再スタート
「うわぁ! ここが東京かぁ」
つい、前の感想と同じ思いが込み上げる。
「んで、俺が一緒に暮らす富樫 一朗(とがし いちろう)ッス。ケイトくんと同じ二十歳」
「あっ、どうも」
握手を求められたケイトは一朗の手を握る。
「ケイトくんって、大学生だっけ?」
「いえ。仕事がありまして」
「あっ、そうなの?まっ、フリーターの俺は何も言えないけどさ」
笑いながらケイトに話しかける一朗の姿は、どう考えても『チンピラ』と思ったが、ケイトはあえて口にしなかった。
ケイトは現在、東京に来ている。5年前に、親の都合に田舎に戻されたケイトを襲った感情はただ1つ『行きたい! 住みたい!』というものだった。その感情が高まったのを切っ掛けにし、桜散る4月の中旬に東京に戻ってきた。しかし、東京に来たからといっても、5年前とは違い、『学校』を目的としていないケイトには不安があった。
「富樫さん」
その不安を消すようにして、ケイトは一朗に話しかけた。
「ん? 何? つーか、富樫さんじゃなくていいよ。一朗でいい。敬語も禁止。で、何?」
「じゃぁ、一朗で。一朗って、何かアルバイト決めてるの?」
田舎にいたときの雰囲気のまま、ケイトは明るく振舞った。
「まぁ、コンビ二さ。ケイトは? 仕事っつったけど」
「……正直、仕事ないんだよね。田舎の母ちゃんは、昔のこと気にして反対しなかったけど」「へぇ。んじゃさ、俺のところで仕事決まるまで働けば? これから一緒に住むのに、無一文ってのは、俺もキツいからさ。まっ、俺はそれでも構わないけど」
(この人、チンピラみたいな格好だけど、面倒見いいなぁ)
ケイトは、早速一朗に心の中で謝った。そして、悩む暇なく答えた。
「それじゃぁ、お願いしようかな。知り合いがいると、心強いし」
「じゃぁ、決定な。でも、仕事見つけろよ、お母さん、心配すっからな」
一朗じゃ満面の笑みを作ると微笑んだ。
「あ、うん」
これが、ケイトの巻き起こす『ミラクル』の始まりである。富樫一朗との、ミラクルの……。