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9番出口の・・・・・!

作者: 赤馬研

桜が終わって、夏に向かい出したある金曜日。


「今日はなにも起こるなよー!」


朝からそう願って会社に出てきた。


そう、今日の午後は久々に後山さんに時間をもらってランチに行くことになっていた。


時間があるからといって直ぐに会えるわけでもないが、今日は本当に久しぶりに二人で会う時間をもらった。当然随分と前から待ち遠しく、当日が近ずくにつれてそわそわとしてきた。主たる名目はランチを一緒に食べるというものであるが、その後に少しでも時間をもらえないかなとかすかな希望を持って会社に向かった。


後山さんは今日、仕事を午前中で終えて午後休を取ってくれて食事に来てくれることになっていた。待ち合わせ場所は、何時もの所である。いつもといっても二回目でしかないが、私にとっては特別な場所となっている。普段はなんてことのない場所だが、そこで繰り広げられる事によってはとても印象的な場所になるものである。


「11:45くらいからデスク上で気配を消した」


最初のポイントは、無事に会社を脱出する事だった。


「じゃ、頼むは」


同僚に挨拶をして定刻通り静かに会社を後にした。


「心の中で思わず ニヤリ 」


ってな感じだった。


当然私が先に待ち合わせ場所について、彼女をまつわけだが、いろんなシチュエーションでこれまで人を待ってきたが、この場所で彼女を待つ瞬間ほどドキドキとした待ち合わせは記憶にない。


街わせ場所は、会社の最寄駅から1駅乗った駅の9番出口を上がったところとしていた。


「うーん、顔が少しこわばってるなー」


やはり久々ということで緊張していた。


笑顔、何がなくても笑顔と自分に言い聞かせて彼女を待つことにした。


「今から電車に乗ります」


メールをもらった! もうすぐ来てくれる!


笑顔、もう一度言い聞かせた。


程なく彼女がエスカレーターを上がってきて私の前に現れた!!


その瞬間私の頭の中を何かが駆け抜けた!


同時にこのフレーズが舞い降りた。


「9番出口のシンデレラ!」


少し微笑みながら現れた彼女を見た時の嬉しさといったら他ではなかなか例えるのが難しいくらい素敵な感覚だった。


「こういった感覚は今後何回ぐらい感じることができるのだろうか」


数え切れない程有ると信じたいが。


平静を装う必要もなかったが、少し引きつった笑顔ではあったが、笑顔で手を振る事が出来た。


店はネットで探しまくって、結局最初の頃に気になっていたイタリアン、スペイン料理の混合レストランの予約をしていた。


初めてなのでどうかは微妙であったが、'なんとかログ'の口コミではなかなかの評判の店だった。


今回も待ち待ち合わせた場所からタクシーで店に向かった。この時間もかすかな怪しさをはらんだもので私にとっては楽しみな時間となっていた。


果たして彼女はどんな感じなのだろうか?


聞いてみたいけどなかなか聞けるもんでもない。 そう簡単にはこんな状況にはなれないのでとにかく慎重になってしまう。


店はカジュアルな感じで、それでいて雰囲気も良く、彼女も気に入ってくれたようだった。今回はあえてカウンター席を予約していた。

テーブルで対面して座るのも良いが、今回はカウンターの方が気軽に話せるかなと考えていた。


席について、オーダーをする前にどうしても聞いておきたい事があった。食事の後に何処かに行ったりしてくれるのか?だった。


「食事の後にドライブでもどうかな?」


平静を装ったつもりもなかったが、内心は恐る恐るという感じだった


なんと、答えはオッケーだった。


期待してたけど、おおかたダメかなと思っていた中でのオッケーだったので、とてつもなく嬉しく、心の中で万歳してしまった。


彼女にとっては、単なるドライブという事なのかもしれないが、俺的には大事件であった。


そうなれば法令遵守ということで私のドリンクオーダーはひたすらノンアルコールとなった。


このときのノンアルコールの味は当然ながら格別なものだった。


料理を適当に頼み、会社絡みの話が多かったが、

自分としては久々にドキドキしてたまらない時間だった。

後から思うと馴染みがあるものばかり頼んでしまい、もっと珍しいものとか頼めばよかったと後悔した。どれも評判通り美味しかったので尚更そう思った。

情けない、もっと余裕を持っておもてなしできなかったか? ジョージクルーニーだったらもっと完璧に決めたはずだ。


二時間ぐらいいただろうか、そろそろお腹も満たされたし、いよいよドライブタイムだ。レンタカーの場所は調べつくしていた。仕事もそうだが、準備はとても大切なものである。

