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悩みは湯船で語らい、盗賊は押し寄せる (3)

 昨夜作った残り物で簡単な夕食を済ませた後、母屋へいき予備の布団を持って来る。

 ベッドから布団を剥がし床へ敷く。持ってきた布団を代わりに敷いたベッドを顎で指す。

 先週干したばかりなので埃っぽさはないはずだ。


「ベッドで寝ていいの?」

「ああ。大変遺憾だがな」

「千秋は?」

「俺はここ」


 男っぽさが染みついた布団を指さした。


「ふぅん……一応女の子には優しいんだ」

「何か言ったか?」

「別にー。あ、へへー」

「なんだ?」

「千秋ってばさ、お風呂で変な事しなかったでしょうね?」


 彼女はどこか含んだ笑みを浮かべた。


「変な事って何だよ?」

「だってあたしみたいな可愛い子が入った後のお風呂だよー? 千秋みたいな童貞は、残り湯を浴びながらはぁはぁ言ってたりしたかもって思ったんだけどー」

「あほか。このクソビッチ」


 と一蹴したものの、女の子の後というのは不本意ながらちょっとドキドキしたのは事実である。

 濡れた髪はまだ乾いていない。


「へっへー。別にいいけどさー。あ、でも迸る熱いパトスに任せて襲ったりしないでね?」

「何度でも言うが、俺はクソビッチに興味はない」

「もう! ていうか! ビッチじゃないしギャル系だし!」

「どっちも同系列だ。ポケモン緑か赤の違い位しかないだろ。それより明日は学校が終わったら出かけるぞ」

「え、どこどこ。何処にいくの?」


 キイは布団にくるまると、顔を輝かせ身を乗り出した。


「今日行った古物商だ」

「えー。同じところ?」

「観光じゃねっつの。まあ蛇の道は蛇ってヤツでさ。商売柄色々な人に会っているから顔が効くんだよ、あの店長は。何かいい情報を持ってるかもしれない」


 ふと、蛇の道は蛇という言葉に、思った事があった。


「そういえばお前、どうやってウチに入学したんだ?」


 転校生としてやってきた訳だが、色々な手続きが必要なはずだ。宇宙人のコイツは一体どうやってうちに来れたのだろう。


「あ、それはね。何でも屋にお金を渡したらやってくれるの」

「何でも屋?」

「正式名称は『宇宙雑務代行屋』って言ってね、現地の手続きとかをやってくれるの」

「便利屋みたいなもんか。何でもしてくれるのか?」

「うん。地球は惑星開発値30だから、科学技術の関与は完全NGだけどね。あ、あと住民に対する直接関与もダメ」


 彼女は頬杖をつきながら答えた。

 要するに辺境の惑星の住民には手を出すなという事か。


「それに簡易的な警察免許も持ってて、犯罪に対する抑止力にもなってる」

「犯罪?」

「密航者とか強盗ね。阿賀咲市は出会いのメッカだから特に不法入国者が多いし、それらを狙って盗賊に来る宇宙人もいるわ」


 おいおい。俺の出身地はそんな不審宇宙人でいっぱいだったのか。恐るべし阿賀咲市。どうりで未確認飛行物体の報告やら伝承が残っている訳だ。


「とりあえず俺の家に金目の物なんてないし、心配はしなくてもいいか」

「お金は無くても可愛い女の子はいるけど?」

「じゃ、電気消すぞ」

「えーもう寝るの⁉ もうちょっと色々話そうよー!」


 俺は非難の声を聞き流し電気を消す。

 布団に寝転がると、いつもは感じない冷たさが、せんべい布団を通じて背中にひやりと伝わってくる。

 暫く文句を言っていた彼女だったが、程なくするとベッドから小さな息遣いが聞こえてきた。なんだかんだで疲れていたのだろう。

 寝返りを打つ。

 普段一人で寝るのとは少し異なった環境に戸惑いつつも、無理やり目を閉じた。



    ********



 背中の冷たさが消えてからどれくらい経っただろうか。

 何度目かの寝返りをした後、目を開けた。時計の針は午前1時25分を指している。寝付けないまま数時間経過していたようだ。

 寝返りをうつ振りをしてベッドの方を向く。整った呼吸音が定期的に聞こえてくる。

 まったく、よくも無防備に寝られるものだ。


 ふと、自分の喉が随分と渇いている事に気が付く。静かに起き上がるとそっとベッドの横を通る。流し台にあるコップを手に取り、ゆっくりと蛇口を捻った。

 水を含みつつ、ベッドに目をやる。


「こいつも黙ってりゃ可愛いんだけどな」


 丸まる様な体勢で寝ているキイは静かに寝息を立てている。

 彼氏を見つけに来たのは母親の強い押しによるものだと言っていた。本人は早期婚約に乗り気ではないようだが、いい男が見つかればコロッと変わるかもしれない。

 さてさてこいつは一体どんな彼氏を見つけるんだろうか。


 少しだけ気になったが、出会ってからまだ二日足らず。知っているのは表面だけで、付き合いの深さは大学生の「とりあえず今度飲みに行こうぜ」位に等しい俺に判る筈もない。


 そんな事を考えながらコップに入った水を一口飲んだ時だった。

 台所のすぐ隣、玄関の扉からカチャリと小さながした。


 ギョとする。鍵が開けられた音だ。

 ドアが静かに開く。

 そこから『人型をした透明な何か』が入り込んできた。

 子供よりも少し大きい程のソレは、音も立てずベッドの方へ進んでいく。

 俺はあまりの事に声も出せず、指すら動かせなかった。


 だがベッドの上にいるキイに手を伸ばした時、


「そいつに手を出すな!」


 一瞬にして硬直は解け、反射的に手にしていたコップを投げつけた。

 パシャッと音を立て冷たい水が降りかかると、


「……⁉」


 ソレは息を飲んだかのような声と共にこちらを見た。


「……ちょ、何か……冷たいんだけど……って何そいつ⁉」


 とばっちりで水を掛けられたキイは眠気眼であったが、自分の横に立つソレに気が付いてギョッとする。

 ターゲットに気が付かれて驚いたか、半透明の身体を軽快に動かしするりと玄関から逃げ去る。


「待て!」


 俺は静止の声を投げつつ、影を追い玄関を飛び出した。




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