15話 もう、どうでもいい
隅はドーナツ屋でコーヒーを注文して、受け取り、また日奈のところに戻った。
日奈はもうすでにコーヒーを飲み終えたらしく、ズルズルと何もないカップの中身を退屈そうに啜っていた。
隅は日奈の隣に座って嬉しそうにしていた。
「えへへ。買ってきましたわ」
「えへ……」
日奈は愛想笑いをした。
隅はストローでコーヒーを啜り、「やっぱり、苦いですわね」と、渋そうな顔をして、砂糖を入れていた。
時刻は午後6時を回っていた。もうじき真夜が宝探しゲームから帰って来るころだ。
隅は真夜が戻って来る待ち時間の間、チビチビとコーヒーを飲んでいた。
一方日奈はというと、近くにあったゴミ箱へ、コーヒーのないカップを、まるでバスケをするかのように投げ入れようとしていた。しかし思うようにゴミ箱に入って行かなかったらしく、日奈は不服そうにしていた。
それを見ながら少し、可愛いと思ってしまう隅だった。
そんな時、隅はふと何かを思い出したかのような顔をしたら、こんな風に話を切り出した。
「椎名さん。七瀬さんが戻ってくる前に一つ、お話がありますわ」
「そう。真夜ちゃんが戻ってきてからじゃ、だめ?」
「ええ。今、じゃないとだめです」
「うん。わかった」
日奈はコクリと頷いた。
隅は話を続けた。
「そうですね。椎名さん、ワタクシ達が初めて会った日のこと、覚えてますか?」
「え、まあ、うん」
「そう、ですか。それで一つ私があなたに質問しましたよね。あなたはこのお菓子の本当の価値を知っているはず、だと」
「え、何のこと?」
「今、はぐらかしても意味ないですよ。ワタクシ、あの後、椎名さんの素性について調べさせていただきましたわ」
「えっと、その、な、なんですか?」
「まだ、そういうつもりですか? ですから、ワタクシは椎名さんのことを調べさせていただいてます。あなたの過去について」
「やめて」
日奈は日奈は日奈は日奈はそう言いながら、耳を塞いだ。そして急に泣き出した。
過去なんて日奈が最も聞きたくないことだったからだ。
「安心してください。別に中学校の話をしようとかではないです。そうですね、あなたの出自についてです」
日奈は耳を塞いでいた手を下ろした。そして顔を上げるとと隅は安心させるかのような微笑みを零していた。
「やっと質問に答えてくれそうですか?」
日奈は一回頷く。
「そうですか。それであなたの出自について調べさせていただいたんですが、あなたどうやらワタクシと同じ境遇のようですね」
「うん」
「そうですか、やっぱり。それで今は、訳あって一人暮らしをしている。それは中学の時の……」
「中学の話はだめ!」
「すみません。これ以上は言いません。ですが、なぜあなたはそんな裕福な生活を捨ててまで、今の生活をしているのですか? しかも今の一人暮らしは誰からも援助を受けていないんですよね?」
「うん。それは一人暮らしする上でのルール。そう、私が決めた」
「そうですか。ですが、このままその生活が続けられるわけがありません。いつか破綻します」
「そんなのは分かっている。バイトも何個も掛け持ちしているけど、食べるのがやっとだってことも」
日奈はそう言いながら、俯いた。
そんな日奈に対して容赦なく、隅は言い続けた。
「だったら、元の生活に戻ればいいじゃないですか!せっかく良い生活ができるのに!何、自分は金持ちが嫌いですか!あなたにそれだけは……」
「もう、どうでもいい! 私は、もうどうでもいいよ、何もかも!」
日奈はそう叫んでいた。そして目で何かを訴えるかのように。
隅は冷静さを取り戻したかのように言った。
「そうですか。ですが、このままだと何か悪いことが起きるかもしれません。起きてからじゃ、もう、遅いんですよ」
「そう、でも、私は、もう……」
日奈はため息をついた。そして声を零す。




