9話 ラーメン、そして帰宅
時刻は6時頃。
学校からの帰り道を二人は歩く。
裕は自転車を押しながら、日奈はなぜかドーナツを食べていた。あの紙袋から一人分、強奪したのだろうか。
しかしドーナツを食べている日奈を見て、裕は少し疑問に思った。
幼馴染目線から考えるに、日奈はドーナツのような甘い洋菓子が好きだったのだろうか。
「お前って、甘いもの好きだったか?」
日奈はごくんとドーナツを飲み込んで、
「うーん。最近、かも。好きに、なったのは……」
「そうなのか。それは金髪のやつに……」
「真夜ちゃん」
「ああごめん。真夜ってやつに会ってからか?」
「多分、そのときから、だと思う」
日奈はそう言いながら、ドーナツをまた一齧り。
しばらく歩いていると、一軒のラーメン屋を発見する。
「もう、夜だし、ここで食べるか?」
「うん。裕くんの奢りなら」
「はいはい。分かりましたよ、お嬢様」
「うざい」
日奈はそう呟くと、裕の横腹を一発殴った。
全然、痛くなかったが、わざと痛がるふりをする裕だった。
ラーメン屋の店内に入ると、豚骨スープの匂いが鼻孔をくすぐった。
日奈と裕はカウンター席に座り、メニュー表を見た。
この店は豚骨ラーメンが主流であり、店内にいる客の大半がそれを選んでいるようだった。
裕はサラッとメニュー表を見て、すぐに店員を呼んだ。
「俺はいつもので、日奈は何にする?」
「えっと、みそとん、かな?」
「じゃあ、みそとん一つ」
裕はいつもの流れで淡々と注文していったので、多分、この店の常連客らしい。
「お前がみそとんを選ぶとはなかなか、良い選択だな」
「えっと、なんとなく?」
「そのなんとなくが以外と正解なんだよな。で、俺が言ったいつものって何だと思うか?」
「もしかして?」
日奈が正解を言いかけた瞬間、注文した料理がぞろりと配膳されてきた。
みそとん、正式名称は味噌豚骨ラーメンであり、味噌と豚骨のスープがブレンドされた少しピリ辛なラーメンである。さらにはこの店のみそとんは普通のラーメンに使われている麺よりも少し太い、いわゆる太麺が入っていることが特徴だ。
日奈は隣に並べられたラーメンを見ると、同じラーメンのようだった。
「やっぱりいつものみそとんが良いよな」
「この店のみそとんは、美味しいの?」
「そうだな。お前って、辛いの好きだろ。だからちょうど良いんだと思うんだが」
裕は日奈が辛いものが好きだということを承知の上で、このラーメン屋を選んだのだろう。
日奈は目の前にあるみそとんの麺を箸で掬いあげた。
スープと絡んだ太麺、ところどころに赤い香辛料のようなものがちりばめられている。
日奈は一口食べると、あまりのおいしさに箸を止めることはなかった。結局3杯替え玉をしたところで、裕に「もう、金がやばいからやめてくれ」と言われ、食べ終えた。
裕は次からは2杯までにしようと、一人誓ったのであった。
*
ラーメンを食べ終えて。
途中で日奈は裕と別れ、帰路につく。
ゲームセンター、商店街、ドーナツ屋を通り過ぎ、駅の改札口をくぐった。
駅のホームで電車を待っていると、急に睡魔が襲ってきたが、何とか振り払う。
電車に乗り、4駅先まで進んでいく。
また駅の改札口を抜け数分歩いたところで、日奈が住むアパートに着く。
二階まで階段を上り、一番端の部屋にたどり着くと、鍵で扉を開けた。
部屋は1kの間取りで、一人暮らしには最適な間取りだった。
日奈の部屋にはベッド、机があり、物があまりない。
高校生になってから始めた一人暮らしも早一年。
一年経った一人暮らしなのだが、日奈にとってこの部屋は楽園のようなものだった。
ここにいれば誰にも邪魔をされることがない。
だけど最近思う。そう、やっぱりあの少女に出会ったことがきっかけ、だったのだろうか。
「一人は、なんか、寂しい……」
日奈は一人、部屋で呟き、涙が頬を伝った。




