ものがたり
あなたは、右手に絵筆を握りしめてあの白い絵本の側に立っていた。今度こそ何も書かれていなくて、あなたが指を入れれば波紋がたった。
あなたは、しばらく息を整え絵筆を見つめていた。きっと、女の子の事も考えていたのだろう、あなたは絵本にあの女の子を描き出した。あなたが描こうとすると絵筆が勝手に動き、透き通る線を引いてあなたそっくりの女の子が本の中に現れた。
ページをめくってあなたは最初にフィリアを描いた。女の子が寂しくないように。
でも、あなたは二人を結びつけるものが何もない事を悟った。絵は独立しているだけで繋がりを持たない。
だから、あなたは文字を綴った。二人がお互いに関係し合えるように。いつまでも仲良くいられるように。
そして、あなたは本の中に絵筆を入れた。本はみるみる色付き、様々な風景やそこに生きる人々が加わっていく。
本の表紙は、うっすらとした青だった。空みたいな青。自由? だけどちょっとさみしがりの色。
あなたは、廊下を去っていく。『お い で』の文字は全て消えていた。
代わりに出口のところに、文字があった。
『ば い ば い』
あなたは、少しだけ微笑んで出口を潜った。
その後ろで絵本が音もなく閉じた。