短すぎるラブレター
- 6 短すぎるラブレター -
空くんへ
突然のお手紙、驚いていますよね。本当にごめんなさい。
あなたがこの手紙を読んでいるということは、私は残念ながら死んでしまったということですね。
実は、私にはこうなることがわかっていたんです。
私には不思議な力がありました。
人の心を読んだり、未来を見たり.......。
「なんでそんなことが?」って思うでしょうけど、私にだってわかりません。実家にいた頃は巫女としても育てられたので、そういうのが関係しているのでしょか?まあ、真相は不明です(笑)
とにかく、ある日私は自分が死ぬ未来を見てしまったのです。
救急車に乗って運ばれる、そんなシーンでした。なにがあったのかはわからない。だけど、間違いなく私はその後に死ぬんだと確信しました。
だって、それ以降の未来を見ることがなくなったから。
怖かったし辛かったです。信じたくなかった。嘘であってと願い続けた。
だけど信じるしかなかった。今まで何度も未来を見てきて、全てがその通りになってきたのだから。
逃れることのできない終わりに、嫌になって引きこもって、空くんと驗に迷惑をかけてしまいましたね。本当にごめんなさい。
だけど、あなたはそんな私を受け止めてくれた。
泣いている私を抱きしめてくれた。
ずっとそばにいてくれた。
嬉しかった。その温もりが私を癒してくれた。
あの日、空くんが言った言葉、あのおかげで私はまた空を見上げることができた。
だから私も、逃れられないのならその最後の一瞬まで生きてやるって、生を輝かせてやるって、そう思えるようになりました。
感謝しています。ありがとう。
伝えたい言葉がたくさんあるのに、うまくまとめられません。
でも、どうしても、この手紙を書かずにはいられなかった。
これは遺書ではありません。
生まれて初めて書くラブレターです。
だから、拙い文章でも笑わないでくださいね?
空くんのおかげで、私は人に愛される幸せを知りました。
人を愛する幸せを知りました。
本当にありがとう。
私はもういません。あなたの手を握ることはできない。
だけど、あなたの手の優しさをこの手紙を書いている今でも熱を感じ続けています。そしてきっと死んでも。
私はあなたを愛した。そしてあなたも私を愛してくれた。
あなたの中にも、もしまだ私の熱が残っているのなら
ごめんなさい。余計なものを残してしまって。
ごめんなさい。迷惑ばかりかけてしまって。
ごめんなさい。あなたの人生の邪魔をしてしまって。
ごめんなさい。驗を背負わせてしまって。
ごめんなさい。手を離してしまって。離れてしまって。
空くん 私の恋人 私の大好きな人
もっとその名前を呼びたかった。
幸せな時間をありがとう。
ずっと大好きです。
どうか、早く忘れてください。
❇︎❇︎❇︎
便箋のいたるところが滲んでいる。
それは、俺の涙だけじゃなく、陽子さん自身の涙の跡もあった。
「陽子さん......ありがとうより、ごめんなさいの方が多いよ....」
嗚咽混じりの言葉は、届くはずのない声として宙に消えた。後には虚しさと儚さだけが残る。
それでも、俺はたしかに陽子さんに向かって言葉を紡ぎ続けた。
「こういう時は、『ありがとう』の方が嬉しいって....陽子さんが言ったんじゃないか....!」
堰を切ったように流れ落ちる涙が、便箋の文字をさらに滲ませる。彼女への想いが、涙に変わっていく瞬間だった。湧き立つ感情が溢れて止まらなかった。
「なんだよ、余計なものって.....なんだよ、迷惑って... !なんだよ!邪魔って!」
ごめんなさいじゃないよ....ぜんぶ、ぜんぶぜんぶありがとうだよ。なにもかもが俺にとって必要で大事なものだよ......。
「陽子さん....俺...」
忘れられないよ。
絶対この先も一生あなたを感じ続けるよ。
だって、愛してるから。
永遠にあなたは俺の恋人なんだから。
俺たちは永遠に繋がっているんだから————。
❇︎❇︎❇︎
驗へ
先にいなくなっちゃってごめんなさい。
たった十一年しか一緒にいられなくてごめんなさい。
急なことで受け止めきれないと思うけど、どうか前を向いてください。私は死んでも、驗は生きているんだから。
驗は私にとって大切な子供です。驗のおかげで、私は頑張ってこられた。辛いこともへっちゃらだったよ。ありがとう。
あなたはこれから先、やるせないことや、どうしようもなく理不尽な出来事にたくさん直面すると思う。
だけどね、そんな時は我慢しないでいいからね。
泣いていい。怒っていい。ぶつかったって転んだっていい。声を上げて叫んだっていい。
その痛みを知れば、他の誰かに優しくできるのだから。
そうやってあなたはあなたになっていくの。
強くなくたっていい。弱くていい。
あなたはあなたらしく、『驗』として生きていくの。誰にも染められない『驗』になるの。
この先を生きたあなたが大人になって、過去を振り返ることがあったら、その時はたまにでいいから思い出して。
たったひとり、私というあなただけの母親がいたことを。
あなたは私のいた『驗』だから。
あなたは私にとって、母となった『驗』だから。
だからお願いです。
生きてください。
一生懸命、しっかりと生きてください。
なにがあっても生きることを諦めないで。
なにがあっても、最後のその瞬間まで命を輝かせて。
生きて生きて生きて、あなたの足跡を、
あなたの生きた『驗』を刻みつけてください。
そして いつかあなたが誰かの『驗』になれることを、願っています。
最後に
生まれてきてくれてありがとう。
私をお母さんにしてくれてありがとう。
いいお母さんじゃなかったかもしれないけど、私は驗のお母さんになれて、とっても幸せだったよ。
次はもっと大人になった姿で会おうね。
愛してるよ。
ありがとう。
❇︎❇︎❇︎
「うわああああん!」
涙が止まらなかった。涙が邪魔で前が見えなかった。だけど止めたくなかった。それでよかった。
声を殺すこともなく、ぼくは大声で泣き叫んだ。
それなのになにも聴こえない。ぼくの声すらも。
ただ母さんの声が聴きたかった。
「母さん!母さん!」
ぼくはその人を呼び続ける。もうどこにもいないのに、届くはずのない声を必死に張り上げて。
なにを伝えたいかなんてわからない。だけど、会いたい。会ってとにかくいろんな言葉を伝えたい。
きっと母さんは、なにも言わなくてもぼくの気持ちなんてぜんぶお見通しなんでしょ?
でも、それでもね、ぼくはちゃんと言いたいんだ。
自分の言葉で伝えたいんだ。
ありがとう。ぼくを生んでくれて。
ありがとう。ぼくの母さんでいてくれて。
ありがとう。いままで一緒に生きてくれて。
ぼくは、これからも生きるよ————。




