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星空ディスタンス

作者: 月代かぐや

 ーーー退屈だ。

 昼食後の五時間目。黒板にカツカツと当たるチョークの音を子守唄のように聞きながら、落合亜鷲美(あずみ)は頬杖をついていた。


 季節はもう時期冬になる。窓際の一番前に座る亜鷲美は、頬杖をついたまま顔だけ動かしてグラウンドを眺める。北から吹く風が枯葉を舞い上がらせ、外で体育の授業を行なっている生徒を縮こまらせていた。

 紅葉は()うに終わり、枯れた葉をつける木々も残り少なくなっている。この時期は何処かしらに物悲しさを感じさせる。

 クラスメイトの女子達は、いやこの時期の女子達はこんな季節の雰囲気に触発されてか、彼氏つくらなきゃ、だの今年もクリぼっち、だの妙に騒がしくなる。かといって皆んなが皆んなそうではなく、例えば私なんかはそう思っていない。クラスの女子の中で少数派なのは重々承知している。

 冬の雰囲気に飲まれていきそうになったところで、終業のチャイムが鳴った。残り一時間。頑張ろう、皆んな。






 「ただいまー」


 急いで玄関の扉を開き、すぐ閉める。こんな冷たくて乾いた風に少しでも長く当たっていたら凍死してしまう。マフラーと手袋を外して台所へ行く。この時期になるとお母さんは、いつもココアを用意してくれている。熱々のカップに手を添えて温めていく。それでも足先はひどく冷たいので、寒気が収まるはずもない。

 ココアを飲み、軽くお菓子をつまみ、もう時期あるテストについて話してくるお母さんに生返事をしながら私は台所を後にした。


 「ふぅ〜」


 カバンを放り投げて、大きく息を吐き出して私はベッドに倒れこんだ。突っ伏しながら手探りでエアコンのリモコンを探す。割と近くにあったリモコンの、暖房のスイッチを入れた。すぐさま、ピーという乾いた音が鳴り、ブォーンと低く唸りながら暖気を吐き出してくれた。

 しばらくその暖かさに包まれてから、私は制服がシワになる前に部屋着へ着替える。制服はハンガーに掛けて軽く埃を払っておいた。

 夕飯の時間までは少し時間がある。何をしようか。特にこれといってやる事のなかった私は、スマホを操作してニュース欄を見る。一つ気になるニュースがあった。


 「双子座流星群、観測条件良好かぁ〜」


 星に興味がない訳ではないが、これといって興味がある訳でもない。しかし流星群となるとこれは滅多に見られないから見たほうが後悔しないかもしれない。お母さんは病院へ夜勤に行ってしまうし、お父さんは出張中で今日は帰ってこないはず。


 「見にいってみようかな」


 しばらく流星群についての情報を入手し、携帯を閉じた。一度伸びをして夕飯の手伝いでもしに、私は台所へ向かった。







 「じゃ、仕事行ってくるから戸締まりしっかりね!」


 「うん、行ってらっしゃい」


 せかせかと出て行くお母さんを見送って、私は時間までテレビや携帯で時間を潰す事にした。本当は深夜に見にいきたいところだけど、見つかって警察のお世話になるのは嫌なので、十時から十時半までの少しの間だけ。外も寒いしこのくらいの時間で十分だ。

 行く前にお風呂は入っておきたいな。私はお風呂場へ駆けて行った。





 お風呂から出て長めの髪をしっかり乾かす。少しでも濡れていたらこの寒さで凍りついてしまいそう。私は服を何枚か重ね着し、マフラー、手袋と防寒具も忘れずに身につけた。懐中電灯も忘れずに持って行く。そうして私はリビングの電気を消して、玄関の電気も消していく。

 私は玄関を開けた。一気に冷え切った空気が流れ込んでくる。その寒さに耐えつつ私は扉を閉め鍵をかけた。

 私は目的の場所まで歩きながら時折上を見上げる。観測条件良好とだけあって雲はかかっておらず月明かりもない。冬は空気が澄んでいて、星がくっきりと見える。もしかしたら星を見るのは久しぶりかもしれない。いつのまにか私の歩くスピードは増していた。

