2話 不良少女
校内の桜が散って、葉桜が埋め尽くす季節。
日奈は生徒指導室にいた。
目の前にいるのは担任の大泉。長い黒髪を一纏めにし、ぴしゃりとスーツを着ている若い女性教師だ。
対して日奈という女子高生は、着崩した学校指定の制服シャツの上からダボダボのパーカーを着ていた。
そして日奈は退屈そうな顔をしながら、大泉の話を聞いていた。
大泉はこう話を切り出してきた。
「日奈さん。なぜあなたがこの教室に呼び出されたか、分かりますか」
「それは、その……」
「あなた、この前のテストで5教科全部、赤点だったでしょ」
「はい、そうですね……」
日奈はしぶしぶ頷いた。その間、大泉には一切目を合わせようとしなかった。
そんな態度を取っていたから大泉は少し怒りを露わにしながら、
「日奈さん、ちゃんとこっちを見て聞きなさい。これはあなたの問題、なのですよ」
「別に、成績が悪くったって、良いじゃないですか。私、別に、学校なんか興味ないです。ただの暇つぶしみたいなものなので」
日奈は大泉の言葉に対して不服そうに答えていた。
大泉はそれを聞いたわけか、心配そうな目をしていた。
「このまま成績が悪いと、保護者にも来てもらわなきゃいけません。それでもいいですか」
「良いですよ。どうせ、私の親なんて……」
日奈は言いかけて、やめた。
大泉はまたもや心配そうな目で見つめていた。
「日奈さん、その、親とは、何かあったのですか」
「別に何もないですよ……」
日奈は親とはそこまで仲良くなかった。というか親からは完全に見放され、今では放任主義を取られている。
そんな日奈の状況について露知らず、大泉は質問をした。
「誰からかいじめを受けていませんか?」
「別にないです……」
「そうでなくても何か、悩みなどないですか?」
「別に、ありません」
日奈は大泉から繰り出される質問の数々を聞き流していた。まるで他人事であるかのように。そして何事もないように答えていた。
「そ、そうですか」
大泉は困り果てるように言った。そして少しため息をつき、黙りこくっていた。
そんな沈黙する大泉に耐えかねた日奈は、席を立ちあがった。
「先生、もう、行っていいですか」
「ちょっと待ちなさい。まだ、話は終わってないわ。これからどうしていかなければならないか一緒に考えましょう」
一緒に考えている時間なんて、そんなの無駄だと、日奈は思ってしまった。
だから日奈は話を早く済ませるように、
「先生、それは、私がこれからちゃんと勉強するから、でダメですか」
「それでは根本的な解決になっていません。私はみんなが安心して学校生活ができるようにする義務があるのです。だからこそただ、成績が良くなっただけじゃ、問題の解決にはならないんだと、私は考えます」
「そうですね……。私には理解できません」
大泉が言っていることが決してすべて間違いだと、日奈は思わなかった。ただ、納得していない自分がいた。
「今は私の言葉が分からなくても、いずれ分かるときが来るはずです」
「そうですね。先生、失礼します」
日奈はお辞儀して、生徒指導室を後にした。
一人生徒指導室に取り残された大泉は閑散とした空間で、一人ため息をついた。
そして日奈という生徒が抱える問題にどう立ち向かえばいいのか分からなかった。
大泉は一人取り残された生徒指導室で、考え続けた。




