??の独白計画
自分勝手で、自由気まま。男と遊ぶ事に力を入れている、綺麗で醜い女。
俺の中の母親はそんな女だった。あの女はいつだって、俺の存在を無視する。殴られたり、罵倒されたりすることは無かったが、ただ、そこにいるだけの存在。
あの人と最後に話したのはいつだったか、そんなものもう覚えてすらいない。
小学校の入学式も卒業式も、いつだって俺は1人だった。
そんな寂しさを紛らわすかのように、中学に上がった頃から、女に言いより自身の拠り所に利用するようになった。
あの女に似たこの顔は嫌いだったが、この顔のおかげで女は寄ってくる。結局のところ、俺がやってる事はあいつと変わりない。そんなジレンマな毎日を、俺は抱えていた。
そんなある日、いつものように女を引っ掛けて、今日の宿にしようとしたら、運悪く彼氏持ちで俺は複数人にボコボコに殴られた。
中学生相手に大人気ない奴ら、そんな悪態を心の中で吐きながら、誰もいない、夕暮れの川辺に寝転ぶ。
今日は、このままここで野宿かな。
静かに目を閉じ、時間が過ぎるのを待った。
「こんなところで寝てると、風邪ひくよ〜」
不意に、女の声が聞こえる。俺に声を掛けているのだろうか?
目を開くと、眼前には日本人離れした綺麗な顔がこちらを覗いていた。
天使?一瞬そう思ったが、その女が着ている服が、地元の高校の物だと分かるや否や、今日の寝床が確保できたな、と安堵した。
「お姉さん、でも俺帰るところないから、お姉さん宅泊めて?」
優しく、儚げに微笑めばこの女も簡単に落ちるだろう。しかし、目の前の女はきょとん、とした後
「う〜ん、うちに案内しても良いけど、中学生っぽいし、今から暗くなるし、死んだら大変だしなぁ・・・」
と、ぶつぶつ言っているセリフがはっきりと聞こえた。
俺は、どこに連れていかれる気だ?
「あっ、そうだ!野宿の仕方教えてあげるね!!」
名案!とばかりに女はニコニコと、近くにあった木の枝を拾い集め、乾いたやつを探してね〜!と言ってくる。
えっ、本気で中学生野宿させる気??
「大丈夫!火起こしなら意外とかんたんだから!!」
川辺のど真ん中で火を起こそうとするアホな女を全力で止める。こんなところでボヤ騒動起こしたら警察に捕まるだろ!!何考えてんだよこいつ!!
「ふふ、じゃあお家に帰ろう、君の。」
「だから、帰るところなんて・・・」
「君が帰る場所がない、って言うなら君自身が帰る場所を作るしかないよ。今は無理かもしれないけど、もう少し君が大きくなった時、きっと君が胸を張って帰れる場所が出来るよ。」
彼女は、優しく笑って手を差し出す。反射的にその手を取って、彼女と一緒に自分の家へと帰る。
「ここが、君の家?」
そう、誰もいないけど。
「じゃあ、大きくなったら探さないとね。君を待ってくれる人がいる家を」
見つかるかな。
「見つかるよ、絶対に、必ず。」
彼女は俺の背中を軽く押して、見送ってくれた。
「あの、あんたの好みのタイプ、最後に教えてよ!!」
「好みのタイプ?う〜ん、京都弁を話す、物腰の柔らかい人かな!!」
そのまま、彼女の名前も聞けず別れた。
高校は、あの人と同じ所へ行こう。そして、もう少し話がしたい。
俺、僕の事は覚えてへんかもしれんけど、それでも・・・
誰かに、呼ばれたような気がして、微睡みに浸りながらも目を開ける。
あぁ、そう言えばここ、僕んちじゃなかったなぁ・・・昨日、真殿くん家へ泊まったんやった。
「あっ、おはよう!光希くん。王手くんと山野辺さんちょっと席を外すって〜。」
あれから、僕は華村高等学校に入学し、彼女の姿を探した。彼女の容姿は学校でも有名で、名前はすぐに分かった。けど、話しかける勇気がなく、そのまま1年が過ぎたある日、真殿くんが転入してきた。
チャンスとばかりに真殿くんへ近づいて、彼女と接近するチャンスを伺った。
結果、見事に彼女と一緒に居られるようになった。
僕の事は覚えてへんみたい。それでも、ええわ。彼女ともう一度話がしたい。それが叶ったんやから・・・
「有栖ちゃん。」
「どうしたの?」
「ありがとう、その・・・起こしてくれて。」
天使は初めてあった頃と変わらずにこにこと笑った。
加藤くんの独白計画




