真殿様と下校計画
今回は有栖視点になります。
今日の放課後は王手くん達と集まる予定が無いので、いつも通り校庭にある菜の花を取りに行く。
あんまり取りすぎると先生にバレちゃうかもしれないから、その辺りは気をつけないと。
昨日、家族みんなとゆっくり話して、瑛太達が「ねぇちゃんはもっと高校生活を楽しんできてよ!家の事とか俺たちも手伝うから!」って言ってくれたの、嬉しかったなぁ。
知らない間に、大人になってたんだ。私がお姉ちゃんなんだから、って自分に酔いしれていただけかもしれない。
少しだけ肩の力を抜いて、家族に甘えるのも、悪くないかな、なーんて。
「これも、王手くんのおかげ、なのかな?」
「俺がどうかしたか?」
自分しかいない、と思っていたところに今まで考えていた人物の声が聞こえ、心臓が止まるかと思いました。
パッと後ろを振り返ると、腕を組み立っている王手くんがそこにいた。
加藤くんは私に黄色い花が似合う、と言ってくれたけど、私より王手くんの方が似合うんじゃないかな?
風に煽られ舞い上がる黄色い花びらの中に佇む彼を見て、そう思った。
「お、王手くん!どうしたの?こんなところで!」
「俺か?冬川を待っている時に有栖が校庭に向かう姿を見かけたからな。また菜の花でも取りに行ってるのかと思ったのさ」
「むぅ、なんだか恥ずかしいです・・・」
王手くんはじっと菜の花を見つめ、美味いのか?これと聞いてくる。
う〜ん、私たちにとってはご馳走なんだけど、王手くんには・・・どうなんだろう? わかんないや。
私が返答に悩んでると思ったのか、アリスの感想を聞かせろ、なんて言ってきた。
「美味しいよ! 少し苦味が強かったりするんだけど、春の味〜って感じで!」
「そう言えば、旅亭に行った時お浸しとかでよく出てた記憶があるな・・・」
「りょ、旅亭かぁ〜。でも、季節物だし出すところ多いかもね。」
やっぱり、王手くん凄いなぁ。住んでいたところが違うというか・・・
と言うかこの人はどうして私を花嫁候補に選んだんだろう。
「王手くん、王手くんはどうして私を花嫁候補に選んだりしたの?」
いきなりすぎたかな?と思ったけど、どうしても、聞いておきたかった。
あの1日で私の何が、彼をそうさせたのか。
「そうだな・・・まぁ、顔が美しかったのもあるが・・・それ以上に、自分よりも家族を守ろうとしたあの姿勢で、花嫁候補に相応しいと思った。方法としては、褒められる事ではなかったかもしれないが、有栖が必死だった事ぐらい、わかる。」
少し顔を赤らめた王手くんは、少し私から顔を背け、早口で伝えてくれた。
その様子がおかしくて、笑ってしまう。うん、この人はやっぱり変な人で優しい不器用な人、かな?
「あっ、そろそろ運転手の方来られたんじゃないかな?」
「うん?あぁ、そうだな。」
王手くんは携帯を取り出すと、すまないが今日は歩いて帰る。と一言伝えると電話を懐にしまった。
「王手くん、歩いて帰るの?」
「あぁ。少し山の景色が見たくなってた。」
山の景色? 急にどうしたのかな?
「よし、菜の花もいい具合に取れただろう。お前の家の山でも見に行く。」
行くぞ、と言いながら私の前を先導する王手くん。
そっか、送って行く、って言ってくれてるのかな?ふふ、そう解釈しておこう!
この時間だけは、私だけが王手くんを一人占めだね。
こちらを振り向かないけれど、仁王立ちして待ってくれてる王手くんの横に立ち、その場を離れた。
「・・・・」
その場に、私と王手くん以外の人が居た事に私は気がつかなかった。
次回、いよいよ例の人物が登場します。