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真夜とトーラス  作者: 白糸モモ
2章ドーナツ・ロンド編
23/23

21話 ドーナツの共犯者

 ドーナツを賭けて宝探しをした日。

 日奈は真夜と隅が帰って来る1時間まで暇を持て余したので、先ほど出たドーナツ屋でコーヒーを一杯買って、外のベンチで飲むことにした。

 数分、ぼんやりと地面を眺めながら待っていた時である。

 誰かが日奈の目の前で立ち止まった。

 すらっとした黒タイツの足が日奈の目に止まる。

 日奈は顔を上げた。

 そこには黒髪の女の人がいた。目はオッドアイで片方は青い宝石のように輝いている。

 女は笑みを浮かべながらこう言った。

 

「隣、座っていいかしら」

「えっと、その……」


 日奈は少し動揺したが、すぐに縦に首をコクリと振った。


「そ、ありがとう」


 女は日奈の隣に座った。

 日奈は女が座ったのを見たのを確認してから、コーヒーを飲んだ。


「いきなりごめんね。隣なんか座っちゃって」

「ええ。別に良いですよ。このベンチは私の場所ではないので」

「そうだよね! このベンチ、片や、そのコーヒーさえも」


 女は急に日奈からコーヒーを奪いとった。それから少し飲んだ。


「んー。苦いね」

「なんで勝手に飲むのですか」

「いやー、何も言わずに奪っちゃってごめんね。お姉さん、のどが渇いちゃって」

「だったら、あっちにコーヒーとか売ってますよ」


 日奈はドーナツ屋を指差しながら言った。


「君はいつだって優しいんだね」


 女はそう言いながら、日奈に封筒を渡してきた。

 日奈は訝しそうにその封筒を見た。


「これは何ですか?」

「現ナマ」

「やめてください……」


 日奈は封筒を突っぱねた。


「いやー。私に返されても困るね。これは君の父親からのものだよ。生活の足しにしなって」

「そ、そですか」


 日奈は渋々受け取って、すぐバッグに入れた。

 それを見て、女は少し笑った。


「共犯者、だねー」

「え?」

「嘘だよ。それは本当に君の父親から預かったものでねー。何でもパチ屋で当てた金なんだ」

「汚い、お金ですね」

「ああ、そうだよ。大人はいつだって汚い」


 女はどこか遠いところを見るかのように言った。


「まあ、でもお姉さんはそんな汚い大人、嫌いじゃないよ」

「そうですか。お姉さんも、大人でしょ」

「ははは。やめてよ。私はこれでも19歳だから」

「そう、ですか。でも日本の法律上18歳から成人扱いですよ」

「そうだねー。日奈は真面目だねー」

「そう、ですね」


 日奈は少し動揺した。


「ねー、日奈ちゃん。気づいているでしょ、私の正体」

「し、知りません」

「日奈ちゃん、君も嘘つくんだ」


 女は少し睨みつけるように言った。

 日奈は少し怯えつつ、下を向いた。それから口を開いた。


「真夜のお姉さんで、名前は真昼さん」

「そ、正解!」


 真昼は嬉しそうにパチパチと手を叩きながら言った。


「それで真昼さん、私に何の用ですか」

「そうねー。私さ、もうじきこの町から出ようと思うんだ」

「そうですか」

「あら冷たいね」

「冷たいのは、そっちですよ。何年も連絡してくれないって思ったら、いきなり現れて。あなたは何なんですか!」


 日奈は真昼に訴えかけるように言った。

 真昼は少し考えた様子で、


「まあ、落ち着いて。私、この町を出る前にいくつかやり残したことがあるんだよ。それを日奈ちゃんにも手伝ってほしくて」

「嫌です」

「ええ。まだお姉さん何も言っていないよ。大丈夫だって」

「大丈夫って。私、お姉さんのこと、あまり信用できないです」

「ははは。随分私も嫌われたものだ。まあ、まずはごめんね、今まで連絡できなくって。いろいろ家の方でごたついていたの。まあ、私が何とか解決できたんだけど。それで日奈ちゃんのこと探していたら、たまたま見つけちゃってさ」

「そうですか。でも私手伝いたくないです」

「そう。じゃあ、こっからは私の独り言だと思って聞いてね」


 真昼は空を仰ぎながら語り始めた。


「私は今まで壊してしまったものを元通りとまではいかないけど、治したいんだ。私の妹のこと、それから日奈ちゃんの家族の件とか。何もかも元通りにして、そして私は消える。私は皆を笑顔にするためには犠牲にならなくちゃいけないんだ。いつだって私はそうしてきた」


 日奈は真昼の言葉を聞いて少し心配そうに声をかけた。


「真昼さん、すべて解決したら、死なないよね」

「まさか。流石にそこまではしないよ。あ、私の独り言、聞いていたんだ」

「いや、元々私に聞かせるため、ですよね」

「そ。まあ、だからこそ日奈にしてほしいことがあるんだよ」

「……何ですか」

「聞いてくれるんだ。優しいんだね」

「いや、そんなつもりは。でも、私は真昼さんを助けたい」


 日奈の思い、それは真昼に対する憧れというものも少し孕んでいた。


「ありがとう。その気持ちを聞けて、お姉さんも嬉しいよ」


 真昼は嬉しそうに微笑みかけた。


「じゃあ日奈にやってほしいこと言うね」


 真昼は日奈に語りかける。

 それを聞いた途端、日奈の表情は曇った。

 それは日奈が実家に帰ることだったからだ。


「お姉さん、なんで私が帰らなければ。帰りません、私」

「そう。帰らないか。まあ、私がそうお願いしなくても、多分強制的に連れ戻されると思うよ。それに傷つく前に帰ったほうがいいよ」

「私が傷つく?」

「うん。きっとそう」

「断言できるんですね」

「うん。きっとそうなるから」


 真昼はベンチから起き上がった。


「じゃあまたね。次会うときは、多分、お別れを言うときかな」

「そう、ですか」

「あと最後にもう一つお願い」

「なんですか」

「その、紙袋の中身くれない?」

「そ、それは」


 日奈が動揺する間に、真昼は紙袋を搔っ攫い、中身を取り出した。

 中身はドーナツだった。

 真昼はドーナツを半分に割った。


「待って! それはだめ!」

「はい、あーん」


 日奈にそのドーナツを食べさせた。


「ほ、ほへはん?(お、お姉さん?)」

「はは!」


 真昼は笑って見せてから、残りの半分ドーナツを食べた。

 真昼はペロリと口を舐めると、


「私たち、共犯者だねぇ~」


 といたずらっぽく微笑みかけるのだった。


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