先輩と新人さん
可愛いけど、性格に問題のある子が入社してきた。
「先輩に虐められました。悲しいです」
泣きながらそう言われれば、ころりと信じる人がいる。
けれども、最初は信じてた人たちも時間の経過と共に、気付いてくる。
ミスをしたから注意されるのは当然だし、次回からは気を付けるものだ。
だけど、その子はミスを繰り返す。
彼女を擁護していた者がどんどん減っていく。
最初に彼女を苛めたとやり玉に挙げられた女子社員たちは、ざまあみろと思っていると思う。
だって、虐められたって言われて、信じた馬鹿な男どもは若さに嫉妬しているとか、結構陰口をたたいていたもの。
その子の本性がわかると、馬鹿な男どもは貝のように口と閉じるか、手の平を返すかだ。
「佐々木さんの言うとおりだった。使えない新人入ったね」
「カワイイで全部解決するって思っているのかよ」
女子社員たちは、男子社員のその手の平返しに辟易した。
「山田さんさあ、また間違ってるけど?なんでいつも間違うの?」
「すみません。気を付けます」
「気を付けるじゃないよ。本当」
男子社員で一人だけ、最初からその子に辛く当たっていた人がいた。その人の態度は周りが手の平を返したところで変わらない。
「君さ、やばいよ。首になっちゃうよ」
彼はきっぱり言う。
「嫌です。頑張ります」
「頑張る?何度同じミスしているの?本当に頑張ってるの?」
彼は容赦ない。
そうして、彼女は自分からとうとう辞めてしまった。
「清々したあ」
女子社員のほとんどがそんな気持ちだった。
☆
「葉月。だからお前には無理だっていっただろ?」
「お兄が虐めるからだよ」
「虐めてないよ。教育だ」
「仕事ってこんなに難しいだね」
「そうだよ。お前に無理だって。諦めて、俺と結婚しなさい」
「お兄と?従兄妹同士って結婚できるの?」
「できるよ」
ある日、私は彼がその子といるのを見てしまった。
どうやら、二人は従兄妹同士で、彼はわざと彼女に厳しくしたらしい。
もしかして嫌われるように差し向けたのも彼だったのかな。
そういえば、ミスの仕方、おかしかったよね。
彼は彼女にとても優しい目を向けている。
会社ではとても見れない彼の表情だ。
そうか。
そうだったんだ。
私は、その子とほとんど接触することはなかった。
ただ遠くから眺めていた。
だって、彼はいつも彼女の側にいたから。
私はただ傍観していた。
ああ、こんななら、告白しておけばよかった。
いちゃつく二人に背を向けて私は歩き出す。
とても苦い思いが込み上げてきて、苦しい。
「篠田先輩」
突然声をかけられた。
今話しかけてほしくなかったのに。
泣いている自分を見られたくなくて、後ろを振り向かず答える。
「何かしら。野木くん」
「これ」
野木くんはあの子の同期で、とても優秀な子だった。
彼は私の前に回りこんで、ハンカチを差し出す。
「い、いらないから」
なぜか泣いているところを見られたみたい。
恥ずかしい。
私は俯いて、ポケットから自分のハンカチを取り出そうした。
でもその前に彼が私の涙を拭う。
「篠田先輩。僕にしましょう」
「へ?」
「先輩が前田先輩を見ている時、俺はあなたを見てました。気が付かなかったでしょうけど」
何、言っているの?
「まずは一緒にご飯食べましょう。俺、美味しい店、知ってます」
失恋したその日、私は新しい恋を始めることになった。




