまう。その、一瞬の隙を突かれ、一匹の魔物の爪に体をひきさかれた。とっさにカバーしたものの、傷は深くなく、その場で倒れてしまった。
「…あ、見つけた。」
シンと呼ばれた少年は魔物死骸から、降りると少女達の方へ歩いていく。
「…もしかして、あの少女ですか?」
「あぁ、勇者だ。」
そう呟いたと同時に、シンの真横から、左右同時に、黒く塗り潰された漆黒の毛を纏わせた狼が音もなく音速に届くくらいの速度で右の狼は前足で踏み潰そうと、左の狼は顎で引きちぎろうと襲ってきた。
シンは、何もしない。二匹の狼は、直後、顔面がなくなっていた。
何もしてないと思われた、シンは音速で森を駆け抜ける狼さえも認識できない速度で二匹の狼の顔面を片手と片手で握り潰したのだ。
音もなく、襲おうとした二匹の狼は、ドスンッと音をだして倒れた。
倒れたと同時にシンはその場から、姿を消し、少女の前へ現れた。
「…!?」
少女は、突然現れたシンに驚き、少女を守っていた男は、シンの正体に気づいたが、その余力がないのか、倒れたまま、動かない。
少女の目の前に現れたと思ったら、その直後、周りにいた魔物が、一斉に燃え始めた。
そして、一瞬でチリになった。
少女は、驚きすぎて、表情をなくしていた。
「…大丈夫か?」
シンの声に少女は、ハッと我に返ると、ずっと倒れていた男をみた。
「が、ガムイさんが倒れちゃって、助けてください!わ、私の力じゃ足りなくて…」
必死に泣くのを堪え、助けを求める少女。
「無理だな。恐らく、傷を負わせたのが猛毒性の魔物だったんだろう。すでに全身に毒が回っている。」
「そ、そんな。ガバルざんは……づよいんだお…ごんなとごでじなないんだよ…」
少女の目から大量の水が溜まって零れる。
「ガバルさんとやらを殺したのは、お前の弱さだ。お前が強ければ、そいつは、助かっていたかもしれない。」
父親の様に慕っていた少女にとって、シンの言葉は、厳しい言葉だった。シンは数秒、間をあけて問いた。
「強くなりたいか?」
少女は、その一言を聞くと静かに頷いた。溜まっていた、涙をふきとり立ち上がる。
「もう、私の大切な人を死なせない!」