序章:川の流れが速いので・・・・・・
序章
突然だが百人一首の第77番を詠んでみたい。
瀬をはやみ
岩にせかるる 滝川の
われても末に
逢はむとぞ思ふ
この歌は現代語訳すると、
「川の流れが早いせいで岩に当たった流れが二つに分かれてしまうが、また一つの流れに戻るのだ。私もそのように、離ればなれになっているあの女と再会してみせるぞ」
というような意味になる。なんともドラマチックな歌だ。
作中に出てくる「岩」が実際には何を表すのかも、聞き手の想像力をかき立てる。
この歌の作者は崇徳院というお人だ。第75代天皇(崇徳天皇)として即位した男性で、日本の歴代天皇の中でもかなり波瀾万丈な人生を歩んだ天皇のひとりだろう。
もちろん、帝自身がそんな人生を望んだわけでは決してなかったはずだ。ましてや天皇だった自分が、闇落ちして菅原道真公、平将門公と並ぶ史上最凶クラスの怨霊に数えられることになるとは、不本意以上の何物でもなかっただろう。
今回は平安末期の権力構造に翻弄された崇徳帝と、周辺人物たちの動きを簡潔に追っていきたいと思う。
年数は主に西暦で統一することにした。そして重要なことだけれど、この物語は史実を元にした創作物である。決して歴史の論文や学術的成果物ではない。恐れながら、皆様にはそれを頭の片隅に置きつつ拙作を楽しんで頂きたい――。




