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第二話

 気が付くとそこは見慣れた俺の部屋……じゃねぇわ。馴染みのない棚の前だったわ。なんで……。さっきまで見ていた夢を思い出した。どうやらまだドラテの主人公になった夢を見ているようだ。


『さて、やるかな』


 俺の足は勝手に家の外へ向かう。あー自分じゃ動けないんだったな。このプレイヤーが動かしたであろう動きしか俺にはできない。だから俺が今、NPCのスカートの中を覗いているのは俺の意思ではない。しかたなく覗いているのだ。無駄だよプレイヤー。そんなところまでドラテの視点は下がらないんだよ。まぁ俺にはばっちり見えていたが。五十手前のふくよかな婆のパンツがな!! なんでよりにもよって婆が際どいパンツ履いてるんだよ。現実なら吐いてるよ。


『やっぱり見えないかー。どうにかして見えないかな。大体こういうのは壁際を使えばいけたりするんだよな』


 お前そんなにこの婆のパンツが見たいのかよ。おい、やめろやめてくれ。俺の体が婆の体に密着しぐいぐいと押し付けられる。どうやら婆を壁に押し付けたいらしい。無駄に豊満な体が俺に押し付けられている。俺の体は婆を押して細い路地に進んでいく。これは現実なら完全に変質者じゃないか。間違いなく警察を呼ばれているところだ。吐くのをなんとか我慢する。相当嫌な表情をしていることだろう。


『おっ、ハナセレブすげぇ嫌そうにしてんじゃん』


 なんだと!? どうやら俺の表情はプレイヤーに見えているらしい。


「おい、俺の表情が見えるんだな。婆はやめろ。できることならもっと若い綺麗な娘で……。いや、そんなことはどうでもいいんだ。いい加減、城にいけよ」


 あまりにもこいつが物語りを進めないから、夢だと言うのに本気で叫んでしまった。


『口をパクパクさせてなんだこいつ。キモッ』


 どうやら顔の動きは伝わっているらしいが、声は届かないようだ。なんとかしようと頑張っていると指先が動くことに気がついた。表情以外にも動かせる部分があったのか。……なんでだ。大きく体は動かせないのに、顔と指先は動く……。何か共通点があるのか? ふむ……プレイヤーの操作で自由になる部分以外は俺の自由にできるのか? まぁいいか。指先が動くことがわかれば、指でプレイヤーを誘導することができるはずだ。


『ん? なんだこいつ。変な方向指してんな。いってみるか』


 俺の体が走り始めた。走っている間は指を動かすことすらできなくなった。表情は動かせるようだ。これで、なんとか無事に城へと誘導することができたか。


『おっ若い娘発見ー。こいつで試してみよう』


 そしてまた俺の体は女性に押し付けられる。おい! なんでまたふくよかなんだよ! お前はデブ専なのか? そうなのか? さっき走っている時にすれ違った綺麗な娘にしてくれよ! 俺はもっとこう胸が出て腰がくびれて尻も出てみたいなのがいいんだよ!! なんでお前はドーン! ドーン! ドーン! って感じのばっかり選ぶんだよ。いや違うそんなことはどうでもいいんだ。さっさと城にいけよ。


『ハナセレブまた嫌そうな顔してんじゃん。なんだよ細い娘がタイプかこいつ』


 そうだよ。出るところは出ている感じの細いのが……てだからそれはどうでもいいんだよ。まじでさっさと城に行ってくれ……。


 俺の疲れ果てた表情を見たせいだろうか、プレイヤーはやっと城へと向かってくれた。


『おーいいねぇ。お宝いっぱいありそうだ』


 また城の物ぱくる気かよ。いや俺もゲームならやるけどな。実際やらされるほうの身にもなってくれよ。NPCがじっと見てる中、箪笥とか漁るんだぜ? いい気分しないだろう? そのあたりをちゃんとわかってほしいんだが……。


 俺の体は城をずんずんと進んでいく。俺を待っているだろう王様の横を通り過ぎ、玉座の後ろにある階段を登る。王様の寝室?へと入っていく。プレイヤーはベッドまで調べ始めた。