 心が舞い踊っているのを薄々と感じながら目的の場所へ到着した。

 私が星を見るのに選んだ場所は、一言で言ってしまえば廃墟。外壁塗装も剥がれ落ち、コンクリートが剥き出しになった三階建てのビルのようなもの。窓ガラスはほとんど割れており、扉もない。大人達からは危ないから入ってはダメと言われる場所だけど、ここの三階は天井が壊れ、空を見渡す事ができる上に窓もまだついているので風よけにもなる。

 こんな夜にここに来るの初めてで薄気味悪く怖いけれど、懐中電灯で足下をしっかり照らしながら階段を登っていく。

 そして最後の階段を登りきって、いざ部屋に入ろうと懐中電灯をまえに向けた時。


 「うわっ、まぶし!」


 そこには腕で光を遮って、半目を開けている人がいた。






 この時間に人がいたことで叫ぶつもりだった私は、相手がすごく眩しがっていたことで。


 「あ、すみません」


 素直に謝った。


 「いや、大丈夫、それよりもこんな時間に君は?」


 懐中電灯は下に下げたのでぼんやりとしか相手の顔が見えないが、声からして男性で学生ぽかった。


 「ほ、星を見にきました」


 なぜか敬語になってしまって、人がいるなら帰りたいと思いながら相手の返事を待つと。


 「もしかして流星群!?ここ、良いポイントだよね。見る?」


 あ、うんと返事をしてしまって、今更引き返せない状況になったのを少し遅れてから理解した。






 「わぁ〜!また見えた!!」


 最初の不安は何処へやら、私は体操座りをして満点の星空を見上げ、流れ星が流れる度に声を上げていた。

 少し離れた私の隣で同じく体操座りをしながら見上げているこの人は、飛岡鷲二(しゅうじ)君。同学年で同じ高校だった。見たことないのは私は文系で彼が理系だから。あまり交流などないので、知らなくても無理はない。向こうも私の事は知らなかったらしい。


 「よ、夜だからもう少し静かにね」


 飛岡君が隣でちょっと不安そうな顔をしている。そう言いながらも、流れ星が見えるとわぁ〜と声を出している。

 そんな姿に私はクスッと笑った。飛岡君は、なに?という感じでこっちを見てるけど私は何にもないよと言ってまた空を見上げる。

 また一つ、星が流れた。





 「じゃ、落合さん夜道に気をつけて」


 「うん、またね」


 結局小一時間ほど星を眺めていた私は、警察と不審者に気をつけながら小走りで家に戻った。

 恐らく初めて流れ星を見た。しかし私は、流れ星による興奮よりも、こんな夜に男子と二人で少しといえども過ごした自分に驚いていた。

 

 「明日もちょっと星観にいこうかな」


 なんて思ったりして、私は眠る事にした。





 そして翌日。いつも通りの日常を過ごした。当たり前のように起きて学校に行く。授業を受けて、友達と喋って、お弁当を食べて・・・。なんとなく飛岡君を探したりもしたけれど、結局見る事はなかった。


