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女難とハンターは諦めない (2)

 あれから警察やら消防車が駆けつけ、学校は一時騒然となった。

 暫くして流れた校内放送が、生徒の即時帰宅と一週間休校になることを告げたが、今回を含め不可解な事件が連続で起これば学校側としては当然の対応だろう。

 学校から続く通学路は普段なら大した通行量でもないのだが、今日ばかりは報道車が所狭しと並び、何処も学生でない人で賑わっていた。


「あのぉ、ちょっといいですかぁ? 学校のグラウンドで爆発が起きた時、どうしてましたぁ?」


 女性レポーターが甘ったるい声で、帰り行く生徒に声を掛けている。


「テロじゃないすか?」「旧軍の不発弾が埋まってるってじいちゃんが昔言ってた!」「宇宙人の襲来ですよ、ははは」


 様々な答えが返ってくる中、意外と正解が混じっていたりするのだがそれを報道する気はないようで、レポーター愛想笑いを浮かべてサラッと流し、次の学生にマイクを向けた。


「あ、ちょっといいですかぁー?」

「いえ、よくないです。それじゃ」

「ちょ、千秋。折角だから何か言っていこうよ!」

「そうじゃぞ旦那様。素晴らしさをアピールするのじゃ! こほん。あの爆発はボクのコマンドが流れたから起きたのだ」

「あ、えーっと……こまんど……?」

「そうじゃ。ボクの爆発コマンドを本来あるべき場所ではない場所へ発生させた……恐らくその本質はコピーじゃないかと予想する。全銀河でも極めて貴重なコマンドだ。最もそれを無意識とはいえそれを使えた手腕はさすがボクの旦那様っていうか……あうっ!」


 制服の襟首を掴まれた宇宙人の女の子二号は、声を詰まらせた。


「あの、えっーと……?」

「あーすいません。俺ら先急ぐんで。これで失礼します」

「あぅう」


 俺は襟首を掴んだまま、報道車が並ぶ道を小走りに駆け抜けた。



    **********



 駅前も普段よりも人で溢れていたが、学校方面とは逆の道まで来るとその数は目に見えて減っていた。

 太陽はまだ真上にある。学校で食べそこなった昼食を摂る為、近くのファミレスに向かっていた。


「えっと、レニャーニャ……だっけ」

「レニャでいいよ、旦那様!」


 小動物を思わせる笑顔でレニャーニャは答えた。尻尾があれば振っているに違いない。

 とりあえず機嫌はいいようで、ならわざわざ不興を買う必要もないと思われた。


「分かった。じゃあレニャ」

「あい!」

「まずはその旦那様ってのを止めてくれ」

「え? 何でじゃ? 旦那様なんだから、旦那様で間違ってなかろ?」


 いやいや。色々間違ってる。

 そもそも昨日の段階で俺は襲われ殺されかけたのだ。一夜経ってみればまったく逆の印象になっているのが信じられない。何かの罠じゃないのか。


「屋上でも言ったけど。負けた異性に裸体を見られた場合、結婚するというルールがボクの一族の伝統だからじゃ。強い遺伝子を取り入れるためにね。これはとっても大事な事」


 レニャは笑顔で指を立てた。それは白く細い指。昨夜の白い肌を思い出してしまい、思わず顔を背ける。


「旦那様は身体に宇宙船を埋め込んでるし適正としては文句なしだし。宇宙船を奪おうと思ってたけど、結婚すれば全く必要ないし! だからボクは旦那様と結婚する。何も間違ってないよね?」

「断る」

「え⁉ 何で⁉ 旦那様はボクと結婚してくれないの?」

「しない。というか今それどころじゃない」

「ボクたちの間に何か問題でもあるのや?」


 彼女はグイッと体を近づけ上目使いで俺を見た。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! このバカ女! 婚約者を人の目の前で口説いてんじゃないわよ!」


