ものがたりたがりはなんとなく-1
「なんとなくだけど、多分君の言う事は正しくて私の言う事は間違っているの。でも私、それを正していくつもりは無いわ。だってそれが私なの。君が言うように私を矯正していくとなんとなく今の私が殺されていってしまうでしょ? 君はそれでいいかも知れないけれど私は困るのよ。どうしてってなんとなくに決まっているでしょう? 今の私が君に殺されるのはなんとなく嫌なの。だから君に聞くわ? 君は唐突に『君はなんとなく間違っている。私のようにこうこうしなさい』って言われて素直に君を殺すの? 殺せるの? そんなデタラメ、あり得ないでしょう? 君は表面では殺したつもりでも心の中ではそうは思ってないはずよ? だって自分を殺す事って妥協でしょう? 相手がそう言うからなんとなく従って、なんとなくのぬるま湯みたいな雰囲気を守って。結局なんとなく生きてるだけじゃない。私? 私は殺してない、自分を貫いているわよなんとなく。だって結局全てはなんとなくじゃない? あなたは人生の選択全てを論理的に選ぶの? ねえ、どうなの? 人生は全て数学なの? 違うわよね、それだけじゃ計りきれないノイズを私達は持ってるわよね。だからなんとなく人間らしさとか言われるんじゃないの? 君はノイズが無い人間が完璧な人間だとでも思っているの? 嫌よそんな人。なんとなくつまらないじゃない。そんなのは機械だけで充分だわ。つまり君の理想は機械なのね。命令だけ着実に聴いて自分の意志も持たずになんとなくそこにある道具のような存在が君の理想? なんとなく面白いわね。褒めてはいないわよ? それで話を戻すけれど、私は私が間違っている事を認めているわ? それで満足? 何? タチが悪い? よく言えるわね。君が私に自分の価値観を押し付けるから、なんとなく私もそうしただけなのに……何よその顔は。指摘なんて価値観の押し付けで合ってるじゃない。例えそれが私の為を思ってだとしても君は私に価値観を押し付けたの。今の私がなんとなくそうするように。君は押し付けられた価値観をいっつも自分のものにする癖に、私が押し付けた価値観は自分のものにしようとしないのね? 君はなんとなく完璧じゃないのよ。それがノイズよ。君はなんとなく私の価値観を意味のわからないもの、無駄なものと判断して処理している。その時点でノイズだわ。コンピューターなら、今ごろなんとなくについて考え過ぎて熱暴走でも起こしているわよなんとなく」