 「ただいま〜」


 「お帰りなさい」


 うー、さむさむ。マフラーと手袋を外して手を擦る。用意されているココアが温かい。冷え切った体を少しでも温める。

 ココアを飲んでほっと一息つくと私は自分の部屋へ向かった。

 部屋着に着替えると私はベッドへダイブした。時間が経つのが妙に遅く感じる。そしてやけにソワソワしている自分がいる。


 「私、楽しみにしてる?」


 きっと今、鏡を見たら絶対変な顔してる、私。ベッドの上に伏せて置かれたスマホを裏返して電源ボタンを押して時刻を確認する。そしてまた伏せた。

 私はそれを幾度となく繰り返した。





 「じゃ、行ってくるからね」


 「うん、いってらっしゃい!」


 いつもより元気に言ってしまった私を、お母さんは一瞬怪訝(けげん)な顔をしたが、すぐ玄関を閉めて行ってしまった。



 そして夜になった。私は準備をして家を出る。昨日よりも足取りは軽く、高ぶった気持ちを抱いていた。

 時折そらを見上げながら、目的の場所へ着く。懐中電灯で足下を照らしながら階段を上った。


 「あれ?今日もきたんだ」


 そしてそこには飛岡君がいた。昨日は持っていなかった立派な望遠鏡が隣にいる。


 「あ、うん。星見たくって・・・それって望遠鏡?」


 懐中電灯を消して私は飛岡君の側に寄った。


 「そうだよ、今は月にピントを合わせてあるから見てみる?」


 「見たい!」


 私は望遠鏡へ駆け寄った。ここから覗いて、と指示されその指示通りに覗く。そこに映った景色は皓々(こうこう)と輝く鮮明な月だった。


 「クレーターがこんなにくっきり」


 「凄いでしょ?」


 飛岡君はちょっと自慢気にそう言う。もっと自慢してもいい。それだけすごい。望遠鏡を見たのもはじめてだし、ましてや使った事もない。こんなに綺麗にはっきり映るだなんて。


 「・・・きれい」


 私は無意識にそう呟いていた。

 しばらく眺めていると、横から飛岡君が。


 「金星見てみる?」


 と言ってきたので、私は頷いた。

 飛岡君は私には到底できっこない操作を始めた。金星の位置にまず狙いを定めているようだった。恐らく今私が見ている以上に難しい。何度か調整をしてようやくピントがあったらしく、よしと呟いた。


 「どうぞ?」


 私はそっと覗き込んだ。


 「あれ?小さい月みたい」


 私がみているのはまるで三日月のような天体だった。


 「うん、金星も月と一緒で満ち欠けがあるんだ。明けの明星、宵の明星と言われるように明け方と夕方でしか見れない。もう少ししたら見えなくなるよ」


 「へぇ〜金星って自分で光ってると思ってた」


 そう言っているうちに金星は見えなくなった。私は望遠鏡から離れる。


 「どうだった?」


 「望遠鏡を使える飛岡君が羨ましい」


 予想外の答えだったのか飛岡君は笑った。続けてこう言った。


 「僕はほぼ毎日来てるから、星が見たい時に来なよ、見せてあげる」


 「いいの?」


 「もちろん、けど朝の天気予報が雨や雪、もしくは曇りの時はこない。晴れの時だけ来てるんだ。天気予報はしっかりチェックね」


 「はい、分かりました!」


 「じゃ、そろそろ帰ろっか」


 飛岡君は望遠鏡を片付け始めた。私はその間星を眺める。今日も綺麗な星達が輝いている。どれだけ手を伸ばしても届かない星。子供の頃、星が欲しいなんてつまらないギャグをよく言っていた気がする。今更ながら可笑しくて私は笑った。望遠鏡を片付け終わった飛岡君がどうした?とこちらを向いた。


 「なんでもないよ」


 そうして私達はそれぞれの帰路へついた。






 それから私は晴れの日は毎日あの場所へ行くようになった。天気予報が晴れだと私の気持ちは高くなって雨だと落ちる。いつのまにか友達にも亜鷲美の感情は分かりやすいね、なんて言われた。ふん、べつにいいもんね。綺麗な星も見えるし、月もくっきり見えるし。


