7話 ゲームセンターにて
日奈は真夜と別れてから、泣きながら走り出していた。
本当のことを伝えることが出来たらどれだけ良かったのだろうか。そんな回りくどいやり方は良くなかった。
日奈は後悔の念に苛まれていた。
あの時、忘れ物を取りに行くと言わずに、学校を早退して学校に戻ることができないと伝えるべきだった。
だけど本当のことを伝えたとして、真夜はどう思うのか。他の人とは違うのだと軽蔑したのだろうか。他の人と違うことをしているのだから、ただ劣等感を覚えずにはいられなかった。
日奈はしばらく無我夢中で走り出して、気がつけば自分は駅前のドーナツ屋にいた。
ドーナツ屋の店内は駅前ということもあり、相変わらず混んでいた。
日奈はそんなドーナツ屋を眺めているとふと、ガラスに微かに映る自分に焦点が当たった。
自分の顔は泣いていた。
日奈は自嘲し、そして睨んだ。
その姿を見ていた客は肩をびくりとしていた。
日奈はすぐに頭を下げ、その場から立ち去った。
学校に帰るわけもなく、日奈はゲームセンターへと来ていた。憂さ晴らしするためだった。
ゲームセンターの奥には日奈がよく遊んでいる格闘ゲームがある。
元々昔から好きだったのではなく、幼馴染にそのゲームを紹介され始めてみたら、思いのほか自分にもハマったというわけだった。
気持ちが沈んでしまった時とか、よくゲームのお世話になっている。
なんせ現実では人に危害を加えることはダメなわけで、ゲームの中だったら許される。
日奈は人目を気にして、フードを深々と被った。そしてゲーム機の椅子に座り、100円玉を転がした。
右手はレバーをひっかけ、左手は6つあるボタンに添え、ゲームが始まるのを待つ。
ゲームが始まり、日奈の手は軽快に、滑らかにレバーとボタンを操作していく。まるで最初からどのように操作すればいいのかプログラムされているかのように。
敵キャラを倒してゲームセットしたら、また100円玉を転がし、またゲームを始めた。
何時間ぐらいしたのだろうか。気がつけば手が痙攣して、動きが鈍くなり始めていた。
次のゲームでもう終わりにしようと、100円玉を転がそうとゲーム機に手を伸ばす。
すると頭に急に衝撃が走る。
誰かに、叩かれた……?
日奈は頭を押さえられずにはいられなかった。そしてすぐに頭を叩いた正体を認識するため、後ろを振り返った。
高校生くらい男がいた。
男の眼光は鋭く、日奈のことを打ち抜くようだった。
「お前、何、学校サボってんだ」
男は少し怒りを露わにしながら言った。
日奈はため息をつきながら、
「え、何、裕くん?」
男の名前は裕。日奈の幼馴染だ。
裕は不満げに、
「いや、何、じゃねーだろ。お前、なんで昼から学校いなかったんだ?」
「いや、先生に怒られて、何かムシャクシャして」
「はぁ。お前は昔からそうだったよな。何でそこまで学校を嫌いに……。まあ、仕方ない、のか」
「用が済んだら、外に出て行って。私もあと一回したら、帰るから」
「そうか」
裕はなぜか日奈の隣の椅子に座った。
「え? 私とやる気?」
日奈の問いに裕は一回頷く。
「もし、俺が勝ったら、言うことを聞いてもらう」
「え? まあ、無理だと思うけど。いいよ」
「いい度胸だな。このゲーム教えてやったのは誰なんだ?」
「裕くんだけど。私の方が強い」
「そうかよ。もしお前が勝ったら、お前の言うことなんでも聞いてやる」
「そう。その条件乗ったわ」
二人はこうしてゲームで勝負することになった。
日奈は長時間ゲームしたので、動きが鈍かったこともあるが、なんとか勝つことができた。
「なんだよ。今の操作。見たことない動きだな」
「ふふ。隠しコマンド」
「隠しコマンドって。なあ、それ教えてくれないか?」
「だめ。だって裕くん、私に負けたから」
「なら、もう一回勝負だ」
「私、腕が疲れたから無理」
「まあ、また今度でいいや。とりあえず店出ようか」
裕の提案に日奈は頷いた。
二人はゲームセンターを出た。
ゲームセンターを出て、裕は自転車を取りに行った。
裕が戻ってきたところで、日奈は裕にお願いした。
「その、ある女の子と仲良くなるにはどうすればいい?」




