ものがたりの裏で-2
「これ、あげる」
白い女の子は口元を上げてあなたに透明な何かを手渡した。あなたはそれを受け取り、それが氷である事に気がついた。
「死んだ人は氷みたいに冷たいんだって。まあ、そんなのなんとなくの発想でしょうけど、死に冷たいってイメージを持たせるのには悪くないと思うわ。なんとなく、ね」
あなたは首をかしげて白い女の子を見るだけだった。
「じゃ、次行こっか」
また、あなたは白い世界の彼方へと連れていかれる。
今度は男の子が二人、目を閉じて立っている。片方は痩せ細り、体のあちこちに痛々しい傷跡がある。寝顔も先程の女の子のように悲痛そうな感情が伝わる。もう片方は、これといって特徴のない人で。でも、寝顔はすごく穏やかだった。
「この人、ささやまっていうんだって」
白い女の子は痩せ細った方の男の子を指差して素っ気なく言った。興味が無い事を示すように。
「私、この人なんとなく嫌い」
女の子はささやまという男の子の背中に移動して、絵筆をささやまの背中に立てた。
突然、ささやまの手首が落ちたが血は飛散しない。それとほぼ同時に女の子は絵筆に息を吹き込む。ささやまの体は風船みたいにみるみるふくれて、やがて乾いた音と共に破裂した。正確には、破裂と同時に消滅してしまった。ささやまを象る手首も、なにもかも消え去った。
すると、先程までうっすら笑みさえ浮かべていたもう片方の男の子の表情が曇った。しきりに歯ぎしりして、拳が握りしめられて。
けれど、こわばった体は結局緩んだ。「さあ、殺してくれ」と呟いたのがあなたにも聴こえた。
白い女の子は、その男の子の目を、白く塗りつぶした。そこだけ、世界と一つになったように背景と同化している。それから、男の子のちょうど心臓のあるあたりに絵筆を入れていった。ささやまでない男の子も、やがて風に吹かれる粉のように消えて無くなった。
あなたは、ずうっと何もしないで見ている。じっと。息をする事さえ忘れていそうなほど。
あなたが驚いているのか怯えているのか突然すぎる事態についていけていないだけなのか、それは白い女の子でさえわからない。
あなたは、表情を出さない。
何を聴いても、何を受け取っても、何を見ても。