 「あー楽しみだな」


 いつからかそうやって呟くほどになっていた。


 あ、天気予報が晴れでも午後から雨が降ってくるなんて日の私は、最悪だった。





 「あ、こんばんは」


 待ちに待った夜が訪れ、私が行くと飛岡君はもういた。


 「こんばんは!」


 私は飛岡君から少し離れたところへ体育座りをした。


 「えーと、昨日はどこまで話したっけ」


 「今日は天の川について教えてくれるんじゃなかった?」


 あ、そうだそうだと言って飛岡君が話し出す。

 こうやって私に知識を披露してくれる。もしかしたら周りから見れば飛岡君は自慢をしているようにしか見えないかもしれない。けれど私にとってそんな事はない。

 一度飛岡君が、これって自慢してるって思われないかなと聞いてきた事があった。私は全力で首を横にふった。

 あの時の飛岡君、すごいホッとした顔してたな。


 「えーと、天の川って星の集まりなんだけど、説明するにはそれだけでは不十分なんだ」


 「星がたくさんあるんじゃないの?」


 「星はたくさんあるんだけど、実は僕らが見てる天の川ってのは銀河の真ん中を見ているんだ」


 そうだな、と一度考えるこむ。分かりやすい説明をきっと考えてくれている。そうして、うんと頷いた。


 「銀河はよくどら焼きに例えられるんだけど、地球がある場所はどら焼きの恐らくアンコが入ってない端の部分なんだ。どら焼きを平面に見てそこから真ん中のアンコの部分を見ている。銀河は無数の星の集まりだから、だからあんなに綺麗にみえる」


 わ、分かったかな?という風に私の方を見る。


 「どら焼きの例えで分かった!」


 「良かった〜」


 飛岡君は安心して、胸を撫で下ろした。


 「他は?他ないの!?」


 「じゃー次は・・・」


 そうやって私の夜は流れていった。今日も静かに天上の星達は輝いている。







 人生は、社会は理不尽だ。

 続かないだろと思っていたものこそ、案外長く続く。逆に永遠に続いてほしい、なんて願ったものならその終わりは唐突にやってくる。

 私は終わりを突きつけられた。得体のしれない何かから。


 

 今日の天気予報は晴れ。今日もあの場所へ行って飛岡君の話が聞ける。それを楽しみに嫌いな数学だって頑張れる。早く三年になって数学のない環境に身を置きたいといつも願っている。

 私はいつも通りに一日を過ごした、そして夜を待った。

 階段を懐中電灯で照らしながら登る。いつも飛岡君が先に来ているが今日は気配がしない。

 私は少し不安になりながら向かった。案の定飛岡君はいなかった。だが、懐中電灯は望遠鏡を照らしている。もしかしてトイレでも行ってるのかなと私は思った。

 しかし私は気づいた。望遠鏡に不自然にひっかけられた封筒があった。タコ糸を輪っか状にして封筒にテープで貼り付けられており、望遠鏡にひっかけている。

 私はなんだろうと、その封筒を裏返した。そこに。


 『落合さんへ』


 男子にはあまり似合わない、丸っこい字でそんな風に書いてあった。

 私はそっと封を切って中から手紙を取り出して、読んで・・・そして泣き崩れた。

 詳しい内容は覚えていない。ただ突然の事で申し訳ないという謝罪、毎日が楽しかったこと、そして望遠鏡をぜひもらって欲しいということ。飛岡君は転校するんだ、それを手紙が告げた。


 「なんで・・・なんでよっ・・・、私は・・・君と星が見たいのにっっ!」


 私から大粒の涙が溢れ手紙にポトリと落ちる。紙に滲んで大きなシミをつくった。


 「突然すぎるよ・・・」


 手紙にはどこにも引越し先なんて書いてないし、そんな話ちっともしなかった。なんで、突然なのよ。どうして。


 私は手紙を三つ折りにして封筒に戻そうとした。すると手紙の裏に、先ほどは見えなかった部分に文字が書いてある。


 『もし、また落合さんに会えたら次は夏の夜空の下で話しがしたい』

 

