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宇宙人と二つの強硬手段、そして俺の最後の (4)

 濛々と沸き起こる土煙が周囲を覆っていた。

 数メートル先を視認するのすら困難であったが、足元に仰向けになっているのが鎌足利聞だというのは、見ずとも分かっていた。

 俺は彼女の頭の横突き刺さっていた光翼刃を引き抜く。


「何故殺さなかった?」


 空を見上げたまま、彼女は苦々しい口調でそう尋ねた。


「バカか。俺はあんたを倒すのが目的であって、殺す必要はなんてない。ていうか普通の高校生に人殺しなんてできねーよ。いや宇宙人だから宇宙人殺しになるのか?」

「はっ! お優しいことで」

「いや普通だろ。それにあんたも同じだろ」

「ほう?」

「キイへの攻撃を途中で止めてた」


 少し離れた場所にキイが倒れているのが視認できる。衣服は多少擦り切れていたが袖から伸びる長い手足の肌は真っ白なままで、業火に巻き込まれたとは思えない姿である。仰向けになった胸は規則正しく上下しているので、気を失っているだけなのだろう。


「……ワタシがアレをどうこうしたところで利益はない。無駄な事はしない主義なだけだ」

「そりゃお優しいことで。ま、お前がキイとレニャの2人を利用して進めようとしたた計画はまるっとお見通しだけどさ」

「……何の話だ」

「地球開発計画。あんたが長年温めていた計画だよ」

知識の書庫(アカシックコマンド)が情報の片鱗を集めていたか。全く面倒で便利なコマンドだ」


 利聞は舌打ちすると苦虫を噛み潰したような表情になった。

 太陽系第3惑星「地球」。自力でやっと衛星にいけるようになった程度の科学力しかない辺境の星は、宇宙大連立によって「公的接触禁止惑星」に制定されている。過度の科学力の発展はその星の文化に悪影響を与えるとされているからだ。


 つまり宇宙人からみれば、地球は未開拓市場のブルーオーシャンなのである。

 鎌足利聞は地に根付いた宇宙人(非合法ではあるが)であり、もし地球が開拓市場になったとすれば、他の商売敵よりも有利な状態で始めることが出来る利点がある。

 そしてキイとレニャはそれぞれマリード王家とレアハントギルドという、宇宙において影響力を持つ組織の関係者であり、2人を上手く動かすことが出来れば地球を開発させる世論へ仕向ける事も可能なのである。

 事実、知識の書庫(アカシックコマンド)で読み取った過去10年間の宇宙大連立の記録に、利聞のそういった動きがあることが検知されている。彼女が地球開発を最終目標として考えていたのは間違いない。


「とまあここまでは情報で読み取れたんだけど、俺にわかんないのは、何で独占市場に近い今の立場を他の宇宙人にも開放するかって事なんだよな」

「言っただろう? これでもワタシはこの地が好きだと。仮に地球が開発可能になったとすれば、最初に開発されるのはこの利聞がいる阿賀咲になり、世界初の宇宙人が立ち寄る場所としてこれまでとは比べ物にならないほど発展することだろう。ちょっとした恩返し、ってとこだよ。勿論、ワタシの利益もたっぷりとあるがね。とはいえうまくいったかどうかは分からない。何せあの2人が出会ったのは偶然だった訳だし、実際働きかけてもあのお嬢様の母親とお転婆の母親は一筋縄じゃいかないからねぇ」


 利聞は自嘲にも似た笑いを浮かべると、腕を頭に組み天を仰いだ。


「しかし意外だな。その程度の情報は知識の書庫(アカシックコマンド)を使えば知り得そうなものだが……」

「よく分かんないけど、結局人の心までは読み取れないって事なんだろ」


 知り得なかった情報を得て、俺は彼女の上から退いた。


「その代わり、過去現在の情報から未来の情報を計算するのはできるようだけどな。おっとそろそろあんたもそこから離れた方がいいぞ。火傷したくなかったらね」

「……?」


 利聞が訝しげな表情で立ち上がると、同時に微かな地鳴が響き始めた。やがてそれは大きくなり何かが近づく音へと変わっていく。

 一瞬の間の後、突如地面が弾けた。

 光翼刃で貫いた地面――――地下1000メートルを超えたはず――――の穴から勢いよく水流が噴き出し、地上十数メートルまで吹き上がった液体は、呆気にとられていた利聞へシャワーとなって降り注いだ。


「熱いっ……これは温泉か……⁉」

「そう。これが知識の書庫(アカシックコマンド)の予測計算から出した答えだ」


 キイを抱き抱えて離れる間にも、幾度となく間欠泉がたちあがる。豊富な湯量を持つ源泉を当てたようだった。


「明治初期くらいまではこの辺り一帯温泉街だったらしいしな。これで儲けられるだろ。あんたが予定してた地球開発に比べたら微々たるものだろうけどさ」

「ワタシがこれで儲ける……だと? 一体何を言っている?」

「だからー。この土地アンタに売るって言ってんの。幾ら地価が低いって言っても源泉付の土地なら1000万以上の価値になるだろ」

「バカな。お前は賭けに勝ったんだぞ? それともまさかこのワタシが約束を反故にするとでも思ってるのか」


 利聞は目を細め怒りの表情をあらわにした。


「いや別に侮辱してる訳じゃないから勘違いしないでくれ。一応俺も地元民だからな。ここら一帯が開発される事には反対じゃないんだ」

「……」

「ほら。古来温泉復活とか何とでもアピールすればいけたりするんじゃないのか? そういうのは得意なんだろ? 町起こしになるなら神津野銀一も表だって文句を言う事もないだろうし……何なら俺が口利きしてもいい」


 そう語った俺を利聞はじっと見据えていたが、暫くして肩を竦めた。


「……やれやれ。このワタシが一対一の戦闘だけでなく、まさか商売の方でも一本取られるとはね。これじゃ伝説の大盗賊も形無しだ」


 自嘲気味に笑ってから顔をあげた。

 その表情にもう敵意はない。俺は安堵して一つ息をついた。


「じゃ、契約は成立……ってことでいいのかな」

「ああ。今回は完全にワタシの負けだ。……そういえば思い出したよ。あのマリードのお嬢様の母親は面倒だったが、何より面倒だったのはその旦那だったってな。それに、」

「ああ、良く分かんないがそういう話は……また……今度で頼むよ。そろそろ……限界なんで……ね」


 視界が急速に萎み、月明かりすらない真っ暗な景色に変わっていく。

 ぐらりと身体が揺れたのは辛うじて自覚できた。

 抱えたキイが地面に当たらないようにはどうすればいいか? という問題はあったのだが、それに対して出した知識の書庫(アカシックコマンド)回答はとても下らなくて――――俺は軽く笑みを浮かべ実行し、そして意識を失った。




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