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魔族の王  作者: 納屋納屋
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獄からの脱出

 痛い、痛い、痛い痛い、痛い。


 全身に釘を刺されているかのような鋭い無慈悲な痛みが全身を襲っている。

 自分が何をした。自分はただ毎日を必死で生きていただけなのに何故自分は『罰』を受けなければならない。その疑問が激痛で千切れてしまいそうな思考を皮肉にも繋ぎ止めている。

早く、早く、早く。私の穢れを取り除いてくれ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。もう痛いのは嫌だ。もう充分後悔した。自己嫌悪した。何が足りない。もう嫌だ、痛だ。この獄から逃れるのなら何でもする、【許してくれ】

 いつものように誰かに許しを乞う。時間感覚は麻痺し自分が何者かさへ忘却の果てへ追いやられ名前は何なのか、自分は一体何者なのか忘れてしまった。

 だがこれだけは覚えている。自分は何か罪を【犯した】それだけは覚えている。とても曖昧にだが覚えている。だが何故これほどの痛みが自分の体を蝕む。精神を蝕む。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 急にだ。唐突にだが自分の目の前に一本の金色の色をした糸が下がってきた。その糸からは暖かみを感じられた。

 私はその金色の糸を必死で掴んだ。そして自分は辛うじて繋ぎ止めていた意識を手放した。


そこの名は『無限地獄』罪人の中でも赦されない者達がその罪を無限の苦しみをもって償うどんな地獄よりも辛く絶望に満ち満ちた『獄』 そんな獄にも救いの『糸』はある。救いの『糸』の先は【転生】罪人は魂の根本から穢れており、その穢れを浄化するために【転生】をする、それもその穢れが無くなるまで永久に。

 そしてこれから始まるは【穢れ】を【浄化】するための物語。


 真っ白な空間だった。まるで絵の具で色を塗る前の真っ白なキャンパスのように。

 そんな空間に私はいた。末期の拒食症患者のように肉はついておらず必要最低限の肉。肋骨は見えほぼ骨のような体。手を見ても痩せ細ろえた『手』。自分と証明できる物はこの痩せた惨めな体だけ。これだけが残ったあの気が狂い、死んだ方がマシだったあの獄を味わい残ったの物がこれだけ、たったこれだけ。

 私は笑った。笑う事しか出来なかった。あれほどの苦しみを味わって残ったのがこれだけ、笑う事以外出来なかった。涙は枯れ、罵詈雑言を言えなくなる程に弱った。

【惨めだ】

  惨めすぎる。私はせめて叫ぶ事で絶望を和らげようとすると突如現れた者に遮られた。


「叫ぶのはストップしちゃて~~」


 余りにも抑揚の無い、気が抜けそうな男の声。そんな声が自分の後ろから聞こえてくる。私は後ろを振り向くとあぁ、そういう事かと心で理解する。

 私の後ろにいた人物は笑っていた。まるで趣味を快楽を貪っている子供のように、罪人のように。体は灰色で目や耳など人間を構成する部位が無い。そして体の色は透明。体の輪郭は周りの空間を歪めており口だけが宙に浮かんでいるかのように見える。


「初めましてかな? いや初めましてはお前か。俺からすれば久し振りと言った方が正確かまぁ『心理』とも呼んでくれ」


 私は会った事の無い奇妙な彼(?)には会った事が無い。その趣旨の事を言おうと口を開きかけるとまた遮られた。


「『自分は会った事が無い、勘違いじゃ無いのか?』そう言いたいんだろ。大丈夫。勘違いじゃねぇよ。ただお前が忘れちまってるだけだよ気にするな。人間とは忘れて生きているような不完全な生物なんだからよ」


 私はつくづく不快な気分になる。それを知ってか『心理』は益々口角を吊り上げる。そして口を開ける。


「お前は死んだ。それもタブーと言ってもいいような事をしてな。だからお前は無限地獄という獄に堕ち苦しんだ。お前はそして権利を得た。【転生】という穢れを浄化する事をな、その権利である『糸』を掴んだろ?」

 糸を掴んだ。まだ私が『獄』で苦しんでいた時に転がってきた奇跡とも言えるチャンス。そのチャンスに必死で掴んだあの金糸か。


「その通り。アンタは権利を得た。何億という罪人共の中から運良く選ばれたんだよ。よかったね~、これでお前は無限地獄から脱出できるじゃねぇか。苦しみから、痛みからよ」

 

 そうか、私は許されたのか。穢れという『罪』から。もう苦しまなくていい。怯えなくていい。


「いや、そういう訳じゃねぇよ。ただ許されただけであって『赦されて』ねぇだろ。お前は魂が穢れているから『獄』に落とされた。ただ許されたのは第一段階であって本当の『赦し』はまだなんだよ。それにお前はただランダムに選ばれたんだよ。お前以外にも権利を持っている奴はいるんだぜ」


 突如として足元が崩れ無数の『手』が足を掴んでくる。私はその無数の『手』を見た瞬間体中に悪寒が雷のように駆け抜ける。無数の『手』の正体は『罪人』だった。無限地獄に落とされた者が救われたいがために縋りついてきた。私は悲鳴をあげようとするがそれさえも遮られる。


「はいはい。落ち着く、落ち着く。大丈夫また無限地獄に堕としたりはしないよ。さぁここからが本題だ」


 足元が時間が巻き戻るかのように治っていき『手』も無くなる。


「ほらこっち見て」

 足元を見ていた私に心理は前を向けと言うので向くとさっきまで無かった鋼鉄の扉に何か暗号のような文字が描かれた扉が最初からあったかのように堂々とあった。


「これからお前はこの扉をくぐり抜けて第二の人生を始めるといった所だな。いいか?」


 きっと拒否権はない。いやあるとしても拒否した先にあるのはまた地獄だろう。だからこそ受け入れるしかない。受け入れるしかできない。


「ほぉ~。受け入れるか。よしよしそれじゃあ扉をくぐっちまえ」


 足を動かし扉に歩いていく。歩いていくと扉は開き扉の中が見えてくる。そこに広がっていたのは『闇』どこまでも暗く全てを呑み込んでしまいそうな闇、その闇に今自ら進んでいこうとしている。普通の神経と普通の価値観をしている者なら足を止めているだろう。だが私には『普通』ではなかった。普通という価値観はいつの時か捨て去った。


 そして私は闇の中へと歩んでいった。

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