11話 キャッチャー・イン・ザ・ウィート
金色に輝く小麦畑に、白いワンピースを着た金髪少女がいる。
目の前にいるというのに、自分は少女を捕まえることができなかった。
なぜなら少女の美しい金髪が小麦畑で消え去ったから。
「おーい! こっちだよ。日奈」
そんな風に自分の名前を、少女は笑顔で言った。
少女の年は10歳くらいだろうか。
そして自分の手、足を見回して、頬を触ってみる。
ああ、自分も少女と同じくらいなんだ。
自分は少女を捕まえようと小麦畑に入ろうとするが、入る前に急に足がすくんで、その場に座り込んでしまった。
金髪の少女は私に言った。
「日奈。なんで私を捕まえないの? 私はここにいるよ!」
「えっと、あのね、その、小麦畑に勝手に入るのはだめだよ」
金髪の少女は首を傾げた。
「日奈はおかしなことを言うんだね。大丈夫だよ、だって、ここは……」
金髪の少女が何か言いかけた途端、急に自分の肩を叩く人がいた。
自分は振り返って正体を知る。
スーツ姿の青年が一人いた。相変わらず、第一ボタンはつけておらず、ネクタイもない。
あれ? なんで、あなたが……。
「あ、兄さん」
「日奈。ダメじゃないか。父上に怒られるぞ」
*
日奈はハッとなり、すぐに飛び降りるように目が覚めた。
さっきのは夢、だったのかな……。
夢にしてはどこか懐かしい風景があった。その懐かしい風景には金髪の少女がいて……。あれ、なぜだろう。自分は、あの少女の顔が思い出せない。少女のことを知っているはずなのに、なぜなんだろうか。
日奈は府に落ちない様子のまま、ベッドから出て、学校へ行く準備をし、家を出た。
*
放課後になって、日奈はドーナツ屋にいた。
最近、ドーナツ屋に行くことが多くなっていた。
特に、この二人とドーナツ屋に行くことが多かった。
一人は金髪の少女、真夜だ。初対面だった私に気軽に声をかけてくれた優しい子。
もう一人はツインテールの少女、隅だ。隅は言動が何やら何までお嬢様という印象だった。
そんな二人はなぜか同じドーナツの取り合いをしていた。
私は呆れながら、この人たちは他人です、という風な振る舞いをしていた。
「それ、私のだから!」
「何を言っているのかしら。これはワタクシのものですわ! あなたさっきワタクシよりも多く食べていたではありませんか!」
「それは隅のほうだって!」
「いいえ、ワタクシはそんなに食べていません! 七瀬さん、あなたの方がワタクシの皿から横取りしたではありませんか!」
「何を……」
「グぬぬ……」
そんな風になぜか喧嘩をしている二人であるが、この二人はドーナツでここまでIQ下がるものなのだろうかと、日奈はため息をついた。
「あの、そんなにドーナツ食べたいんだったら、真夜ちゃん、私のあげるよ」
「ええ! いいの!」
「うん!」
「ちょっとお待ち!」
隅が割り込んできた。
「それもワタクシのものかしら」
「何を言っているの、隅。これは私が日奈からもらったものだから」
「いいえ。この世の甘いものはすべて、ワタクシのものですから」
「ぐ、この、悪役令状! 強欲め!」
「そう言ってもらっても、構いませんわ!」
二人はなぜか一歩も譲らない様子だった。
日奈はもうめんどくさいと思い始め、二人から急にドーナツを取り上げ、
「二人とも、もう店でるから!」
と言い放ち、先に店を出た。
二人は、「「ちょっと待ってよ!」」と言いつつ、一緒に店を出た。
店を出てから日奈は、二人にこう告げた。
「二人ともそんなにドーナツ欲しいなら、宝探ししよう!どっちか先にドーナツを見つける。見つけた方が、ドーナツ食べることができるってどう?」
日奈の提案に二人は一瞬呆気に取られていたが、
「いや、まさかそんなこと考えていたなんて、何か面白そうだからいいよ」
と真夜は言い、
「仕方ないかしら。ドーナツのためでしたら、ワタクシもやりましょう」
と自信満々に隅は言った。
ドーナツの取り合いから、宝探しに発展した勝負。まさかあんな風にドーナツがなくなってしまうとは……。
「とりあえず私に10分ちょうだい。隠してくるから」
日奈はそう言いながら、ドーナツの入った袋をかっさらい、駅の方へと走っていった。




