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真殿様の部室乗っ取り計画 その2


「いいでござるよ。拙者のこの部室、譲でござる。」


ピリッとした空気の中、メガネの女性が答える。意外な返答に僕は戸惑っていた。

この人、他の部員と話し合いとかしなくて大丈夫なのかなぁ。


他に部員見当たらないけれど。


「ただし、少しだけ待ってほしいでござる。せめて、ゴールデンウィーク明けぐらいまで。」


「急に押しかけたのはこっちだ。それぐらいは待ってやるさ。」


真殿先輩はつかつかと部室内を歩きだし、備え付けの椅子へと腰をかける。

居座る気かこの人は。


「・・・部室で待たれる気でござるか。」


「別に問題は無いだろう。」


「仕方あるまい。今この部には拙者1人しかおらぬでござるから、そちらの方々も椅子に座ると良いでござる。」


変わった言葉遣いをする、先輩は椅子を指差す。その言葉に甘えて、僕たちは椅子へと座る。


「自己紹介が遅れたでござるな。拙者2年の山野辺波瑠と申す。以後よろしく頼む。」


各自が挨拶し終わると、山野辺先輩は有名人揃いなので、ある程度の名前は把握していたでござるよ、と言う。


まぁ、このメンバーはかなり濃いのでこの学校の人なら、すぐに顔が分かるだろうな。


「そちらの1年ボーイは中々の受け顔でござるからな。ナイス」


何故か僕に向けて親指を立ててくる山野辺先輩の言葉の意味を理解できなかった。

何を言っているんだろう、この人は。


「さっきから思っていたのだが、山野辺波瑠。お前・・・忍者の末裔とかか?」


はっ?真殿先輩は唐突に何を言ってるんだ?忍者の末裔?あっ、そうか。この人の言葉遣いかって、そんな訳あるか!!


「ふっ、バレてしまっては仕方あるまい。拙者は現世に生きる忍びの末裔、しかし正体がバレるとこの世で生きていくことができぬ故に内緒にしていてほしいでござる。」


「ま、まさか忍者の末裔の型にお会いできるなんて・・・わたくし、感激いたしました!!絶対に誰にも言いませんわ!」


真殿先輩と蘇芳先輩は感激したように、山野辺先輩に握手を求めていた。

その山野辺先輩に瀬戸内先輩がこっそりと耳元で


「あの、忍者の末裔と言うのは・・・」


「嘘でござる。」


上記のやり取りをしていたのが耳に入る。まぁ、そうだよね、うん。


未だに忍者の話で盛り上がっている、真殿蘇芳先輩を置いて山野辺先輩は自身の鞄から紙の束を取り出す。


「うん?波瑠ちゃん、その紙の束はなんですの??」


加藤先輩の言葉に、一同の視線は山野辺先輩へと向く。

その視線を気にする素振りもなく、枚数を数えた後、原稿でござる。と答えてくれた。


「原稿?何の原稿を書いているんだ?」


「漫画でござるよ。ゴールデンウィークに即売会があるので、それに向けて・・・」


漫画?そう言えばここは何部なんだろうか?オカルト研究部とか??


「すみません、山野辺先輩。ここは一体何部なんですか?」


「知らないで付いてきたでござるのか、受け殿は。ここは漫画、アニメ研究部でござるよ。」


あぁ、ここ漫研だったんだ。部員も今1人しかいないみたいだし、それで目立った活動がない、と判断されたのかな?


「その漫画は、山野辺さんが描いてるの?」


「そうでござるが・・・」


「すっごいね!!見てもいいかな?!私漫画を持ってなくて、一回じっくり見たかったんだ!!」


山野辺先輩は、鞄から数冊薄い本のような物を瀬戸内先輩に渡す。それをキラキラした目で瀬戸内先輩は見ていた。


「凄いね、絵も上手だし話も面白いよ!この男の子達は恋人同士なんですか??」


「あぁ、その2人は拙者の中では相思相愛でござる。もっと、先の話もあるでござるよ」


「さぁ、有栖ちゃん。波瑠ちゃんの邪魔したらあかんから、本返そうなぁ。今度普通の漫画を見させてもらい?な?」


この作品が小説なので、お見せすることができないが、山野辺先輩が新たに取り出そうとした薄い本にはモザイクがかかっていた、ように見えた。とでも記しておく。


それを加藤先輩がやんわりと止め、山野辺先輩も渋々モザイクを鞄の中へと直すのであった。


「ところで、その原稿とやらはどこまで進んでいるんだ?」


「う〜ん、完成が100%とするなら・・・10%?」


あと数日でゴールデンウィークなんですが、その本とやらは間に合うのでしょうか?


「ふむ、よし分かった。俺もお前がする事に興味があるからな。俺達も手伝ってやろう。」


真殿様。手伝うのはいいが、漫画と言う概念を知っているのだろうか?

そんな不安を抱えながら、僕たちは山野辺先輩の手伝いをする事となったのだ。

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