真殿様とピクニック計画 その1
あぁ、日曜日。休日、なんて素晴らしいんだろう。僕は自室のベッドに横たわり、天井を眺める。
この、何もなく、平和な世界が今や休日のベッドの上だけしかない悲しみ。
束の間の幸せを噛み締めておかないと。
「おい」
耳の奥の方で真殿様の声が聞こえるけど、疲れていたんだろうな。耳に残るほどに。
「おい、俺を無視しているのか?」
・・・やけに、リアルだなぁ。
「おい、忍。寝ているのか?おい、起きろ!」
真殿様の声が、部屋から聞こえるんだけど。
チラリと横目で声の方を見ると、何故か私服を着た真殿様が僕の部屋で仁王立ちしていた。
「ま、真殿、先輩??な、なんで!?」
「うん?あぁ、お前の母親が俺をここまで案内してくれたぞ」
母さんっっ!!何してくれてるんだよ!!
「しのちゃーん、お菓子もらっちゃった〜!」
下の方で、母さんの嬉しそうな声が聞こえる。買収されたの、かな・・・。まぁ、そうじゃなくてもあの母さんの事だから、俺の友達か先輩って話をしたのなら部屋まで案内するよなぁ・・・
「お前のご主人様だと言ったぞ?」
「ご主人様!?なにその関係!すっごい嫌なんだけどマジで!!」
とりあえず、もう部屋に入ってるものは仕方ない。用件だけ聞いて早く出て行ってもらおう。そしてすぐに僕は寝る。
「で、真殿先輩は休日の朝に何か用ですか?」
「今からピクニックに行くぞ。」
はい?ピクニック?なんで?急に?
「いや、真殿先輩?急に言われても場所も準備もできてないのですが・・・」
「準備は俺が全て手配してある。場所は有栖の山で行う。」
瀬戸内先輩宅の・・・そうだ、あの人山暮らししてたんだけ。
準備も、そうだよな。破天荒過ぎてちょっと忘れかけてたけど、この人御曹司様だった。
僕は身1つで行けるということか・・・断らないとっ!!
「いや、真殿先輩?せっかく誘ってくれたところ悪いんですが、今日はちょっと所用が・・・」
「お前の母親が今日1日お前は暇だと言っていたが?」
母さぁぁぁぁん!!息子になにも聞かず返答しないでよっ!!
こうして僕は、真殿様に連行され瀬戸内先輩の家へと向かうのであった。
真殿様宅の車に乗せられたのだけれど、シートふかふかだし、なんか冷蔵庫付いてるし、車内広いしで、落ち着かなかった。
数分車を走らせ、前回山の中へ行った時の入り口付近で加藤先輩の姿があった。
「おぉ〜、随分遅かったんやなぁ〜」
「加藤先輩はもう来ていたんですね。」
「まぁ、僕が提案者やし、有栖ちゃんをちょっと手伝ってたんよ〜」
テメェが元凶か。
「昨日の夜に、明日香の歓迎会をやるぞ、と言う話になってな。まぁ、ピクニックも悪くないし、真殿財閥が運営するリゾート地を貸しきろうとしたのだが・・・何故か光希に反対された。」
「いや、そんなん貸し切られたらピクニックで楽しむも何もないやん?有栖ちゃん家の山綺麗やし、静かやしここにしよか、ってなったんや。」
まぁ、確かに・・・リゾート地なんか借りられても、僕たち庶民には楽しむどころではないだろ。
明日香ちゃんは先行ってはるよ〜、と言うので加藤先輩に先導され山を登って行く。
「この山、正規ルートで行かへんかったら遭難するらしいんで、僕から離れんといてなぁ〜。」
加藤先輩から絶対に目を離さない。そう心に誓いながら。
しばらく歩いて行くと、小川が流れる場所へと着く。瀬戸内先輩の家へと向かってるのかと思ったが、どうやら目的地はここのようだ。
僕たちの少し先で、蘇芳先輩、瀬戸内先輩の2人が、石を積み上げた場所で、火を起こしているのが見えた。
瀬戸内先輩が、ライターなどを使わず原始的な方法で火を起こそうとしていた為、知識の少ない僕でも何をしているのか1発でわかった。
「後少しっ!」
「あっ!有栖さん!火がつきましたよ!!」
「明日香ちゃん、乾いた枯葉をこっちに持ってきて!」
火を起こすことに成功している瀬戸内先輩と、その補助に回っている蘇芳先輩を見て、どうして女子が火起こし作業をして、迎え側に男子がいるのだろうと、不思議でなりませんでした。
「流石だな。では、全員揃った事だ、ピクニックを始めるぞ!!」
僕を除く人たちでおー!と声を上げる。
大きなため息をつきながら、ピクニックと言う名の、親睦会の準備を手伝いに向かうのだった。
手伝うと言って、肉や野菜、魚などか綺麗に大皿に盛り付けられ、石積みで作り上げた釜の様な所には網が張られていた。
大方、バーベキューでもするのだろうと推測できた。
「すみません、瀬戸内先輩、蘇芳先輩。ここまで準備してもらって・・・」
「あっ、石積みの釜は明日香ちゃんが作ってくれたんだよ〜!凄いよね!今後も使わせてもらおっと!」
あっ、それはだろうなと思いました。蘇芳先輩作ですよね流石です。
「ほな、僕がお肉とか焼くから主役の明日香ちゃんや後輩の忍くんはあっちに用意したベンチで待っといてな〜。」
「あっ、僕も手伝います。それこそ後輩ですし。」
「大丈夫や、僕火の番するん好きやから焼かせてくれたら嬉しいわ〜。たまに交代してくれたらえぇから。」
と言ってくれたので、お言葉に甘えることにし、ベンチへと向かう。真殿先輩はすでにパラソルの下で優雅に寛いでいた。