 「夏の・・・夜空?」


 確かに私達は冬空の下でだった。飛岡君の話は四季折々の宇宙の、星の話だったが、いつも天上には冬の星が輝いていた。

 次は夏か・・・。

 私は無意識の内に"次"を考えていた。きっとまたどこかで会える、そんな気がしていた。

 私は改めて手紙を封筒にいれた。望遠鏡の横に様々な手入れの道具だったり、レンズが置いてあった。私はそれらを全て持ち帰った。

 君が来なくても私は星を見る。星の儚さをそれ故に美しいのだと、君に教えてもらったから。

 私はもう泣いてなどいなかった。見上げた夜空には冬空の星がはっきりと見える。飛岡君もきっとどこかでこの星を眺めているはずだ。

 離れていても、見える星は同じなんだ。












 「お疲れ様でーす!」


 「落合さんお疲れ〜」


 私は大学を卒業して念願の図書館で働く事になった。本が好きな私は、こうやって沢山の本に囲まれるのが何よりも心地よかった。

 図書館を出ると外の熱気が一気に襲いかかる。図書館の中はクーラーがしっかり効いていて寒いくらいに涼しい。それとは対照的に外は溶かされるほど暑かった。日中はもっと暑いが夕方になっても熱が下がっている気がしない。今夜も寝苦しいだろうな。そう思いながら帰路につく。

 私はアパートの部屋の鍵をガチャリと開けた。現在は一人暮らし。贅沢な暮らしをしている訳ではないが毎日は楽しい。ここは近所の人達も優しいし自然豊かだ。

 私は部屋の隅に、布を被せたまま(たたず)んでいる望遠鏡を見た。あれから毎日のように使っていたが、大学に入ると次第に使う頻度は落ちて今はあまり使っていない。けれど手入れは欠かしていない。

