ものがたりからの脱出
あなたは、あの白い絵本の前に息を切らして座りこんでいた。両手には白い女の子が使っていた絵筆が一本ずつ握られている。
あなたは、わけがわからずにここへと辿り着いたようだった。絵筆が迫った事、それから何があったのか思い出そうとしているのか首を傾けている。
あなたは絵本を覗いてみる。
そこには白い女の子が泣いて座りこんでいる絵があった。あなたはそっと本を閉じる。ものがたりはこれで終わりとでもしたいように。
本を閉じると、ちょうど女の子が泣いていたページあたりから赤い液体がこぼれてきた。あなたはまた本を開いてあのページを確認すると、そこにはぐちゃぐちゃになって、赤く染まった白い女の子がいた。赤い液体は溢れだし、廊下に広がっていく。
あなたは、また駆け出した。廊下を絵本から逃げるように。あの廊下の『お い で』の文字は血文字のような書いて真新しい字で『か え し て』に変わっていた。
みるみる、赤があなたを追い越して見えていた出口を塞いでしまう。あなたの目の前に、赤くなった白い女の子が現れたのも同時だった。
「ねえ、筆を返して」
女の子はあなたの腕を掴み絵筆を奪おうとする。あなたの腕が女の子から出る赤に彩られていく。
「返してよ! それは私のものなの!」
あなたは、捕まれていない方の絵筆の先を女の子に向けて突き刺した。どぷっと、どろに手を突っ込んだような感覚がして白が筆から溢れる。
「嫌! やめて! 筆を抜いてよ! 私に返してよ!」
女の子は暴れた。その拍子にあなたの手が女の子に刺している方の筆から離れてしまう。でも筆は残り続け、女の子は抜こうとするがどんどん白に支配されていき……
女の子はやがて像となってしまった。
あなたは、残った筆で塞がれた出口を白に戻して外へと脱出した。