もう一度。
突如、耳をつんざくような音と共に閃光に包まれた。
目がだんだん慣れてきて光が収まると、そこに宇宙のような空間があり、イスがポツンと1つ置いてあった。
座れと言われたような気がして、かつて受けた面接を思い出しつつ着席。フカフカでとても座りやすいイスだ。
イスに座って数秒後、少し離れたところに同じイスがもう一つ現れ、そこにショートカットの美しい女性が現れた。
「失礼するわ、風間 ゼウスさん。間違いないわよね?」
「はい、間違いありません。」
「よかったわ。あなた、よくがんばって生きたわね!」
「へ?」
褒められたのはいつぶりだろうか、しかもこんな綺麗な女性に。久方ぶりに心が舞い上がるのを感じた。
「紹介が遅れたわね、私は女神ヴィーナス。名前くらいは聞いたことあるかしら?」
「はい、金星の…」
「知っているなら紹介はいいわね!本題に移るわよ。まず、あなたは今までいた世界で亡くなりました。」
「…そうでしたか、でも後悔はないです。」
「ええ、あなたならそういうと思っていたわ。報われずともよくがんばって生きた、天はあなたをちゃんと見ていたわよ。」
すごく嬉しい…!見てもらえていたなんて…涙がでてくる。こんなに嬉しいこと今までなかった。この女神様に感謝しなければ。
「ありがとうございました。その言葉だけで救われます。」
「ええ、それでなんだけどね。あなた、もう一度人生をやり直してみないかしら?今度は幸せになれるように。」
「そんなことができるのですか?」
「できるわ。その前に人生について、説明してもいいかしら?」
人生についてか…思い悩み苦しんだ若かった頃、夢や目標を見つけるために何度も何度も考えた。俺の生まれた意味やなすべきことについて…。
しかし結局わからなかったんだ。俺は能力が人より低い、俺のできることは他の人が簡単だというものばかり。努力は続けたがそれが実りにくく、辛かった。
自分の生きる意味を知りたかった。
「ぜひ教えてください、俺はなぜ産まれたのか」
「ありがとう、まず最初に、人生は私たちが与える試練なの。あなた達人間はいわゆる天使になろうとする途中の存在なの、最初は小さな命から始まって段々と大きな生物へと転生していく、それの最後の段階が人間よ。そして今までの生物になかった高度な意思と力を得るの。そして私たちに試される。その意思と力を持って何をなすのか、ね。天使になるには何が必要かわかるかしら?」
「わかりません…頭の良さ、とかでしょうか?」
「違うわ、心よ。相手を思いやる心。それ以上に求められるものはないわ。あなた達がよく比べていた容姿や、学歴や、収入とかは、こっちにきたら関係ないのよ。だからこそ、与えられた能力の使い方で人を試すの。」
「ということは、俺にもなにか能力が与えられていたのですか?」
「いえ、あなたには特になにも。」
「そうでしたか…そんな気はしてましたが…」
「落ち込むことはないわ、大体の人間には能力を与えたりしないものよ。ただ、あなたには試練を与えたわ。それは"幸せになる方法"というもの。」
「幸せになる方法…?」
「ええ、特に能力がない、ということは他者に対してなんらかの影響を及ぼすのが難しい、ということなのよ。つまり、相手の印象に残りにくいのね。だから、それだけ人を思いやり優しくする必要があった。あなたの産まれた意味、わかったかしら?」
「辛い中でも幸せを見つけること、でしょうか?」
「ええ、その通り。あなたは偽善と思いながらも善行を行い、少ないながら幸せを感じ、そして最後の募金で多くの人の命を救った。だから"よく生きた"っていったのよ。」
また涙が溢れてしまった、あの募金で人を救えたのか、生きていた意味はちゃんとあった。俺は女神様に褒めてもらえている、とても幸せだ。
「俺はこの後、天使になるのですか?」
「いえ、あなたは天使にはなれない。残念だけど。」
「それは、なぜでしょうか…?」
「あなたが自殺しようとしたからよ。」
「自殺は悪いことなんですか?」
「ええ、人を一人、自分の都合で殺しちゃうわけだからね。立派な殺人。悪いことを行なったり、特に人を殺しちゃったりした場合はまた小さな命からやり直しになるの。そしてその被害者は人生をやり直す権利を与えられる。」
「でも、俺は死ぬ直前で女神様にこちらに呼ばれました、その場合はどうなるのでしょうか…?」
「あなたは特別よ、私が見込んだ人間だから。だから自殺しちゃう前にこっちに呼んだのよ。あなたなら天使になれる、そう思ったからね。」
女神様に見込まれた、なんとありがたいことか。感謝してもしきれない
「それで、俺はどうなるんですか?」
「あなたにはその魂のまま、別の世界へ行ってもう一度試練を受けてもらいます。」
「ありがとうございます、具体的にどういった形で俺は別の世界へ行くのですか?」
「ええ、さっき話したあなたの試練については覚えてるよね?」
「幸せになる方法、でした。」
「そう、あなたは幸せにならなければいけない。でも、同じ世界に行ってはきっとまた同じような人生を送る、そうでしょう?」
「たしかに、そうかもしれません。」
「だから、今の世界とは全く異なる世界へ行ってもらうわ。そこは魔法が発達した世界、あなたには同じ人生にならないよう、今度はそこそこの地位にはなれる程度の力を与えるわ。そしてあなたの生き方を、思いやりを、優しさを私に見せてほしい。」
「そんなに色々教えてもらってよろしいのですか?それでは試練にならないのでは…?」
「それは大丈夫よ、優しく相手を思いやるなんて簡単にはできることじゃないんだから。でも、そうねあなたの名前は変えた方がいいわ、略してガウスにしましょ。あと35歳からだと結婚はかなり厳しいから…そうね、25にしときましょ。容姿は前よりかっこよくしておくわ!」
「そんなにいろいろ…ありがとうございます…!」
「ええ、気にしないで。それじゃあ行ってらっしゃい。あとね、人生で道に迷ったら教会に行きなさい。その夜の夢に私がでてあげるわよ。」
「お手数おかけします…!」
「じゃあ、飛ばすわよ!私はいつもあなたを見ているから。」
パチン!と女神様が指を鳴らすと来た時と同じように激しい閃光と耳をつんざく音が聞こえる!!
その中で小さく声が聞こえた気がした。
「決して驕り高ぶるんじゃないぞ。謙虚にいけ!」
「私たちは天国で待ってるからね。楽しんでおいで。」
「行ってらっしゃい、ガウス」