首尾良く車を借りる事が出来て、素敵なドライブタイムが始まった。


「横浜」


やはり、ここしかなかった。


横浜という街は、とてもドラマチックな街であり、いろんなシチュエーションのカップルを受け入れてくれる街であった。


何かが始まろうとしているカップル、終わりかけかもしれないカップル、何も始まりそうにないカップル、始めたくても許されないカップル、全てのカップルに対し、ドラマチックな環境をただ静かに提供してくれる街である。


数多の様々なカップルがこの街を舞台にそれぞれのドラマを過ごした街であり、後山さんと是非来たい場所であった。


「ドキドキしていた」


三田から首都高に乗って羽田空港を横目にあっという間に横浜についてしまった。


行く場所はもちろん!港が見える公園だった。


久々に来た横浜なので、高速の降り口を間違えそうになったが、無事着いた。高速を降りてしまえば、街中の道は覚えていた。


山下公園を横目に見ながら、中華街のはずれを回って、元町から外人墓地へと進んだ。


やはり、横浜は車に限る。レンタカーのファミリーカーである事はご愛嬌であるが。


車を停めて、港が見える公園を散歩する事にした。公園から見る景色は久々だったが、昼間という事で、思ったよりはドラマチック性に欠けるものだった。


「ここは手をつなぐ場面だよなー」


づっと思ってたが、これまでの事を考えると言いだす事ができなかった。


微妙な距離感を保ちながら時が流れた。


仕切り直しだ。


山下公園に行こうかと提案し、オッケーの返事!


再び山を下り山下公園の駐車場に車を進めた。


「ん、山下公園」そういう事か。


車を降りて、海辺を2人で歩き出した。


「あっ、つないでくれた」


自分でも驚くほど気負わずに手を差し伸べる事が出来た感じで、後山さんが手をつないでくれた。


「・・・!!!」


表現が難しいが、素直に純粋に嬉しかった。


2人を爽やかな潮風が包んだ。

ゆっくりと歩き、後山さんのことについて色々と話すことが出来た。


少し歩いたところでベンチに座った。


「やっぱ綺麗だなー」


心地よい風が吹いているなか、隣に座っている後山さんの横顔を見ながら思った。


今日はこれまでよりはるかに自然な感じで話ができている。


「俺だ」


気が付いた。俺がいつも何か勝手に意識し過ぎて、壁みたいなのを作っているんだ。後山さんは、いつも変わらずフラットに接してくれている。

普通に話したい。けど難しい。もっと大人になれということなのかもしれないが、私には難しい感じがする。


「少し歩こうか」


再び手をつないで歩いてくれた。


このままゆっくりと時間が流れてくれればなーと思いながら2人で歩いた。


とても素敵な時間が流れていた。



「プォー プォー」


突然、山下公園わきに繋留されている氷川丸が汽笛を鳴らした。


珍しいなと思っていると


「プォー プォー」「プォー プォー」


いつまで鳴らしてんだろう、止まらない。


「プォー プォー」「プォー プォー」

「プォー プォー」「ジリリリリー」

「ジリリリリー」「ジリリリリー」

「ジリリリリー」「ジリリリリー」


なんだ、音が変わったぞ、なんだこの音、目覚ましみたいだなー。


「ジリリリリー」


「夢⁈」


はっ と目覚めた。傍で目覚まし時計がけたたましく鳴っていた。


しばし呆然。


「なんだ夢かよ」


ようやく正気に戻り状況を飲み込んだ。


「夢か」


それにしてもリアルな夢だった。


そう、夢に出てきたランチはまさに今日の午後に予定されていた。


あまりの期待に夢に見てしまった。


さて、夢であったように事は上手く進むだろうか?


「今日はトラブルとか、何も起こるなよー」


そう願いながら、不安半分、期待半分で駅に向かった!


さて、シンデレラはどんな笑顔で9番出口から出てきてくれるやら!


終わり

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