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第三話

『ふふふ。今日の俺は一味違うぜ! ちゃんと攻略wikiでスライムの倒し方を予習してきたからな!!』


 意識が浮上する。ああ、またこの夢か。それにしてもこの夢長すぎじゃないか? 今日も俺普通に仕事なんだよね。寝坊してなきゃいいんだが……


 ドラテのグラフィックはデモ画面以外は特に見るべきところのないグラだった。同時期に出たゲームと比べても汚かったくらいだ。だが、この夢の中ではどうだ。草の質感や抜ける様な青空。風が髪を揺らし、都会では味わうことのできない、草木の匂いが鼻孔いっぱいに広がっている。それはまるで現実かのように俺に訴えかけてくる。これが夢だとはとうてい思えない。俺の体が自由に動かないことを除けばな。いつものごとく体は勝手に動き、フィールドを歩き始める。


『さっさと出てこいスライムの野郎』


 心配するな。エンカウント率高いから。これから何度も戦うさ。ほら戦闘だ。


『昨日の俺とは違うんだぜ』


 昨日……俺完全に寝坊してるんじゃ……。いや、夢の中の登場人物の発言を信じるのもおかしいな。現実とは違うんだから。お、本当に予習してきたようだ。魔法が選ばれる。



 ハナセレブの攻撃!


 ハナセレブはサンダーボルトを唱えた!


「我が怒りは雷なり……雷よ……全てを撃ち抜けっ! サンダーボルト!!」


 30!!


 ハナセレブはスライムAに30のダメージを与えた!



 うわっ。恥ずかしい恥ずかしい。なんか呪文唱えてキメポーズまで取っちゃった。こんなところ知り合いに見られたら、その日はベッドで布団抱えて身悶えしちゃう。今も体が自由になるなら、家にダッシュで帰って布団抱え込んで足ばたばたですよ。


『うぉお。魔法かっけえ……。俺も魔法使えねえかなあ』


 いや、かっこいい。詠唱したら自分の手から魔法がでるんだぜ? かっこいいに決まってる。恥ずかしかったけど、確かに気持ちがよかった。


『我が怒りは雷なり……雷よ……全てを撃ち抜けっ! サンダーボルト!!』


 やだ! この子、真似しちゃったよ。うわあ……一人で部屋にいるから、誰にも見られないと思ったんだろうけど俺が見ているぞ! はっず! こいつはっず!


『…………』


 ああ、完全にベッド行きですわ。詠唱してキメポーズまで取ったあげく、何も出ないっていう。今完全にベッドに倒れ込んで足ばたばたですわ。



 スライムAはハナセレブにまとわり付いた!


 18!!


 ハナセレブは18のダメージを受けた!


 スライムAはハナセレブにまとわり付いている!!


 5!!


 ハナセレブは5のダメージを受けた!



 おい! はやく戻って来い。俺の体にスライムが付いてるんだよ。お前が戻ってこないと俺ずっとこの気持ち悪い状況なんだ。ドラテはターン制だからこのままでも、俺が死んでしまうわけじゃないが気持ち悪いんだよ。ぬるぬるした生暖かいものが全身にへばり付いているんだ。はやく立ち直ってくれ。


『……さて、やるか』


 何事もなかったかのように始めやがった! だが俺は忘れないぞ。お前が呪文を唱えたことはな!!



 ハナセレブの攻撃!


 ハナセレブはサンダーボルトを唱えた!


「サンダーボルト!!」


 32!!


 ハナセレブはスライムAに32のダメージを与えた!


 スライムAを倒した


 4の経験値を獲得した



『よしっ! はい雑魚ー。スライム雑魚ー』


 いや、まあ一番最初に戦うモンスターだからな。雑魚で当然なんだよ。お前は昨日負けたけどな! 昨日負けてたけどな!! しかし、ドラテの鬼畜難易度は、まだまだこんなもんじゃないんだぜ……。




 その後、俺は快進撃を続け、スライムを倒しては家に帰りHPとMPを回復するという行為を繰り返した。レベルもいくつか上がっていた。どうやらこのプレイヤーは慎重な性格のようだ。だがこの慎重さが仇となるのがドラテの恐ろしいところなのだ。


『よーし。レベルも5まで上げたし、そろそろ次の街へ行くか』


 そうハナセレブのレベルが5になってしまっていたのだ。このレベルにもなるとスライムなどサンダーボルト一発で倒せるようになっている。さくさくと次の街への道を進んでいく。



 巫女がいるという街へ入ると辺りには霧がかかり、不穏な空気をかもし出している。


『うわっなんだこれ。やばそうだな』


 そうやばいのだ。レベル4までなら街は平和で、巫女は話しかけるだけで仲間になる。レベル5以上になると、街にはこのように霧がかかり街中でモンスターが出現するようになる。なぜそんな仕様なのか? 『ドラグーンテイル。なぜその伝説のクソゲーは生まれたのか?』からこの部分について引用してみよう。