 慌てた様にキイが引き剥がす。レニャは突然の乱入者に半目になる。


「……ああん? 別に婚約段階なら関係なかろー」

「大有りだわ。あんた一体どんな神経してるの。第一、あたしと結婚しないと宇宙船は動かせないわよ」

「別に動かせなくてもいいし。お前は宇宙船の遺伝子を与えるだけの器でいいんじゃ、ビッチは黙ってろい」

「処女ですしー新品ですしー。あんたこそ誰でもいいんじゃないの」

「ボクは旦那様一筋ですぅー。一度惚れたら死ぬまで惚れ抜くんじゃ」

「どうだか。案外そう言ってるヤツほどすぐに浮気するんだよねー。実際、今も人のを盗ろうとしてる盗人じゃん」

「なっ! だ、誰が盗人じゃ!」

「自分でレアハンターって名乗ったじゃない。呆れたバカね」

「うるさいわビッチ!」

「違うしバカ女!」

「だー‼ お前らいい加減にしろ!」


 一触即発の距離へと歩み寄った二人の間に、強引に割って入る。


「いいか。俺はどっちのモノでないし、どっちのモノになる気もない」

「ちょ、ちょっと勘違いしないでよね! べっ、別に宇宙船が戻ればあんたなんか要らないし! …………まあでもちょっとくらいなら一緒に居てもいいケド」

「じゃあ要らないならボクが貰うってことで」

「はぁ? ダメって言ってんじゃん」

「お主……自分で言ってる事がバラバラなんじゃが……一体どっちなのだ?」


 呆れたレニャが半目でキイを睨んだ。


「つうかどっちがどっちでもいいんだが、そもそもあと10日で1000万集めないと、俺は死ぬんだよ」

「……旦那様が死ぬ? 一体どういうことじゃ?」


 俺はレニャに簡単に現状を説明した。

 体内に宇宙船が埋まっているという事。二週間以内に婚約破棄しないと爆発する事。


「で、婚約破棄に必要な宝石を地球に送るには、リユースコマンドが必要で、それを鎌足利聞(かまたりりぶん)に使って貰うには1000万が必要なんだ」


 説明しながら頭が痛くなる。

 つい先日まで普通に生活していた男子生徒が話す内容ではないだろこれ。

 俺の説明を聞いて暫く黙っていたレニャだったが、


「なんじゃ。それならすぐ解決できるゾ」


 ポンと手を叩いて笑みを浮かべた。

 おお。まさか1000万持ってるとか? さすがレアハンター(何をする職業か良く分かってないが)だぜ。借りれば一時的に借りれば命の保証はでき――


「金はない」


 なかった。あっさりなかった。「そもそも嫁にたかるのはどうかと思うけど……」と俺を半目で見ている。


「なに、解決法は簡単じゃ。そこの女にに死んでもらえばいいだけじゃ」

「え?」


 レニャは赤い目を細めてキイへと向けた。


「婚約破棄になって万事解決じゃろ」


 その言葉が口から出たのと、白い腕が――弓から放たれた矢のように――キイの心臓へ向かったのはどちらが早かったか。

 しかしその腕は胸に達する前に、俺が掴み止めていた。


「……⁉」


 レニャは驚いた顔で俺を見た。正直自分でも驚くほどの反応速度だった。


「旦那様……何で? この女は別に好きじゃないんじゃろ? だったら」

「レニャ。俺は誰であろうと他人を傷つけて解決を図ろうとする奴に好意は持てない」


 俺の静かな怒りを敏感に感じ取ったか、彼女は背中を丸めて小さくなった。


「あ、う……ご、ごめんなしあ……もうしません」


 彼女は謝って手を引こうとしたが、掴まれたままだったのでそれは叶わなかった。

 気が付いた俺は慌てて手を離す。思った以上に強く握ってしまっていたようだった。

 昔の件が脳裏に浮かび、少し気が立ってしまっていた自分を恥じる。


「悪い」

「い、いや旦那様は悪うない……。し、しかし鎌足利聞が絡むとなると、面倒な話じゃの」

「あれを知ってるのか?」


 レニャから出た意外な言葉に驚く。


「鎌足利聞は伝説的な盗賊レジェンダリーハンターじゃ。遺跡発掘から誘拐まで何でもござれ。カノハールト事件、レナド家秘宝事件にジャンカ遺跡事件、銀河連邦銀行隔離事件と……他に関わったとされる事件を挙げれば両手じゃ足らん。この家業をやっててその名を知らない奴はモグリじゃな」


 そんな危ない人間、いや宇宙人だったのか。


「証拠は絶対に残さない。捕まえることはできない。確証はないがおおよそ黒。それが鎌足利聞じゃ。奴が噛んでいるとなると……強硬手段での解決は無理そうじゃの」


 指を顎に付け思案気な表情になる。だがすぐにいい案は思いつかないようで、形の良い眉がどんどん寄っていく。

 一応、コイツもこれで真剣に考えていてくれるのだろう。結婚とか言い出した問題児ではあるが、寝は素直でいい奴のようだった。

 うーんと唸る彼女の頭に手を置く。


「ま、そういうわけで。1000万が必要な訳だ。良かったらお前も協力してくれ」

「勿論じゃ!」


 ぱあっと険しい顔は一転、向日葵の如く眩しい笑顔となった。

 正直なところまた面倒な女難を引きこんでしまった気がしない訳でもなかったが、放置して問題を起こされるくらいなら手元に置いて監視しておいた方がいいだろう。

 奇妙なほど不満な視線を向けてきたキイを不思議に思いつつ、足は商店街へと向かいつつあった。





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