『霊柩車』をわれ先にと、泣きながら叩く群衆を見た件
べつに悪いことをしているわけではなく、そこには亡くなられた方への愛だけしかなかった。
いちばんわかりやすいのは、強さや運にあやかりたくて、さらに言うなら神てきなものに対する憧れを込めて、大相撲の花道を通る力士の背中に手置きたがる相撲ファンの姿だろうか。
一軒の民家。
いくら昭和で最も輝いた大スターの御殿と呼ばれる豪邸だろうが、密葬をとりおこなったのは、一軒の民家。
そこに、それこそ文字通り全国津々浦々から、集まられたファンの方々の数、およそ七千人という。
「お嬢ぉ〜」
「ひばりちゃ〜ん」
と怒声のような哀切な泣き声が飛び交う中、家を出て行く一台の黒塗りの車。
一台の霊柩車が、歩くよりも遅い速度で人の海を割って進んで行く。
そのときの、数多くのファンの方々の取った行動が、冒頭に挙げた、愛しかない、力士の肩や背中を叩くように霊柩車を叩くというものだった。
それは異様な光景だった。
そしてそこには、まだ『ひばりちゃん』が生きているような、いや、違う、亡くなられた遺体にさえ少しでも近づきたいというような自分の神に対する熱烈で冷めることのない愛情が込められていた。
そもそもが、没後30周年のテレビ番組で見た光景だから、亡くなられて30年を経てなおかつ1時間半だか2時間だかの特番をほぼゴールデンで放送されるというのが凄い。
しかも、いままで見たこともなく、ちゃんとは数えてもいないが、そんな特番が1年間におそらく数本はいままだ放送されている。
そんな人間って、いるだろうか、彼女のほかに?
そして、今回ほぼ初めての「美空ひばり」体験だったが、デビューの9歳は置いておいても、12歳の『悲しき口笛』なんて、今見ても十分カッコいいじゃないですか?(可愛い、じゃなくて。まぁ、可愛いもめんもあるんだけど、それよりいちばん大きく受けたインパクトは、カッコいい、だったという事実)
天才!
ていう言葉。今この時代は、安売りされすぎているのだと、12歳の彼女の映像をみて、そう思いました。
歌を歌う彼女の姿を見ていると、その圧倒的な存在感につい目を奪われてしまうのだが、ナレーションで、カラオケの時代になって、歌いやすい歌を歌おうとした曲もいくらか出した、みたいなことを言っているのを聞いて、逆に再認識したのが、番組中かかっていた彼女の歌は、最後の『愛燦々』以外、聴くと鳥肌ものだが、歌うとなるとおそらく難しすぎると思われる歌が多かったような。
『哀愁波止場』や『悲しい酒』や『みだれ髪』なんて、口ずさむならまだしも、カラオケで歌うとなったらちょっと選ばない曲だと思うなぁ。
てか、歌えない。
いつもの悪い癖で、妄想膨らまして喋っているように感じられるかもしれませんが、彼女の場合、知らない私が膨らませた妄想よりも、実物というか、その時代に生きた彼女の同世代の人たちの『彼女の存在』が、実はまだ何回りも大きいような気がして、もう、怖いくらい。
なんか、『美空ひばり礼賛』(あ、らいさん、って読むらしいよ)しているみたいな文章になっちゃったけど、これくらいの文章を書かせるくらいは、あの、自宅前の道路で霊柩車を叩くという映像が私に与えた影響は大きかったというわけで。
なんていうか。
ちょっと、もう一度彼女や彼女の周辺の歌たちを、聞き直してみようかな、という気持ちに、今は、なっています。
あ、書きたかった、比喩があったんだ。
凡百、って言葉があるでしょう?
なら、その後ろに「歌手」って付けてみて?
職業としての「歌手」になれる人ってすでに凡百なんかじゃないんだけどね?(会社員をいっぱん、とすると、歌手とか役者の皆さんて憧れの意味を含めて「異常」だもんね?)
で、その凡百の歌手、の上に立つ、100人に一人、という歌手がいるでしょう?
それは、作品の売上だけでの話じゃなくて、あきらかに他の人とは一線を異にしている存在としてのスター歌手。
比較しやすいように彼女の庭であった女性演歌の世界で見てみると以下の人たちが完全にそうだ。
八代亜紀、都はるみ、石川さゆり、天童よしみ(美空ひばり二世と呼ばれた)、小林幸子(美空ひばり二世と呼ばれた)、ほかにも、島倉千代子、坂本冬美、五代夏子、藤あや子、香西かおり
敬称略で、すみません。
で、上にあげた10人の女性演歌歌手が凡百の歌手の上に立つ、スタート歌手であることは、間違いないだろう(ネットで調べたからね、でも、ほかに全然知らない、その調査では順位が上の歌手の方々もいらっしゃったけどね)。
てか、その順位の話をさせてもらっても、いい?
「われらがお嬢」が4位なのは、死後30年だからいいとして。坂本冬美さんが2位なのもまだわかるとして。3位の大月みやこさん、って、なんか名前だけは聞いたことがあるような。
でぇ。1位の森山愛子さんって、だれ?
世間に疎かったらごめんなさいって謝るけど、今いちばん人気のある女性演歌歌手の名前を、部外者だけど、名前さえ知らない人がいる、というのが、いまの演歌界の現状を如実に物語っている?
だから、「お嬢」は、生前でさえ、「演歌の女王」ではなく「歌謡曲の女王」と呼ばれていたというわけかもしれない。
閑話休題。
って。
もう、話はほとんど終わっていて、凡百の上に立つ大スター10人の、さらにまだ上に立つ存在をスーパースターというのかな?
まぁ、スーパースター、って、スーパースターのままで死んじゃうと、神さまになっちゃうね、ってはなし、かな?
マイケルジャクソンとかも、そうみたいだしね、あと、昔のロックスターに、そういう神さまがいくらかいたような。
でも、日本じゃ「お嬢」美空ひばりさんだけだけどね。(もし、加えるなら、ギリ、越路吹雪さん?)
(えっ?と、とし、いくつだっけ?)