目と目が合うー
というか、ちょっとこれは怒っていいのだろうか?
いや、怒っていいよな?
どうなんだ?
人間とはあくまでも理性的であり理由もなければこうして団体で襲っては来ない生き物だ。
仮に権力をもっている個人が私怨で団体を動かしたとしてもその団体には何処か使命感というか執念というか、そういった物が感じられない団体が出来上がるはずである。
だがこうして目の前に敵意を向けてくる団体は、なんというか、本当に必死そうな顔をしているのだ。
まるでここでどうにかしなくては取り返しのつかないことになるような、そんな面持ちなのである。
え、なに?
俺って寝てるだけでこの世界の人達から敵意持たれちゃうの?
それはあんまりっすよ....
いや、きっと何か理由があるはずだ。
とにかく会話だ会話。
人間話さなくては分かり合えないとはよく言うものである。
まぁ、その言葉はそのままの意味で取るとただの平和主義バンザイな人間になる。
しかしこの場合、会話で分かり合うのではなく腹のさぐり合い程度のことが出来れば良いのだ。
とは言うものの敵視されてる俺が聞き出せる情報なんて微かだろう。しかし俺の中で行動の選択肢を作るためには情報が必要である。
もしかしたらこの人たちは正義の味方かも知れないし、逆にただのテロリストって奴かもしれない。
相手の大義名分を聞いてから殲滅するのも遅くはないだろう。
「あーーーのぉぉーーー!!きーこーえーまーすーかぁぁぁぁぁ!?」
距離としては200メートル離れてるか離れてないかの距離である。
木々の生い茂るここではあまり声が届かなさそうだ、などと考えていたが杞憂であった。
なにやらヘリの中の人が耳に当てたイヤホンとマイクを通じて指揮官的な人と連絡を取ってるのが分かる。
『隊長、目標からアクション有り。応じますか?』
『.....分かった。ライダーは状況を見て対応を、私が直接行く。』
『な!?隊長!了解しかねます!!それでは何かあったら隊長ごと撃てとっ』
『そう言っている。お前はいつからそんなに馬鹿になったのだ?私が許可したのだ、殺れ。』
『.....はっ!!了解....しました。』
え、なんか、雰囲気が映画のワンシーンみたい....
しかも相当深刻な場面の、ね。
なんか、小学生のとき授業の一環で戦争の悲惨さを伝える映画を見たことがあったが、その時の雰囲気そのままなのだ。
俺、普通に会話したいだけなのにな
指揮官さんのような人は魔術師たちが貼った結界の中から出てきて、俺と同じように自分で展開した結界を足場にしてこちらへ向かってくる。
そして俺の目の前で綺麗にスチャッと着地した指揮官さんは覚悟を決めた表情で俺の方に目線を向ける。
指揮官さんはその凄まじい眼光で俺を射殺すつもりなのかは分からないが、ゆっくりと立ち上がる姿は羅刹のようである。
あ、ハッキリ言って超怖いです。
まだ魔王の方が可愛く感じます。
いや、俺にそういう趣味があるってことじゃねーかんらな?
あくまで比較対照ってことですよ?
「あー、えーと、あのー....」
「............................................................」
うわぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁあああぁぁ!!
どうしよ!?
ダメもとで会話してみようと声かけたけど実際に出てきたのがこんなコワモテ超ヤバ超人とか思ってもみなかったんですけど!?
ビビって会話できねーよ!
あれだぜ、俺ってばまだ16歳だぜ?
こんな恐ろしい人相手に平気では居られないっすよ!
てかそれより、俺が居た国って軍人が結界魔法とか身体強化なんて使うような世界だっけ?
絶対違うよぉぉぉ!!
これまた別の異世界ってオチじゃね?
でも日本語使ってたよな?
あれ、どうなんだ?
あ、これを聞けば良いじゃん。
会話の糸口ミッケ!
「あの!『少年』」
「........」
「........」
うっわぁー、マジないわー!
