ものがたりの果てに-2
フィリアは、ベッドの中で目を覚ました。カーテンはやっぱり、優しい光でフィリアを包む。言い様のない既視感を感じて慌てて外へと髪も留めずに駆け出していく。
街は相変わらず、いい意味でうるさい。フィリアは必死になって緑の帽子を被った少年を探した。しかしどこにもそんな少年の姿はない。まるで神隠しにでもされたように。
フィリアはたまらなくなって子供たちに尋ねた。
「ねえ、お友だちか誰かに緑の帽子を持っている子っている?」
子供はあくまで無邪気に答えた。
「いないよ? お姉ちゃん、どうしたの?」
フィリアは子供に軽く謝ってから他の子供にも聞いて回った。でも緑の帽子を持った子供はいないと皆口を揃えた。
子供は諦めてフィリアは市場へとやって来た。今度は青リンゴを売っている男を探す。早速周辺の店に聞き込みをするが誰も青いリンゴすら知らない。おまけにそんな事ばかり聞くからフィリアは邪魔者扱いされ、市場を出る事を余儀なくされた。
そんなところで、遠巻きに時計塔の鐘の声が聴こえた。フィリアの意識は、確かに怯えていた。
フィリアはまたベッドで目覚めた。変わらぬ調子で外へと出る。が街は昨日と全く違う顔を見せていた。
人がいない。声もない。
フィリアは恐る恐る歩いては周りを見渡して人がいないか探し回る。
市場にも出向くがやはり市場さえ無音に包まれていて、フィリアは叫び声をあげた。人を求めて、そこにあるはずのものが普通にある事を望んで。
フィリアの視界にも、変化が現れていた。時計塔の一部が白く霞んでいる。どこからどう見ても、その一部だけ世界に忘れられてしまったように見る事ができなくなっている。
自分の泣き声の中フィリアは時計塔の鐘を確かに聴いた。
フィリアはベッド……らしきものの上で目を開いた。視界が忘却に蝕まれたようで、あの白い霞が部屋全体に散らばっている。
重い足取りで外へと出てもやはり思い出せなくなったように景色は大半が見えなくて、フィリアはずっと泣き顔だった。
時計塔の鐘の音はそれでも響いた。
フィリアは白の中で、何も見ようとしていなかった。否、完全に白い世界で身動きも取れずにただ「助けて」と呟く事が彼女の精一杯の事だった。自分の体さえ思い出せないフィリアは、白い鳥を少し羨ましく思った。最初から白なら少しは楽なのにと。
どんどん苦しくなっていく、というか空間が狭くなっていくのに気づいてフィリアは赤ん坊みたいに大声をあげた。
周りの白がそれを吸収して、誰にもフィリアの声は聴こえなくなっていた。
時計塔の鐘は少女の声と共に消えた。