真殿様と最後の勧誘計画 その2
「この部の最後の部員はお前だ!神楽坂 雪代!!」
神楽坂先輩はただひたすら真殿先輩を見つめていた。
驚きに、などではなくただただ表情を見せず、見つめるだけだ。
お互いに目を逸らさなかったが、やがて神楽坂先輩は目を伏せ、軽く首を振る。
「何を言い出すかと思えば・・・今の一言で眼を覚ますことができた。だが、残念だったな。俺はこんなふざけた部に入ることはない。すぐに部を畳む準備をする事だな。」
眼鏡を軽く上げ、そのまま部室を出て行く。
「・・・すまないでこざる。つい、熱くなってしまったでござる」
「珍しいな、波瑠がそんな風に声を荒げるなんて」
山野辺先輩は一気に力が抜けたのか、大股を開いたまま部室の椅子に座り込む。
神楽坂先輩の出て行った扉を小さく横目で見た後、天井を仰いだ。
「去年の11月頃、3年の先輩方が引退してから何かとこの部に来ていたので、嫌でも顔を合わしていたでござるよ。来たら来たで嫌味は言うは小言は言うわで・・・」
最後の方は聞き取れないくらい小さな声で話していた。
「そっか・・・それで、か」
瀬戸内先輩は山野辺先輩に軽く微笑みを浮かべ、真殿先輩の前へ立つ。
身長差で、瀬戸内先輩が見上げるような形になる。お互いの容姿も相まって、まるで一枚の絵のようだった。
「高校3年間、神楽坂くんとは同じクラスだったんだけど、彼いつも成績上位で学級委員長とかも勤めてて、今も生徒会長として頑張ってる。でも、私ね、彼が友達と話してるところとか、どこか遊びに行ってる姿とか見たことないんだ。
私も最近、弟たちに言われて嬉しかった事があるの。高校生活の最後ぐらい、自分の好きな事をしてほしい、って。だから、神楽坂くんにも、高校最後ぐらい自分の好きな事をしてほしいんだ。」
瀬戸内先輩の言葉に、少しだけ重みを感じる。正直、僕は入学したばかりだから実感なんてないけど、瀬戸内先輩にはもう高校生活が残り少ないんだよね。
「自分の好きな事、か。そうだな、やはりこの部には神楽坂 雪代が必要だな。高校生活最後を有意義に、そして俺の為に過ごしてもらわないとな!!」
真殿先輩は加藤先輩の肩に手を置き
「神楽坂 雪代について調べられるか?」
「当たり前やん、信頼してくれてはるんやろ?僕のこと」
「期待しているぞ。」
2人は漫画であるような拳を軽く交わすと、加藤先輩はそのまま部室を出て行った。
「明日香、お前は部の申請書を書いてもらってもいいか?部員が揃い次第すぐに提出する。」
「了解致しましたわ、王手様。わたくしにお任せくださいませ。」
「波瑠、お前は、お前が知る神楽坂 雪代について教えてくれないか?」
「・・・わかったでござる。」
「忍、お前は神楽坂 雪代の現状行動を見張っておいてくれ。」
なんで僕だけストーカーチックな事なんだよ!!名前か!?名前からなのか!?でも・・・
「もう、なんでもやります。やりますよ。」
「有栖は、神楽坂 雪代の勧誘を頼む。内堀を埋める形で。」
「うん!頑張るね!!」
これから神楽坂先輩は、教室でも勧誘攻めにあうのか・・・
どんまい、と思う反面少しだけ、頑張らないと、頑張るぞ!と思っている自分に、僕自身がビックリしていた。




