ものがたりの裏で-1
あなたは、やはり雪景色のような白い空間にいた。歩くのに慣れない赤ん坊のようによたよたと歩き出して、濃淡の無い世界を見回す。
「はーいちゅーもーく」
あなたの前に、白い髪の毛を肩まで垂らした女の子がいた。あなたと顔はよく似ていて、着ていたワンピースも色が白い事しか変わらない。肌が病的に白い事も。
あなたは足を止める。止めた、というよりは動けなくなったみたいに、自分の足を見下ろして立ち尽くしている。
女の子はあなたの事を観察する。息が触れあう程度の距離から、これまた濃淡の無い白の瞳でまじまじとあなたを見つめ、ところどころ触れてみながら。あなたは抵抗も、まばたきもしない。きっと、あなたの黒い瞳も女の子のように濃淡が無いのだろう。
「ふーん。じゃ、行こっか」
女の子はあなたの手を掴んで駆け出した。あなたは引っ張られるままに、足で地面を蹴る。
どれくらい走ったのだろうか。あなたの目の前にはまた、白い女の子とは別の女の子とあなた自身がいた。その女の子は白いワンピースを着ていて、でも生き生きとしたように肌色が息づく腕、白黒の濃淡を持つ瞳。紛れもない生命感がある。
その女の子は白いハケを手に、あなたの事を塗りつぶしている。必死の形相で、額に汗を浮かべて、あなたなんか見たくもないというように。
あなたはただ黒い目で傍観するだけ。
やっと、あなたは白に紛れて見えなくなり、安堵の表情を浮かべた女の子は眠りについたように見えた。
でも、しばらくすると寝顔が苦しみを訴えた。もがいて、手で何かを掴もうとして「嫌、嫌」とうなされている。
そこで白い女の子は動いた。どこからともなく、絵筆を出して空に何か描きはじめた。それから、その描いた何かを女の子の手に当てた。あなたは白い女の子のちょうど背中に立っていて、それが何なのかわからなかった。
すぐに白い女の子はあなたの前を避け、眠っている女の子を見ろとでも促すようだった。
女の子は目を見開いて、今度こそあなた自身を見ていた。そのまま、叫び声をあげて体にひびが入っていって……ついには石像みたいに砕けてしまった。女の子だった破片は、液体になって白い世界を僅かに赤く染めた。