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六輪の迷い人

 その癖っ毛がよっこいせ、とでも聞こえてきそうな感じで体を起こした。

制服に…パーカー?なんつう格好だ。

学生か。十中八九校則違反の。


「ええとですね。私達もよく分かりません。」

 すみませんね、と神吊が軽く手を合わせる。


「とりあえず、全員起こそうって状況だ」

 一応補足説明をしておく。


 あとの二人は…、ってもう一人はこちらを見ているな。いつからだったのだろうか。


「…何事ですか?」

 声の主は黒髪に円縁の眼鏡をしている。白色のシャツに黒いズボン、という完璧なまでにモノクロで纏められた身なりだ。


「見ての通り…とでもいうべきか?」

 さらっと問われ、答えに窮して適当に返す。考えも無しの方の適当に、だ。


 彼はその答えに軽く頷き、思案している。

 …そんな答えで良かったのか?


 とまあ後は一人だけ…と見ると最後のお寝坊さんは二人に挟まれ、神吊につつかれている。


 こちらが近づくと、

「…起きませんね」

などと言う。


 ……お前、遊んでいるだろ。


 …こいつも制服を着ている。

 更に言えば神吊も。さっきは気が付けなかった。それだけいっぱいいっぱいだったということか。


 もう一人の制服、もとい、非行生徒は少し離れたところで縮こまっている。


 …それにしてもきれいとでも表現されるべき顔だな。

五人もの知らない人間に寝顔を観察されていると考えると少し可哀想にも思えてくる。…まあ若干一名は実質見ていないが。

 中性的で深い黒の髪を持つ。髪留めでもくっつけてやりたいな。きっと悪くない出来になるだろう。本人は迷惑だろうけどな。


「そういえば名前、まだ聞いてなかったんじゃないか?」

 金髪…強そうな名前の奴…誰だっけ?


「…俺はアツタです。あなたたちは?」


 各々がもう一度名前を述べる。

 …ああ、あの金髪は櫻院か。仰々しい名前なことで。


「…で、あなたは?」

 アツタ、熱田か? が声を掛けると離れた場所にいた黒髪が、びくっと顔を上げた。


「あ…と……コトブキで、す…」

 そう言うと逃げるように顔を立てた足の間に埋める。


「あっ」

 時を同じくして神吊が声をあげる。

ふと見るとあの中性的な奴の眉が動いている。


「ひびきさん、起きそうですよ」

 今度は遊ばずに、しっかり真面目に言った。


 半分開いた目と視線が合う。

 そして一気に目が見開かれる。目の色もしっかり色黒だな。


 どうやら、夢から現実世界に帰ってきたらしいコイツはいそいそと起き上がり、足を崩して座った。

「…何が起きているか分かりますか?」

 顔には困惑の色が浮かんでいる。


「すみませんが分かりません」

 神吊がまた、当然の答えを返す。手を合わせて謝る意思を示すのも忘れない。


「でもそろそろ分かるんじゃないか?」

 櫻院が待ちくたびれたといったように割り込んできて言う。


「全員起きたことだしとりあえず今後の方針でも話し合おうぜ」


 とりあえず全員が集まった。…若干一名は離れているけどな。


「率直にこの状況はなんだと思う?」


「どこかの世界に転送されてきた、なんて事でしょうか。ベタですし、なによりも、非現実的ですが」

 神吊が全員が思っていそうなことを代表して言う。


「やっぱりそんなところだよな」

 櫻院は何やら満足げに肯定した。


 …この状況を楽しんでいるのか?こちらからしたらいい迷惑だよ。


「もう少し現実的な話だと実験…とかですかね」

「そういえばあなた、名前は?」

 控えめに口を挟んできた黒髪その3に神吊が聞く。


「ヒカリです。よろしくお願いしますね」

 名乗った声に被せるようにして櫻院が

「だとすると色々変だよな」

と言う。


 まあ、実際に変なものを見た訳だしな。

 この指輪が…って、ちらっと周りを見やるとやっぱり見える範囲の手には指輪が嵌っている。


 考えることは同じのようで周りの連中も指輪に注目している。指輪の色は色とりどりだ。作りは同じと言って良さそうだな。


「やっぱり指輪か?」

 熱田が沈黙を破る。


「そのようだな」

「ええ、そういうことでしょうね」

「同じく」

「…一応、そう、です」

「一緒です」

 自分自身を含め口々と肯定する。こいつらも子供じみたところがあるんだな。こんな、一昔前の小児向けの玩具が少し高級になっただけみたいな指輪で遊ぶとは。まあ、俺も同じ事をしたから仲良くここに仲間入りしたワケなんだが。


「ますます釈然としないな。皆は神でも見たか?」


「見てないな」

と櫻院。


「だったら分かりやすくて助かったんですけどね」

 後を引き受けた答えた神吊も困り顔だ。


「魔法陣でもあればほぼ確定だったんでしょうが…」


「他に言えばデスゲーム、とかか?」

 思いついたことを述べてみる。


「うーん、どうでしょうね。個人的にはやめてほしいのですが…」

 ちょっと不吉なセリフだったか。


それに乗る形で熱田が

「それなら実験ってのもやめてほしいな。俺達は実験用のラットとでもいう訳か?」

 取りようによっては更に不吉なことを口走る。

 それは御免被りたいな。かなり不安に思えてきてしまったじゃないか。


「とりあえずここを出ようぜ。出てみればなにかわかるだろうしさ」


 櫻院の発言を受けてあたりを見渡す。コンクリート…いや石造りの部屋…いや空間というべきか。どこかに出口が流石にあるはずだろう。


「あっ…、荷物!!」

 ヒカリ…光か? とりあえずひかりで良いか。分からんし、聞いている暇も今は無さそうだし。が上げた声を受け、自分も半ば反射的に身の回りを弄る。何も荷物がない。背負っていたはずのリュックサックのみならず、ポケットの中の財布までも。気が付かなかったのは迂闊としか言いようがない。


 どこか緊張感の抜けたことを考えながら、段々とどこか恐怖心に近しいものがふつふつと湧き上がりつつあるのを感じる。


 手を忙しなく振り回し、わたわたとしていたひかりが不安げに振り向く。

「本当に大丈夫ですよね…!?」


 最早泣きそうになっているまである。そのおかげでこちらは落ち着きを少し取り戻すことが出来た。


「まあ、任せとけって。先頭は俺が立つからさ」

 …お前のその根拠のない自信はどこから出てくる。さっきまで少し不安げにしていただろうに。


 なんとも形容し難い空気感の中六人で崩れ気味な列を作る。


 先頭に櫻院、次に神吊、その後ろに俺、僅かに斜め後ろにひかり、正しい位置に熱田、最後尾は挙動不審な寿。


 素晴らしいまでにでこぼこな整列だ。


 振り返って確認すると無言で熱田が最後尾に移る。あいつが最後尾だと、気が付いたらいなくなっていそうだから正しい判断だろう。


「よし、じゃあ出口を探すか。はぐれるなよ?」

 櫻院の機嫌の良さそうな声を合図に遠足の小学生を何周りも大きくしたような面々は移動を開始した。

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