16話 あなたじゃない、なら、忘れて
ドーナツを探す宝探しゲームを初めて1時間後、真夜は日奈の元に帰ってきた。
真夜は元気よく手を振りながら、
「ねえ! 紙袋全部見つけたよ。って二人とも、何か、暗くない?」
真夜の目の前にいる二人、日奈と隅はどこか気まずそうにしていた。
「え、っと、なんというか……」
日奈が何か言いかけた途端、隅は遮るように、
「七瀬さん、なんでもありませんわ。私たちちょっと、疲れてぼーっとしていただけですわ」
「そう? なら、いいんだけどさ」
真夜は隅の言葉を理解したかのように納得していた。
「それよりさ、二人とも、紙袋はすべて見つけたよ!」
「えっ、マジ……」
「日奈、信じてないみたいだね。でも、見つけたものは、見つけたんだよ、ほら!」
真夜は後ろを指差した。
そこには紙袋がいっぱい詰められた自転車のカゴ、それとなぜか裕の姿がそこにはあった。
日奈は驚いて、「なんでいるの!」と聞いた。
裕は気まずそうに、
「いやー。真夜に捕まったというか。なんというか」
「というか、裕くんは手伝ったの?」
「うん。手伝ったよ」
「それ、反則、だから!」
日奈はポカポカと裕を叩いていた。
裕は「ごめん、ごめん」と申し訳なさそうに謝っていた。
真夜は日奈を「まあ。まあ」となだめていた。
「あの、そろそろ本題に入らないかしら」
隅はそう言って話を切り出した。
「七瀬さんが紙袋をすべて集めたということは、ドーナツを見つけたってことでいいかしら」
「えっと何というか……」
真夜はそう言って、なぜか首を横に振った。それから衝撃の事実を告げた。
「ドーナツなんて、なかった……。どこにも?」
そんな言葉を聞いた隅は「どういうことかしら?」と首を傾げた。
「えっとね、紙袋は全部見つかったよ。でもね、どの紙袋にもそれらしきものが入ってなかったんだ」
「どこかで落としたのかしら?」
「うーん。というか、紙袋の中には紙切れが入っていたんだ。まあ、裕が破っちゃったんだけど」
「紙切れ……。そう……。それなら椎名さん、あなたから真夜に聞く事あるんじゃないかしら?」
隅はそう言いながら、日奈に話を振った。
日奈は「うん」とコクリと頷き、真夜を見た。どこか緊張しているかのようだった。
そんな日奈の姿を見て、真夜は何を聞かれるのかドキドキしながら、言ってくるのを待った。
そして日奈は口を開く。
「小麦畑で私を捕まえて」
そう、この言葉は紙切れに書かれていた言葉と一緒なんだと、真夜は日奈から聞いた瞬間気づいた。
紙切れのことなのだと気づいたのだが、それでも真夜はどう言えばいいのか分からなかった。
「日奈、その、なんというか。ごめんね、私には、分からない。その言葉の意味」
それを聞いた日奈はどこか落胆したかの様子で見た後、
「ごめん、真夜ちゃん。あなたじゃない、なら、忘れて」
涙が頬を伝っていく。そう、自分は悔しくてたまらなかった。
夢の中の少女が真夜じゃなかったから。
だとしたら、あの夢の少女は真夜に似たもっと別の誰か、なのだろうか。
「私、もう、帰る」
日奈はそう言いながら、涙をぬぐいながら、帰っていった。
残された三人はただ、日奈の後ろ姿を眺め、呼び止めるしかなかった。
「えっとー。私が悪いよね?」
真夜は申し訳なさそうに言っていると、隅は、
「いいえ。あなたは別に悪くないわ」
「それ、私を慰めているわけ?」
「慰めでもないのかしら。椎名さんが言う夢の中の少女があなただったら、変わっていたかもしれないわね」
「どうだろうね。もし私が、そうだよって嘘でもついたら、日奈は多分、今よりも傷つくと思うよ」
「そうね」
真夜の言葉に対して、隅は否定することはなかった。
「まあ、気にせず私たちは、明日からもいつも通り友達として接すればいいと思う」
「そうね」
日奈の言う『小麦畑で私を捕まえて』の意味を知らないまま、真夜も帰路につくのだった。
と、真夜が帰ろうとしたとき、隅がビニール袋を手渡して、
「これ、すき焼き用の肉だから、あなたにあげるわ」
「え? これって商店街の?」
「そう、私には必要ないから、あげるわ」
「ありがとう、隅。今度、お礼するよ」
隅は真夜に手渡してから、どこかに電話をしながら去っていった。
見送った真夜は裕の方を見て、
「裕。まあ、お疲れ!」
「ああ」
「あんた、日奈を泣かせるんじゃないよ」
「ああ。分かっている。お前もな」
「当然だよ。ところで、私思ったんだけど、アンタって日奈とどういう関係?」
「え?」
真夜に聞かれ、少し驚いたように裕は声を漏らした。
そんな動揺する裕の姿を見て、真夜はからかうように、
「もしかして、日奈の彼氏?」
「ち、違うわ!」
裕は少し顔を赤くしながら言った。
「へー。本当に?」
「ああ。ただの幼馴染だ」
「ふーん。そっか。ただの幼馴染ですかー」
「ああ。それ以上の関係でもない!」
「ふふ。そなんだ。まあ、いいか」
真夜はからかうように笑う。
「俺等も帰るか」
「うん。そうだね」
それから裕、真夜もそれぞれの帰路についた。




