真殿様の逃走計画 その2
「真殿様なら、今朝保健室に運ばれてから戻られていないですね」
昼休みにグランドで見た真殿先輩が気になり、教室へとやってきたが、不在だった為前回もお世話になった、爽やかでキラキラした先輩から真殿先輩の所在を教えてもらった。
あの俺様真殿様がものすごい叫び声を上げていたのだから、気にならない方がおかしい。
「おーい、おチビさーん。」
加藤先輩が、僕に向かって優雅に手を振りながら歩いてくる。まぁ、2年生の教室前廊下だし、いてもおかしくはないか。
「なんですか、僕は不躾いな知り合いはいませんが」
「つれへんなぁ〜、忍くん。真殿くんは保健室やろ?」
「らしいですね、知っていたんですか?」
「ぐったりした真殿くん抱えて全速力で廊下走ってはった女の子見たからなぁ・・・」
何者なんだろう、その女の子。真殿先輩、結構身長高いのに、それを抱えて全速力で走るなんて・・・人間か?
「まぁ、早よ保健室行ってみよか。多分、その子も保健室にいるやろし」
「・・・はぁ、そうですね。」
僕と加藤先輩は保健室へと向かう。
保健室は1階にあるし、ついでに有栖ちゃんにも声かけてみよか、と申し出る加藤先輩の案を肯定し、瀬戸内先輩の教室へと寄って行く。
「えっ、王手くん大丈夫かな??!私も一緒に行く!」
と、いつものメンバーで保健室の扉をノックする。はい、開いてます。と女性の声が聞こえたので、3人で中に入ると保険医の姿は見えなかったが、真殿先輩と一緒にいた女性がチラリとこちらに顔を出していた。
「あの、申し訳ありません。保険医の先生はただいま職員室の方に行かれてまして・・・」
綺麗な人。瀬戸内先輩とは違った美しい女性だ。和の雰囲気を漂わせる、所謂大和撫子ってやつか。
「あ〜、怪我とかとちゃうから大丈夫やで〜。真殿くん寝てはる?」
「王手様のご友人の方ですか?」
お、う、て、様???
「「王手様?」」
「わたくし、今日からこの華村高校に転入して参りました、蘇芳 明日香と申し上げます。真殿 王手様の婚約者でございます。」
婚約者!?あいつ婚約者いたの!?
いてもおかしくはないけど、じゃあなんで花嫁候補探すとか言ってんの!?
えっ、浮気相手?愛人でも側室でも探すつもりだったのか!?
「お、王手くん、婚約者いたの?」
瀬戸内先輩は驚いたように、困惑したような表情を浮かべ、その場から一歩下がるようによろけた。
「あ、有栖ちゃん気をしっかりし!」
加藤先輩がそっと瀬戸内先輩を支える。僕も、この状況をうまく整理することができない。
どう言うことだ?
いや、それより今この状況で寝ている諸悪の元凶を起こさなければ!
僕はベッドの上でグースカ寝ている真殿の野郎を殴る勢いで叩き起こす。
「まどのぉぉっ、先輩!!ちょっと起きて、起きて状況説明してくださいよ!!」
「えぇい!うるさいぞ、耳元で騒ぐな!!」
思いのほかすぐに起きてくれた真殿先輩に問いただす。
「蘇芳 明日香先輩は真殿先輩の婚約者の方なんですか?!」
「・・・そう、だが。一応、今のところ、は」
珍しく歯切れのない、視線を逸らし逃げるような真殿先輩に小首を傾げる。どうしたのだろう、この人らしくない。
「有栖ちゃん、しっかりしてや!!」
「私は、私はもうダメなんです・・・今まで、お世話になりました・・・」
瀬戸内先輩は胸元で祈るように手を組み、加藤先輩はそんな瀬戸内先輩を支えていた。
この人たちも、何してるんだ・・・?
「だ、だだ大丈夫ですか!?」
蘇芳先輩は2人のそばでおろおろしている、不思議な現場がこの保健室の空間に生み出されてしまった。
カオスすぎて、僕は、冷静を取り戻すことができた。やっぱり、ついていけないや。