 私は携帯をつける。午後七時。夜ご飯食べて久しぶりに使おうかな。ついでにニュースもチェック。


 「んっ、ペルセウス座流星群!」


 これは行かなきゃ。私は準備をして夜が深まるのを待った。




 幸いな事に近くの丘のような場所によい観測スポットがある。久しぶりに望遠鏡を担いだ。この重さが何よりも懐かしい。

 十五分ほど歩いて到着した。民家も少ないから、明かりも少ない。

 今日の天気予報は晴れだった。きっと沢山の流れ星が見えるはず。

 私は望遠鏡は後回しで地面にそのまま体育座りをして見上げる。流れ星はすぐに見えた。

 暫く見ていると少し離れたとこらから車の音が聞こえ、割と近くに止まった。私は警戒した。こんな夜に女性一人だなんて、よく考えれば結構危ない。

 車の運転手は車を降りると後ろへ回ってトランクの中から何か大きな物をだした。そうしてゆっくりと私に近づいてくる。

 私の背中に冷や汗が流れる。鼓動も一気に早くなり足がすくむ。

 私はなんとか逃げようと立ち上がろうとすると。


 「あ、こんばんは〜」


 気さくにもその人は話しかけてきた。私は一瞬緊張が解ける。


 「こ、こんばんは」


 つられて私も挨拶を返してしまった・・・って、え?なんだか聞き覚えのある声、どこか懐かしいこの声。


 「今日、流星群なんですよね〜、あなたも流星群を・・・」


 そこで声は止まった。向こうもきっと気づいた、私に。

 しばし静寂が訪れる。お互いの無言が続き、その沈黙を破ったのは私だった。


 「と、飛岡君?」


 私は恐る恐る尋ねた。顔ははっきりとは見えないが暗闇の向こうで目を見開くのが分かった。


 「お、落合さん!?」


 私達はまた、次は夏の夜空の下で出会うことが出来た。次、あの時からの続き、君が話したい事を私に聞かせてほしい。待ち望んだ瞬間でもあった。




 「まさか落合さんがこの辺に住んでるとはね〜」


 「こっちこそ、飛岡君がここに引っ越してたなんて知らなかったよ〜なんで住所教えてくれなかったの?」


 「会って間もない女子に住所教えるって図々しくない?」


 「私はそんな事ないのに〜」


 私達はまたあの時と同じように体育座りで星を眺める。私達の頭上を何度も星が流れている。


 「落合さん、その望遠鏡まだ持っててくれたんだね」


 「ちゃんと手入れもしてたんだよ、こんなもの置いていくなんて飛岡君もひどいよ、持ち帰るの大変だったんだよ?」


 「それはごめんなさい」


 飛岡君は素直に頭を下げた。それが可笑しくって二人で笑ってしまう。


 「ね、久しぶりになんか話してよ」


 飛岡君が小さくハッと息をのんだ。


 「そうだな、天の川の話はした事あったよね。天の川を隔ててある二つの星は分かるよね?」


 「織姫と彦星ね」


 「そう、織姫がベガ、彦星がアルタイル・・・」


 そこで飛岡君の声が途切れた。


 「ん、どうしたの?」


 飛岡君は何か言うのを逡巡しているように見えた。暫く黙っていたがやがて口を開く。


 「織姫と彦星ってさ、まるで僕たちだよね」


 「え、なんで?」


 私達は別に一年に一度会ってた訳でもないし、名前も似てないし・・・。


 「あ、似ているってのは一年に一度会うとかじゃなくて、まるで君が織姫で僕は彦星だな〜っていう」


 なんだか飛岡君らしくない。歯切れが悪い。いつもは流れるようにその知識を披露してくれるのに。


 「な、名前がさ僕たちってお互い"鷲"っていう字が入ってるじゃん?その織姫、ベガは和名にすると《落ちる鷲》、彦星は《飛ぶ鷲》なんだよね、落合、落ちる、亜鷲美、鷲。飛岡、飛ぶ、鷲ニ、鷲。まさに織姫と彦星で二人みたいに恋人になれたらな〜と、ほ、星の話じゃないんだけど、あはは」


 「へえ〜私って織姫なんだ〜って・・・最後なんて言った!?」


 「え、えーと、あ、いや何も言ってないよ」


 「嘘!なんか言った!もう一回聞きたい!」


 私は飛岡に詰め寄って顔と顔が数センチのところまで迫る。私は早く早く、とむぅ〜とした顔になる。


 「お、織姫と彦星って、まぁ恋人だから僕たちもそうなれたらな〜と、そんな感じ・・・です」


 私はすっと顔伏せて、(うつむ)く。

 そして私はバッと顔あげて、そのまま飛岡君の唇へキスをした。

 お互い、一気に顔が赤くなる。

 私はそっと離れて顔をまた伏せる。


 「遅いよ、ずっと待ってたのに。いきなりいなくなって、どこにいるかも分かんないし・・・。ずっと・・・寂しかったんだから・・・」


 「ごめん・・・」


 「うん・・・」


 私はそのまま飛岡君の胸へ倒れこむ。彼は優しく頭を撫でてくれた。しばらくそうしてもらった後、彼が口を開いた。


 「星を見よう。今日は流星群だから。今後の事を色々願おうよ」


 私は顔あげてゴシゴシと涙をふいて座り直す。空を見上げても、まだ涙でボヤけている。


 「まだ星見れないから、何か話して」


 飛岡君はいいよと言って笑うと、話し始めた。


 「今日見えるペルセウス座流星群の母彗星はスイフト・タットル彗星って言うんだけど・・・」


 私はそれを聞き入った。その間にも頭上を星は流れていく。

 あの時のように体育座りで、ただしそこにはもう二人の間に距離はなかった。

 

初めまして、もしくはお久しぶりです。月代かぐやです。

大学受験もあり、色々と忙しかったのですが、なんとか卒業前に短編を一本書き上げる事ができました。

文章力や創造力は落ちてます(笑)

可笑しな文章がありましたら、おい!これ可笑しいだろ、直せ馬鹿野郎と罵って下さい。励みにします*Mではないです。

次はおそらく長編を書くつもりなので、過去作、本作と合わせて読んでくれたら嬉しいです。

それではまた次回作で会えるのを楽しみにしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうこれ最高です。 とても好きな話です。
[良い点] ∀・)シンプルなお話ですが、さくさく読めてストレスかからないのは読者にとっては良いかと。飛岡君も落合さんもピュアな感じがあって好印象です。 [気になる点] ∀・;)ん~軽いみたいな?逆にそ…
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