真殿様の逃走計画 その5
有栖視点
瀬戸内さん、すみませんが放課後みなさんで集まる前に1度わたくしとお会いしていただけないでしようか?
昼休み、みんなと別れる直前に蘇芳さんからコッソリと耳打ちをされた。
う〜ん、どうしよう。多分、私が王手くんの花嫁候補である事に関連があるよ、ね。
婚約を保留にしている、とは言っていたけどやっぱり蘇芳さんからしたら気持ちいいものでもないだろうし。
私自身も、まだ理解が追いつけていない。でも、きちんと蘇芳さんと話をしないと!
私だって、王手くんの花嫁候補の1人なんだから。
放課後、校庭で集まる前に蘇芳さんと一緒に中庭の奥のベンチへと来ていた。
辺りには人の気配はなく、遠くの方で部活動に勤しむ運動部の声だけが反響して聞こえていた。
「あの、蘇芳さん。私・・・」
「瀬戸内さん、貴女が王手様の花嫁候補である事は、知っています。だからこそ、貴女に言いたいのです。」
真剣な表情に、私も覚悟を決めていた。何を言われても、私は私自身の心のままに向き合うんだって。
「わたくしの家は、古くから武術を嗜んでいる家元でして・・・そのご縁もあって、真殿家に選ばれ、王手様と婚約する事になりました。わたくしは、真殿家に選ばれた。でも、貴女は王手様に選ばれた。だからこそ、わたくしは貴女に負けたくありません。」
蘇芳さんも、私と同じ気持ちなんだ。と強く感じた。王手くんを想っているからこそ、譲れない。だったら、私が返す言葉は1つだけ。
「うん、私も、負けないよ。お互いに頑張ろうよ!」
スッと手を差し出し、蘇芳さんもそれに答えてくれた。
「はいっ!あっ、わたくしのことは下の名前でお呼びください。」
「それなら、私のことも下の名前で呼んでほしいかな?あっ、お姉ちゃんでもいいよ。」
軽くウインクをして見せると、蘇芳さ・・・明日香ちゃんはふふふと可愛い笑みを浮かべ、有栖さん。と呼んでくれた。
よし!良いライバルも出来たし、みんなのところへ行こうかなぁ。
「いこっか、明日香ちゃん!」
「はい!改めて、よろしくお願いしますね。」
忍視点
放課後、いつもの3人組で校庭へと集まっていた。瀬戸内先輩と蘇芳先輩の姿が見当たらない。
蘇芳先輩と真殿先輩は同じクラスのようなので、聞いてみたら
「終礼が終わるとすぐに出て行ったぞ?後は、知らん」
と、の答えが返って来たので殴りたくなったが一応年上なので自重した。
後、慰謝料とかなんとか当てつけられたくないし。
加藤先輩は、先輩でウロウロしている。なんだろう、ちょっと落ち着きがないように見える。
15分後ぐらいに、瀬戸内先輩と蘇芳先輩が仲良く並んでこちらへと向かって来た。
「有栖、と・・・明日香。」
瀬戸内先輩の姿を捉えた後、蘇芳先輩の姿を見た真殿先輩の表情が少しだけ曇った。
そんな真殿先輩の前に蘇芳先輩が向き合い
「わたくしが、王手様に怖がられているのも、嫌われているのも知っています。わたくし自身、力の制御がうまく出来ず、貴方を傷つけてしまう。でも、わたくしは貴方の理想に近づきたい。だからこそ、有栖さんにも負けたくありませんし、貴方の花嫁になりたい。これが、わたくしの理想です。」
蘇芳先輩の眼差しに、真殿先輩は息をのむ。しばらく見つめあった後真殿先輩が呟いた。
「すまなかったな。少し、言いすぎた。別にお前のことを嫌ってなど、いない。確かにお前の力加減によって色々と、折れたり粉砕した事もあったが、良き友だとも思っていたからな。その、これからよろしく頼む。」
そんな真殿先輩に感激したのか、蘇芳先輩は
「嬉しいです!王手様、好きですっ!!」
と、真殿先輩に抱きついた。その直後に、ミシミシとやばい音が聞こえた後、真殿先輩の絶叫が響き、病院へと運ばれた。
花嫁候補 蘇芳 明日香 入部決定
逃走編、完結