記者「レベルを上げると展開が変わる場面が多々見られますよね。巫女と会う前にレベルを5以上にしてしまうと難易度が跳ね上がったり……。どういう意図があって、ああいった仕様にされたのでしょうか?」


プロデューサー「あーあれね。だって時間をかけてレベルあげたわけでしょ? 相手の魔王軍だってその間じっと待ってるわけないでしょう。自分を倒しに来るのに必要な巫女とかアイテムを放置して、魔王城に引き篭もってるなんてありえない。……というようなことを今までは言ってました。でも実際は違うんですよ。今だから言うけど、ただレベリングすれば簡単に進めるってのが気に食わなかっただけ(笑)」



(笑)じゃねーよ! こっちはお前の難易度設定にびくつきながらレベル上げて進めてんだよ!! そんな要素なくても難易度高いのに、レベリングすればするだけ難易度高くなるってなんなんだよ!!


 まあ、そんなわけで今街は大変なことになっているのだ。


『街で敵がでてくるとかだるいなあ』


 俺は街中のモンスター達を次々と倒していく。


『なんだ弱いじゃん。さて巫女はどこかな』


 街中に出るのはフィールドのモンスターと変わらないからこのレベルまで上がるとあっさりと倒すことが出来る。


 街の中を回り次々と棚や壷を漁っていく。そういえばドラテ以外でも、部屋の中に壷が置いてあるゲームとかあるよな。花が活けられているわけでもない壷。あれがなんなのか考えたことあるか? そういう壷が置かれている家にトイレってないよな……。いや、このあたりで想像するのは止めよう。なぜなら、今俺はその壷に手を突っ込んで漁っている最中なんだから……。


 家々を回り尽くし、あとは街で一番大きな屋敷を残すのみとなった。


『やっぱりなんかあるならあそこだよな』


 そう、もちろんそこに巫女はいる。俺はもうどうなるか結末はわかっている。だがプレイヤーは知らない。だからこんな意気揚々と建物に入り、中を進んでいけるのだろう。屋敷内の怪しげな大きな両開きの扉を避けるように部屋を漁っていく。確かにそこに巫女がいる。そこに入ればイベントが進んでしまう。この屋敷でのプレイヤーの選択は正しいといえる。全ての部屋を回りつくし、大きな両開きの部屋の前に立った。


『よし行くか』


 扉がゆっくりと開かれていく。部屋の中には手に巨大な斧を持ち、牛の顔をした巨大な二足歩行の生き物が待っていた。ミノタウロスというやつだ。普通のミノタウロスとは違い尻尾が何本にもわかれ、触手のようになっている。その触手の先には女が捕まっている。この女が巫女だ。巫女の口の中にはミノタウロスの触手が突っ込まれ、別の触手は胸をいじっている。なにこれエロい。ゲームでこんな描写あったか?


「ガッ!」


 ミノタウロスが声を上げた。巫女が口の中に突っ込まれていたミノタウロスの触手を噛み千切ったようだ。


「ちょっとなんなの。気持ち悪い……大体この化け物なんっ」


「カカカッ。遅かったな。俺の名はミタロ! お前を殺す者の名だ。覚えておけ! 巫女は連れ帰り、魔王様に献上させていただく。巫女を持ち帰り、勇者を殺したとなれば俺の出世は間違いない。カカカカカッ」


 ミノタウロスは巫女の口に再び触手を突っ込むと、何事もなかったかのように喋り始めた。巫女あんなキャラだったかな。もっと落ち着いた性格でか弱い感じだった気がしていた。ずいぶん昔にやったゲームだし、記憶が曖昧になっているのかもしれない。それにしても名前の適当感が半端ない。ミノタウロスでミタロ。ハナセレブくらい適当だ。


 ちなみに主人公のレベルが10以上になっていると、ミノタウロスと戦うという展開はなくなる。巫女は街から連れ去られてしまい、最後まで仲間にはいらない展開になるらしい。


 ミノタウロスが巫女の体を弄りながら近づいてくる。


「勇者よ死ねっ」


 おどろおどろしい通常戦闘とは違った音楽が流れる。



 ミタロはハナセレブに斧を振り下ろした!


 498!!


 ハナセレブは498のダメージを受けた!


 ハナセレブは死んでしまった

 


 498! 今ハナセレブのHPは64である。どうあがいても一撃で死ぬ。


『なんだこれ。絶対負けるようになっているイベント戦闘か?』


 もちろん違う。勝てるようにはできている。ただ難易度はとんでもなく高い。


 画面に流れるGAME OVERの文字。


『くそなんだよ。もっとレベルあげろってことかよ……飽きた……』


 ああ、また電源が切られる……


 はたしてハナセレブはミノタウロスを倒し、巫女を助け出すことができるのか!? そもそもこの夢の続きをまたみることができるのか!? というか本当、俺はそろそろ起きて仕事の準備をしたいんだが……

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