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そして、保元の乱が始まる。  作者: 仲島けい
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崇徳帝の希望と絶望

 重仁親王が生まれる少し前、崇徳帝には異母弟である体仁なりひとが養子になっていた。弟なのに息子という奇妙な関係は、一夫多妻制の貴族社会ならではの現象だ。もちろんそこには政治的な意図が濃厚に含まれている。


「父に言われて仕方なく体仁を養子にしたけれど、これで私も院政が敷けるぞ!」

 若い父親の崇徳帝には、その意味が分かっていたのだろうか。


 数年後、崇徳帝は父親の鳥羽上皇からの圧力で天皇を譲位させられてしまった。次の天皇に即位するのは、養子になっている腹違いの弟の体仁親王(近衛天皇)だ。

 ある日、自邸にいた崇徳帝は朝廷から送られてきた天皇譲位の宣命文を読んでいた。

『皇太弟である体仁親王を次の天皇とする』と、文章には書いてある。

「え?・・・・・・皇太弟? おとうと?」

 文書を持ってきた官吏は黙ったままでいる。

「か、書き間違いではないのか、これは」

「恐れながら、上皇陛下の御意志でございます」

「・・・・・・父上はそこまで母と私が憎いのかッ!」

 天皇は文書を文机に叩きつけた。

「体仁が皇太弟では、私が院政を敷けないではないか!」

 上皇や法皇が院政を敷けるのは、自分の息子が天皇になった時に限るというルールがある。体仁親王が崇徳帝の皇太「子」なら将来院政を敷ける可能性がワンチャンあるのだが、皇太「弟」扱いでは院政は不可能なのだ!

 崇徳帝を悲しませた一連の騒動は「皇太弟事件」と呼ばれるが、結局崇徳帝は鳥羽上皇の権力に抗えず泣き寝入りするしかなかった。


 体仁親王が天皇(近衛天皇)に即位したので、譲位した崇徳帝は上皇になった。その一方で鳥羽上皇は法皇になり、院政はまだまだ続く。

 権力の前線から退いた崇徳上皇はこの頃、和歌に夢中になっていたようだ。花を眺めながら筆を握る

上皇の目には、妖しい光が宿っている。


「まだだ。まだ私には重仁がいる・・・・・・重仁が帝になれば・・・・・・」


 実の息子である重仁が天皇になれば、今度こそ自分が院政を敷ける。それまでは花鳥風月を楽しんでいればいいさと、崇徳上皇は自分を慰めた。


 崇徳上皇がなぜ法皇に蔑まれているのかについては後に述べるが、鳥羽法皇の執念深さは半端ではなかった。自分の将来に立ち塞がる絶望の続きに、上皇はまだ気がついていない。

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