ここでセリフ被るとか最っ高にないわー。
これってあれだよね、お互いに被らせちゃった事が原因で確実に硬直状態&気まずい雰囲気になるヤツだよね。
「ん、ん!!しょ、少年、まず、名前はなんという?」
「へ?名前ですか?」
おっと、ここは大人ならではのリード力を発揮してくれたおかけで会話が成り立ちそうだ。
その代わり会話の主導権は全部あっちだろうが問題なかろう、うん。
「ちなみに私はヤスリというものだ。」
おぉ、名前を聞いといて先に自分が名乗ることで、相手に無意識のうちに名前を言わなくてはという意識を植え付ける高等テクっ!
「えー、こんにちは、になるのか?お昼だよな、今。俺の名前はワタル。飯山 航です。えーと、ここって日本?というか地球ですよね?」
「あ?」
うっわ、この人今露骨に馬鹿を見るような目で俺を見やがった!
まぁ事情知らない人から急にこんな質問されたらそうなるのは分かるけど俺だって仕方なく聞いているのだ、そう露骨に表情に出されるとムカッとする。
「ああ.....少年、ではないか、ワタル君の言っている地球というのがこの星のことであり、今私たちが居る領土が日本という国か、という意味の質問なら肯定しよう。」
むむむ、この質問が肯定されるとは思っていなかったぞ....
ダメもとで、というかここが俺の生まれた世界だと信じたくない気持ち半分で質問したのに....ショックだ。
となるとパラレルワールドとかではないならここは俺の生まれた世界、という事になるな。
んー、そうなると日本という国は一般市民にミサイルぶちかまして来るような人達が国を守るために働いてる国という事になるぞ。
大丈夫なのか、それ?
「では次はこちらから質問させてもらおう。ここには何で居たんだ?」
「何でって.....」
それは俺が聞きたい、だってここにいるのは自分の意思じゃないから。
「もう一度言う、貴様、何故あそこにいた?」
「いや、本当に分からないんです。」
これは嘘言っていない。
「なんか、気づいたらあそこに居て、帰ろうにもどっちにどれくらい行けばいいのかなんて判断も出来ないし、夜だったんであの場所に家を建てて寝ることにしたんです。」
「.......」
目の前のヤスリさんはそれはそれは恐ろしい顔で一言も発することなく俺の目をまっすぐ見てくる。
それは真偽を確かめようとする意思が宿る強い眼差しだった。
てか、ちょーこえー。
相手が黙ってることだし、こちらも聞きたいことがあるので質問させてもらおう。
「あの、すみません、質問いいですか?」
「あぁ、構わん。答えられる範囲で返答しよう。」
「これ、聞いたら不味いのかも知れないんで答えられなかったらただのガキの戯言って聞き流していいんで。
「なるほど、そう言ってもらえるとたすかる。」
「あの、俺の記憶からすると日本って、というより地球には魔法の技術が無かったとおもうんですが....。もしかして皆さん何処か違う世界出身とかですか?」
「.......」
おい!なんだそのイタい奴を見る目は!?
俺は至って正常だ!!
「まぁなんだ、お前はここがどこだか分からずに気づいたらここにいて寝るために家を建てようとして魔法を使ってしまった、ということでよいのか?」
「はい、その通りです。」
あ、俺の質問はスルーですか、そうですか。
ということは何か裏の仕事やらを国から任されてる特殊部隊なのか?
まぁそこら辺の詮索はやめとこう、タダでさえ面倒ごとに巻き込まれてるのにここで突っ込んだらもっと酷いことになりそうだ。
「ライダー、ライダー、応答せよ」
するとヤスリさんは耳はめてあるイヤホンに手を当て、口元のマイクでヘリコプターの人に話しかける。
「詳細は後ほど伝えるが今は状況説明を省略する、直ちに命令を下し全員帰投させろ。跡形ずけは後日別働隊がする。」
『ラジャー』
すると直ぐにヘリコプターに乗ってる人は黄色い煙弾を打ち上げる。
それに気づいた地上の人たちは速やかに隊列を組み替え準備が完了し、森の中へと消えていく。
5分もしないうちに地上から人は消え、ヘリコプターも遠くに見えるくらいになった。
ただヤスリさんはその間俺の目の前に居続けた。
いやまぁ普通にこれで帰られても困るけど、この状況はこの状況で猛烈に困る。
考えてもみて欲しい、厳つい顔した軍服きたオッサンと、空中で2人きり。
「.............」
「.............」
そして極めつけはお互いに見つめあったまま無言。
なにこれ?
もう一度聞かせてくれ、なにこれ?




