ミスから始まる物語
俺は『赤月 焼』殺し屋だ。
暗殺も出来るし格闘だって出来る。
自分で言うのも難だが一流の殺し屋だ。
そんな俺がこんな目に合うなんて・・・
~1日前~
ある日、家で依頼を待っていたら一人の男やってきた。そして俺に写真を見せた。
そこには、小太りの中年のおっさんが写されていた。
「この男を殺して欲しい。」
男は端的にそう述べた。
この男どっかで・・・あ!
「こいつは・・・大山銀行の社長か?」
大山銀行とはこの不況の中急成長してきた銀行だ。
「ああ、奴は不当な賄賂や横領をして自分の金を稼いでる、
おかげで俺の会社も潰れちまった・・・」
まあ不況の中いきなり急成長する会社なんてそんなもんか。
「成程。額はどのくらいだ?」
俺は依頼の理由と値段でやるかやらないか判断することにしている
「200万だそう。」
「200ね・・・」
200万・・・今回の移動費と今後の生活費を考えても余裕だな。
「分かった引き受けた。」
「ありがたい」
そういって男は静かに俺の事務所を出て行った。
~2時間前~
さてと・・・狙撃位置に着いたは良いが・・・
因みに俺は今、大山銀行本社の300メートル先の5階建ての廃ビルの中にいる。
毎日、大山社長はビルの前の蕎麦屋に行くらしい。
そこを狙って撃つことにしている。
目標は現在7階。
俺の位置から奴が通る道まで障害物なし。
殆ど完璧な状態だ、しかし
厄介なことが1つある。
SPが取り巻いてやがる。それもビルの中でも。
この調子だと蕎麦屋にいく道の途中でも守ってそうだな・・・
参ったな・・・
とりあえずやるか。
そうおもってSVD(ソ連の狙撃銃)を構えたところで社長がビルを出た。
・・・はい、完璧なガードですね。
でもまあ頭が開いてるから大丈夫だけど。
よし・・・
俺はターゲットの頭を狙って引き金を引いた。
『ダアン!』
鳴り響く銃声。
飛んでいく弾
そしてそのままターゲットの脳天へ・・・
行かなかった。
弾道の途中にいきなりツバメが割り込んで来てコースを変えやがったのだ。
そうここで弾が止まってくれれば良かったのだが。鳥ごときでは弾は止まらなかった。
そして一人のSPの脳天に打ち込んでしまったのだ。
その時後ろでガサッと言う音がした。
「誰だ!」
「チュー」
・・・ねずみか。
しかし、失敗しちまったか。
しゃあない多分こっちの方に警察もやってくるな・・・
仕方が無い一先ず退散しますか・・・
~10分前~
殺してしまった男の名前は『望月 弘』だと分かった。
何でわかったかって?依頼してくれた男がSPのデータをくれたからだ。
そこまで親切なら『SPがいつもまとわりついてる』ぐらい言って欲しかったけどな。
そんなこんな考えて大山銀行ビルの前を通りすぎようとした時、
「ねえ、おじさん」
おじさん?と思って振り向いたら女の子が俺に声をかけていた。
年は14ぐらいだろうか。
言っとくが俺は目立つ格好はしていない。
ゴルフケースを担いで帽子をかぶっていかにもゴルフに行く途中のような格好をしている。
まあ、ゴルフケースの中身はライフルなわけだが。
「何?」
何故声をかけられたかイマイチ分からない俺は普通に対応しとく。
そしたらその少女は小声で俺にこう言った。
「そのバッグの中身、ライフルでしょ?」
・・・え?
ばれてる?嘘だろ?
「ちょっとこっち来て!」
そう言われて俺は手を引っ張られてビルの裏までつれてこられた。
「ここだったら誰も来ないよね。」
「・・・とりあえずどういうことだ?」
「私ね、見ちゃったの。」
何を?と俺が聞く前に彼女は答えてくれた。
「おじさんが私のお父さん撃ってるとこ。」
「・・・成程」
あのガサッって音はやはり人だったのか。
畜生!ミスってしまった。
「で、恨みを晴らしに殺しに来たってとこか?」
「違うよ。」
じゃあ、何でここにつれてきたんだよ・・・
とりあえず嫌な予感がして仕方が無い。
まあ、黙って話を聞いてみるか
「私ね、母親が小さい頃に死んじゃってるからお父さんと二人暮らしだったの。」
・・・つまり俺が殺したから今一人って訳だ。
「で、今おじさんがお父さんを殺しちゃったから一人になっちゃった」
「つまり俺をどうするつもりなんだよ?」
「私の義父になって欲しいの」
・・・は!?
この娘はどうかしてんじゃねえのか?
だってそうでしょう俺が殺し屋って事は分かってるはずでしょう?
なのに親代わりを頼むっておかしくないか?
「・・・俺は殺し屋だぞ?」
「うん、でもお父さんを撃ったよね?」
「いや、だったら俺を殺すなり、怒鳴るなり、警察に連れて行くなり何でもすれば良いだろ?」
「だってお金も無いし・・・」
ここで俺は妙なことに気がついた。
こいつは親を殺されたことを何とも思ってないのか?
「お前は自分の親が殺されたのに怒りとかは無いのか?」
そしたら彼女はけろっと、こう答えた。
「だってお父さん酒癖悪くていっつも殴られたりしてたから。
むしろ殺してくれたのはありがたいんだけど・・・」
・・・なるほどね。
だったら感謝すれば良いじゃんか。
「ありがたいんなら良いだろ?俺はどーでも良いだろ?」
「さっきも言ったじゃん、お金が無いの」
お金が無いから義父になってくれってか・・・
「嫌といったら?」
「そこにいる警察にゴルフケースの中身を見せる」
はい、選択肢は一つね。
「はいはい・・・やるよ。」
「やった!」
「でも、俺の名前はばれないほうが良いんだが・・・」
こういったのは俺の仕事のためだ。
なんせ、子供を養ってると聞いて、子供誘拐して・・・なんて連中もいるし
「大丈夫!まだ引っ越してきて1ヶ月だから。」
・・・これは全部あのツバメのせいだ。
そういうことにしておこう・・・
その時ちょうど、近くの教会の鐘が鳴った。
俺にはまるで、牢獄の鍵が閉じられた音のように聞こえた。