通行証たる指輪
一行は、ともかく一方向へと進む。
…が、一向に出口は見えず、人はおろか生物さえも見当たらない。
建物?の造りと列をなして歩いていることから、小綺麗な遺跡を探検しているような気分になる。なんともいえない薄気味悪さもあって絵にはなりそうだよな。まあ、実際のところはこちらに旨味は無いからただただいい迷惑なだけなんだが。
「たまには良いよな。こういう景色も」
先頭の櫻院が前を向いたまま言う。
「こんなのキャラじゃないんですけどね」
もっともなことを言ったのは神吊。だが口ぶりの割には厭がっているようには見えない。気が浮ついてないといえば全員が嘘になるのだろう。俺だって少しはそういう気がある。
「…何か音がしていないか?」
「するか?」
熱田の言葉に櫻院が否定的に返す。
「いや、してます」
即座に神吊が口を挟む。
…本当だな。金属が擦れるような音だ。しかも、音源は段々と近づいてきている。
「おそらく、何かが近づいて来てる」
一応、気付きを共有しておく。
「ええ、そうですね… どうしますか? …どうしましょう?」
神吊の声も何処か不安げだ。その台詞は俺達の心情をよく体現しているといえよう。
どうすると言われてもな… なるようにしかならないだろう。
…こんなものは、もはや思考放棄に近しい考え方だが。
「今のところ、音がするのは前からだけだな?」
大した内容を有していない思考は、櫻院の声に切断された。やっと物音が聞き取れたらしい。
「ああ。今のところはそのようだ」
第一発見者が、極めて落ち着いた声色でその問い掛けに応える。大して焦りなどは見えない。余裕そうな様子だ。
ふと右腕にぬくもりが伝わる。
「うぅ……」
ほのかな暖かさと、消え入りそうな声を受けて振り返ると、半泣きのひかりが袖を両手で掴んでいた。確かな小刻みの振動が伝わってくる。
何故に俺…って二つ後ろの奴も挙動不審だったな。となると消去法で俺が選ばれた訳だ。
「おうおう、仲良しじゃねぇか」
先頭から、からかう様な調子で笑いかけられる。
「まあ、いきなり襲われたりはしないだろうよ。何かあったらとりあえず来た道を引き返せ」
「…袋小路に陥らないか?」
そちらにはさっきまでいた小部屋があるだけで、出口は無かったはず。罠に掛かった鼠宜しく一網打尽にされるのは御免だ。
「梯子っぽいのが上の方に掛かっていた。部屋には光が差し込んでいただろう?」
確かに光が差していたなら、ここが地下室だとしても地上は近いはずか。梯子を登れたとしてもどこに行き着くか分からないが、どのみちそのくらいの手しか無いだろう。これといった策が出ないのは、仕方の無いことだ。
「あの、なにかあったとして、走って振り切れる計算なんですか?」
建築物の構造を考えていたところに、ひかりが現実的な質問を投げかけてくる。
…ガックガクじゃねぇか。確かに不安になっても仕方ない状況だがそこまでとは。お化け屋敷に入っている訳じゃあ無いんだぞ。今でこんなんなら、なんかあったら卒倒してしまうんではなかろうか。
「常識…かは分からないが、この分なら初っ端から、足の早い奴が出てくることは考え難いだろ。…多分」
保険は掛けておいたが、始めから強くて逃げることも出来ないなんてことは無いと信じたいところだ。我ながら現実を見れていない感じがするがな。
「……」
ひかりは不安げな表情のまま、こちらの腕を両手で強く握りしめ、顔を伏せて黙ってしまった。こんなじゃあ逃げ遅れそうだな。 …まあ、なんとかなるだろ。根拠は全くもって無いけどな。
「もう近い」
熱田が声をひそめて囁く。
「一旦止まろうか」
櫻院が大して声量を抑えもせずに宣言する。
通路の曲がり角の奥から金属が擦れる音が段々と近づいてくる。音源は角を曲がってきたところで収まった。
人影が三つ。遠くてあまり良く見えないが、絵に描いたような鎧を着込んだ西洋の騎士か兵士の様な格好をしている。これはフルプレートってやつだろうな。顔は距離のせいもあるが、それ以前に鎧の奥に隠れていて見えず、表情は窺えない。
三人のうちの一人が、先頭の騎士の指示を受けたらしく、道を引き返す。
あとの二人は小走りでこちらに向かってくる。近づいてきて分かるようになったが、当然ながら完全武装をしている。さっきの騎士は報告に行ったのだろうし、俺達の存在が全体にばれるのも時間の問題だろう。平和的に行けばいいが…
…というよりかは行かねば詰む。現状、武器すら持っていない訳であるのだし。
櫻院が一歩前に出る。こいつの肝の据わりっぷりは称賛に値するな。
騎士は俺達の眼の前で立ち止まった。
一瞬の静寂の後、彼はその容姿に似つかない不釣り合いな日本語で流暢に言葉を発した。
「いきなりで申し訳ありませんが、上層部より指示が出るまでの待機場所として広場まで出てきていただけませんか。ご案内致しますので」
「とりあえず、状況を教えてもらえないか?」
その言葉には答えることなく、櫻院が訊ねる。
「はっ、我々には詳細は伝えられていませんが、我が王国も他国と同様に召喚の儀を行ったとのことです」
騎士は要請を無視された事を怒る様子もなく、礼儀正しく答えた。
色々すっ飛ばされている気もするが、まあ、我々が召喚された人間ということだろうな。他国ということは他にもかなりいたりするのかもしれないな。
「広場に行く。とりあえずその方向で良いか?」
櫻院が振り向いて、賛同を求める。
「他に手もない様だし今はそれで良いんじゃないか?」
熱田の言葉に異を唱えるものはいない。神吊は頷き、ひかりは俺の腕を強く握りしめ、存在感のない寿は肯定も否定もしない。
「じゃあそうしましょうか」
神吊の言葉を受けて場は纏った。
「案内を頼む」
「はっ、承知いたしました。こちらへ」
二人の騎士に案内され、広場に向かうこととなり、八人が一列となって通路を歩き出した。
前置きが長くなりましたが、次回が勇者紹介といった形になります。