 ベッドの下のアレを手に入れた



『なんだよこれ。装備できないし。使っても何も起こらないしゴミじゃねぇか』


 ふふふっ。お前には見えていないようだが、俺にはくっきり見えてるぜ。局部にモザイクが入ったエロ本がな! お前が使うを選択したことによってページが捲られていくんだぜ。おおおお。これはさっきの婆のグロを打ち消すには最高だぜ。


『もういいや。話進めるか』


 俺の体が階段を降りる。おい、もうちょっと。もうすこし見せてくれよ。頼むよ。俺の意思を無視して王様との話が進んでいく。それにしてもこの王様がベッドの下にエロ本を隠しているとはな。ふふふっ。


『ハナセレブきもっ。何にやついてんだ。王様と話すだけでにやついてやがる。女は嫌がるのに、こんな髭の王様がいいのかよ。そっち系か』


 違う! 断じて違う。


「つまり、お前は伝説の勇者として選ばれたのだ。頼むこの世界の為に魔王を倒してくれ」


「はっ。私の命に代えましても王様の願いを叶えてみます」


 イベントシーンだからか俺の口が勝手に喋り始める。


『やっぱりかー。ハナセレブやっぱりかー。自分の命より王様が大事と……。やっぱりそっち系かー』


 いやだからちげぇよ。俺の体が自由に動いたら一発殴ってるところだわ。


「では行け。勇者ハナセレブよ!」


 王様の長い話がやっと終わった。だが俺の体は動こうとしない。


『はーすっきりした。やっぱりでかいの出すと体が軽いな』


 プレイヤーが戻ってくる。お前また行ってたのかよ。イベント中に行く奴なんなの? QTEとかはいったらどうするの? いやこのゲームにはないけどさ。


『おっ、終わってた。やるか。でどこいきゃいいんだ? もう一回話しかけてみるか』


「北にある街に伝説の巫女がいるらしいぞ。まずはその巫女と会うのだ」


『北の巫女ね』


 街を出る。ドラテのフィールドではランダムエンカウントが採用されている。このエンカウント率の高さもドラテの難易度を上げている要因のひとつだった。ほら。街から一歩出ただけで戦闘だ。


 軽快な音楽と共にグロテスクなグラフィックの敵が現れる。序盤の定番であるスライムだ。


『スライムか。余裕余裕』


 攻撃が選択される。俺の体は剣を抜くとスライムに斬りかかった。



 ハナセレブの攻撃!


 0!!


 ハナセレブはスライムAに0のダメージを与えた!



 そうスライムだ。粘性で物理耐性が高く、物理攻撃でダメージを与えるためには属性の付いた武器かクリティカルでしか無理なのだ。序盤に出していい敵じゃない。



 スライムAはハナセレブにまとわり付いた!


 16!!


 ハナセレブは16のダメージを受けた!


 スライムAはハナセレブにまとわり付いている!!


 5!!


 ハナセレブは5のダメージを受けた!


 そのうえスライムは纏わり付き、ターン毎に継続ダメージを与えてくる。厄介な相手だ。もう一度言う。序盤に出していい敵じゃない。


『なんだよこいつ!』



 ハナセレブの攻撃!


 0!!


 ハナセレブはスライムAに0のダメージを与えた!



 だから物理攻撃じゃダメなんだって! 魔法からサンダーボルトを選ぶんだ。まあ、もう遅いんだが。



 スライムAはハナセレブにまとわり付いた!


 18!!


 ハナセレブは18のダメージを受けた!


 スライムAはハナセレブにまとわり付いている!!


 5!!


 ハナセレブは5のダメージを受けた!


 ハナセレブは死んでしまった



『なんだよこのクソゲー』


 うん。知ってる……。そうクソゲーなんだよ……。お馴染みのあの記事『ドラグーンテイル。なぜその伝説のクソゲーは生まれたのか?』からスライムに関する部分を抜き出してみよう。



記者「序盤から鬼畜難易度が続きますよね。初めて戦うのもスライムという物理攻撃が効かないモンスターですし……」


プロデューサー「あーあれね。だってスライムって実際にいたらあんな感じじゃないですか? リアルさを追求してみました(笑)」



 (笑)じゃねーよ! 懐古王道ファンタジー的なドラテにリアルさ求めてねーよ! リアルなスライムだすにしても序盤にだしてんじゃねーよ!!


 まあこんな感じだ。


 あっ電源が切られる……

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