真殿様と最後の勧誘計画 その1
部室へと戻ってきた僕たちは、全員無言のままだった。
このメンバーの中で1番口数の多い加藤先輩ですら、口を開くことはなかった。
それも、そうだろう。あの生徒会長の見てはいけない部分を間近で見てしまったのだから。
いや、もしかしたらあれは生徒会長じゃないのかもしれない、うんそうだ、見間違えだったんだ。
「いや〜、神楽坂雪代にあんな秘密があったとは驚きでござった。拙者超びっくり。」
見間違えだと思い込もうとした矢先に、山野辺先輩が無表情のまま驚きを表現しているようだった。
何故かちょっとイラっとしたのは、僕の器が狭いのだろうか。
「あっ、神楽坂くんから渡された服そのまま持ってきちゃった。」
女性陣は、それぞれ神楽坂先輩に渡された服を見る。
「お前たち、せっかくだから着てみればいいんじゃないか?」
「いや、真殿。別に拙者達はこれを貰い受けた訳ではないでござるから、着るのは如何なものかと思われる。」
珍しく、常識的な意見の山野辺先輩に感心した。他の2人も、流石に着るのには抵抗があったのだろう。
瀬戸内先輩がその服を綺麗に畳んだ後、ロッカーへと置きに行く。
「ある意味、どでかい弱みが握れたんやないの?真殿くん。」
「・・・そうだな。まぁ、これは最終手段として取っておくぞ。今は最後の部員を集めることに専念する。」
生徒会長の、おそらく盛大な弱みを握ったにも関わらず、真殿先輩はあまり乗り気ではなさそうだった。
ただひたすらに、瀬戸内先輩が綺麗にロッカーへ置いた服を見つめるだけだった。
翌日の放課後、いつも通り部室へと向かっている途中、大きな声が聞こえる。
どうやら、争っているような感じだ。
その声の方向が部室の方だと分かった瞬間、何事だと思い駆け出す。
「何してるんですか!?」
扉をスライドさせ中に入ると、山野辺先輩と生徒会長が言い争いをしていた。
意外な組み合わせに、度肝を抜かれる。てっきり、また真殿先輩と生徒会長が争っているとばかり思っていたからだ。
「相変わらず一方的な物言いでござるな!!」
「どのみちあと1週間しかないんだ。遅かれ早かれ結果は一緒だろう!」
「まぁまぁ2人とも一旦落ち着いた方がえぇんやないの?」
そんな2人の間に入って、加藤先輩が宥めているが、落ち着く様子は無さそうだ。
むしろ、2人には加藤先輩が見えていない様にも見える。
「あの、真殿先輩・・・これは一体どう言う経緯でこんな事に?簡単でいいので教えてくれませんか?」
「うん?あぁ、いつも通り部室にいたら神楽坂雪代が入ってきて、すぐにこの仮部を解散しろ、と言ってきて波瑠と揉めている。」
分かりやすく、簡潔な説明をありがとうございました。でも・・・
「珍しいですね、真殿先輩が一目散に反撃しないなんて。山野辺先輩が反撃しているのも珍しいですが・・・」
「あぁ、少し考えがある。っと、もう準備ができたかな?」
真殿先輩はチラリと自分がつけている高価そうな、いや、絶対に高い腕時計で確認をする。
何か、待っているのかな?
「あの・・・王手様?」
「王手くん、着替えてみたけどこれでいいのかな?」
ガラガラと、部室の扉が開き蘇芳先輩と瀬戸内先輩が昨日生徒会長に渡された服を着ていた。お世辞抜きに、2人とも物凄く似合っている。
「えぇやん!2人とも凄く似合ってはるよ。」
「うむ、こう言った服もいいな。今度我が財閥でも力を入れてみるか。」
それぞれの感想を言い合う真殿先輩、加藤先輩に対して、神楽坂先輩はその場で膝をつき、両手で顔を隠しながら首を横に振りながら
「あぁぁぁぁっ!!3年、3年目でようやくっ、理想が・・・可愛いっ!!俺の理想が今やっとここに実現したのねっ!!」
と呟く。顔を勢いよく上げ、その目に焼き付けんとばかりに蘇芳先輩たちを見つめついた。
「あっ、神楽坂くん!この服凄く可愛いね!!」
「有栖ちゃんが着るからこそ、その服が引き立つのよっ!!」
服の裾を軽く握りながらお礼を言う瀬戸内先輩に、力拳を握りしめ噛みしめる様に言う。
「いつから有栖ちゃん呼びになってんねん。」
「つまらないやつかと思っていたが、想像以上に愉快なやつだな。よし、決めた。」
「真殿先輩?」
悶えながら、あーだこーだ力説している生徒会長へ近づき、真殿先輩は指を指す。
「この部の最後の部員はお前だ!神楽坂 雪代!!」




